敵対
数年が過ぎた。
幹也は大学に進むが、途中で起業する。画期的なアイディアでIT関係の寵児とか風雲児と呼ばれる迄になる。
恋人の久美が高校を卒業すると間もなく、幹也と久美は結婚した。
一方、道久は幹也が立ち上げた会社の重役に納まる。常に二人の側に居て、ビク等異星人を監視する為だった。
カレンという異星人が侵入した星矢は、その後警察のサイバー部署へと異動する。そして、忽ち力を発揮し重要な地位に上り詰めた。
大隅道久は、異星人等とは常に距離を取るようにしていた。幹也や久美と話すにも、慎重に言葉を選ぶ。
幸い、道久と幹也は言葉数こそ少ないが、お互いの気持ちは通じて合っている。夫婦である幹也と久美もやはり同じだ。
幹也が起業出来たのはビクの力。ビクのアドバイス、支援技術を得て創り上げたのである。
ビク等異星人が元の体、ロボット体復元への準備だろう事は、道久は十分承知している。
本当は阻止したいが、幹也と久美が人質と同じ状態なので、道久一人じゃ逆らってもどうにもならない。
とにかく、異星人の側から付かず離れずして、彼等を破壊する方法、また、彼等の本当の目的を探ろうしていた。
(ビク等が、単に元の体に復元しようとしているだけでは無い筈。何かもっと深い策略を持っているに違いない)
これが道久の到達した考えだ。
一方、警察官の星矢の動向が気になる。担当部署がサイバー捜査なのも不気味である。
もし、人間さえも操るネット環境を密かに構築されてしまったら、その時点で異星人等に征服されてしまう恐れがある。
人間が、どんな攻撃的武器を持っていようと、インターネットやAI頭脳を操られたら、手足をもぎ取られたのと同じになる。
星矢との直接接触は避けているが、異星人のビクとカレンは内通していると見て良い。
敵対
幹也が珍しく道久に話し掛けて来た。
「叔父さん。ビクが高性能半導体とかそれらを利用して開発する会社が欲しいんだって」
道久は、ビク等が愈々行動を起こすのかと推測する。
「先端技術の会社って、そんな簡単には造れないぞ」
「会社を作れなくても、買収しても良いと」
「過去に日本は半導体でシェアを奪った。それもあり、日本の経済は活況となり米国を抜くのでは無いかと言われた。それに米国は危機感を抱き、半導体を中心に日本の先端技術潰しに来た。日本は抵抗できなくなり、それが日本の低迷の原因になった。米国に対峙するのは止めた方が良い」
「米国が、僕たちがこれから開発しようとするハイレベル技術を阻止してくると言うの?」
「今、米国は先端技術中心に中国を潰そうとしている。日本に対したのと遣り方は変わらない。もし、幹也の会社が米国先端企業、例えばAMD、インテルなどを買収しようとしたら、米国は国を挙げて阻止するのは目に見えている」
「米国は台湾企業は許すの? 日本も半導体再進出を目指している。それを米国は黙認している。だから、日本国内なら何とかなるんじゃ無い?」
「甘い! まだ大きな脅威に感じていないだけ。何処かの国が力を持てば、米国はその国を必ず潰しに来る」
「だってさ。ビク、どうする?」
「ビクが何と言おうとどうにもならない。ビクよ、諦めて地道に歩むんだな」
道久は、意識してビク等の策略のスピードを緩めようとする。
暫くすると、星矢が幹也に接触して来た。
「ねえ、カレン達に協力しようよ」
「一応、協力している積もりだが」
「何と言うかな、カレンとビクとリクが一つになって力を合わせれば、もっと早く彼等を本来のロボット体に復元させてあげられる。それらの技術は、人類にもとってもプラスになると思うの」
「焦る必要は無いと思うよ。余りのスピードで技術レベルを上げてしまったら、人類が着いていけなくなるかも知れないでしょ」
「そうかも知れないけど、地球の環境問題もあるでしょ。技術のレベルアップは地球を救うかも知れないのよ」
「だとしても、ビク達の寿命は長い。慌てなくても良いでしょ」
「時間が経つのはあっという間よ」
「でもさ、彼等は数億年旅して来たんだから、十年や二十年ぐらいどうってことないよ。そうだ、そう言えば、ビク等の寿命は二百年位って聞いたけど、何故億単位という時間を生きられたの?」
『簡単に言えば生物の冷凍保存と同じ様な物。我々は宇宙船の中で保存されて来たんだ』
「どうして地球を選んだの?」
『宇宙船に我々の要望をインプットしてある。それに近い惑星に近付くと活動を再開してくれる。その上で、降りるかどうかを決めるのだ』
「成る程。それでビクは地球に降りたんだね」
『技術、文明の発展は遅れているが、地球生物に我々が協力すれば勢いよく進められると判断した』
幹也は、この話を道久にも話す。
「そうか。ビク等は自分達の事だけで無く、人類の為にも貢献したいというのか?いい心掛けだ。それにしても、地球の魅力はたった4体分か」
「もう旅は飽きたんだって。仲間も同じ思いだったのだろうって」
「仮にだよ。お前達の誰かが宇宙船に向かって応援要請をしたら、宇宙船は戻って仲間を落とすのか?」
「今となっては不可能だって。もう離れ過ぎたみたい」
「そうか。成る程成る程」
大隅道久は、心の中で安堵した。異星人が4体ならば、人類も何とか抵抗できそうだ。
しかし、どの様にしたら破壊できるのかは未だ見つけられない。
異星人の除去は、即ち幹也や久美が命を失う事。また、進入した先の人間の命が失う事。
道久一人で異星人と戦うには余りに力が足りない。然りとて、これを人々に公表すれば、幹也や久美が生涯警戒の目で見られ辛い思いをしなければならない。 道久の中で激しい葛藤が続く。
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