第6話 やくそう、しゃいしゅのとき、ぼうけんしゃを、たしゅけましゅた。

 今朝は快晴。

 いつもと変わらない朝だ。

 フラットは、鼻先をドロドロにして食事をしている。

 今日の夕方には剣ができ上がるから、特に今日は注意しないと。

 戦うのに解体用のナイフと短剣だけになる。うん、十分気をつけよう。


「おはよう、ナギさん。今日の依頼ですが、昨日と同じ条件で、これをお願いできますか?」


 カウンターに置かれた紙には見たことのない薬草がある。

 オット草と言うらしいが、なにに使うのかと聞いてみればポーションの材料らしい。混ぜる薬草によって安いローポーションから高級ポーションにまで使えるらしい。ポーションって高いんだよね、この世界。

 じゃあ、これを取ってきますね、と常時依頼なので手続き無しでギルドを出た。


 生息地は西の森らしいけど、行ったことがない。

 地図を見せてもらったので場所は理解している。それなら、とフラットと一緒に肉体強化して走り出した。

 少し遠くて、森の入り口に到着するまで四十分くらいかかってしまった。

 すぐに取りかかろうと、森の入り口付近に立ちサーチする。


 <オット草サーチ>


 ポポポポポポ……


 おお、これエンドレスじゃないか! でもあまり奥までは行かれない。今日は武器が完全じゃないからだ。

 でもこのあたりはちょこちょこ魔物が出るので、余計に薬草採取をする人が少ないっていってた。どんな魔物が出るのかと聞けば、角ウサギやオオネズミ程度らしいので、フラットに探索を頼む。当然、気配探知を発動して数歩森に進んだ。


 おお、このあたりはたくさんあるな。

 根っこまで必要らしいので、順番に引き抜いてゆく。片腕で引き抜いて反対の手で持つ。そのうち持ちきれなくなったらアイテムボックスへ入れる。その繰り返しだ。

 今のところ魔物の気配はない。


 横に移動しながらサーチ結果を追いかけるように引き抜いてゆく。俺にとって薬草採取は楽しい仕事だ。なぜ皆やらないのかと思えば、面倒だとか移動は長いし取り分は少ないという。

 真面目に取ればそんなことないのにね。でも、魔物の素材ほどの金は稼げないのは確かだ。でも、俺もそこそこの魔物でお金稼いでるよ。まぁ、アイテムボックスがあるからだけど。アムルおじいちゃん様々だよ。ありがとうね、おじいちゃん。


 二時間ほど採取したら、百二十本くらいになってた。

 天気もいいし、少しやすむかな。


「フラット、ひとやしゅみ、しよう」


 くわん! と嬉しそうに書けてくるフラットが急ブレーキをかける。何がいる? と気配を感じれば角ウサギだ。それもかなりの数だね。

 森の入り口からこっちを伺ってるんだけど、このまま突進してこられると薬草がグチャグチャになるよ。

 それならこっちから行くか。


 森の入り口へと向かって歩いて行けば、首をかしげていたフラットは、理解したのだろう無言でついてくる。


「フラット。このあたりにしゅるかな」


 くわん! と泣いたフラットはお座りする。その隣りに腰を下ろした。気づかぬふりでクッキーを取り出してフラットの口に放り込んでやる。俺も一枚口にくわえた。


 ふふふ、そろそろ来そうだね。フラットに視線で合図すればゴクリとクッキーを飲み込んだ。

 カサッと音が聞こえて、角ウサギの大群が走り始める。

 来たな!


 振り向いてナイフを抜く。そして角ウサギの集団に相対する。ナイフで首を切り裂いてゆく。よく切れるからきれいに一カ所だけ切り裂いていける。うん、まあいい感じだな。


 フラットは、首筋に回り込んで首元をひと噛みだ。こっちもすごいね。角ウサギはたくさん狩ったので、狩り方は心得ている。

 十分ほどで半分にまで減らした。


 そして残りを狩る。これ、かなりの数になりそう。

 まとまって襲ってくれたので、まとめてアイテムボックスに入れられそうだ。これとっても便利だよ。早く終わらせて回収しないと他の魔物が血の匂いに引き寄せられてくるから。


 三十分経たないうちに討伐完了だ。

 フラットと二人で二十八匹の角ウサギを確保した。当然、アイテムボックスへ入れて、地面をクリーンで綺麗にしてからシートを広げた。

 二人で腰を下ろしてサンドイッチと水を味わう。とにかく喉が渇いた。サンドイッチはギルドの前にあるパンの屋台で買ってきたので、できたてだ。昼のためにとホットドッグみたいな肉を挟んだパンも買ってる。それは後のお楽しみ。


 サンドイッチを二個ずつ食べて水をゴクゴク飲む。ずっと動きっぱなしだったから喉が渇いていたんだろう。フラットも小さなボウルで何杯もお代わりしていた。

 シートを片付けて再びサーチする。

 小さな光を目指して移動を開始した。


 森の奥では、おそらく冒険者だろう戦っている男が聞こえている。かなり奥の方なので気にせず薬草を引き抜いてゆく。


 このあたりはずっと続いているので、横に向かって採取してゆくのだが、全部取ると残らなくなるので、一列おきに取っていった。まあ、雑草といえばそうなんだろうから、すぐに生えてくるけど、根っこごと取るから残しておこう。

 右へ行って再び左側へと採取してゆく。

 奥の方へいけば大きいものもあるのかもしれないけど、まだ森の奥へは入れない年齢なので、我慢だ。


 それから三十分ほどして、左側も採取し終わった。

 うん、今度は少し移動するかな。


 再びサーチすれば、このあたりにはないみたい。少しエリアを広げられるかな、と調べることにした。


 <広域サーチ>


 少し東へ移動すればまた広い範囲にあるようだ。


「フラット、ひがちのほうへ、いどうしゅるよ」


 きゃうん、と鳴いたフラットは、先に立って東へと歩いて行く。俺はその後に続いて歩くが、どうやら面倒な事になりそうな気がする。間違いであってほしいな。


 しばらく歩けば、薬草が見えてきた。でも、それ以外も目に入る。これ、どうすればいいんだろう。

 目視できる程度の場所で冒険者たちが戦っているんだけど、さっきの人たちかな。

 ううぅ~と唸るフラットを見ればわかるんだけど、冒険者たちの方が劣勢だ。相手はツキノワグマくらいの小型のクマだけど、冒険者たちにとっては驚異だろう。一頭だけでなく三頭いるんだから。既に三方を囲まれている。前衛は肩で大きく息をしている剣士。魔法使いかな、ふらふらで今にも倒れそうだ。何より、弓を持ってるやつは近すぎて役に立たない。ショートソードを抜いてはいるが、膝はガクガクだ。


 うーん、これ対応してもいいのかな。どうするか……

 考えていれば、ぐわふっ! と泣いたフラットは走り出した。

 こうなるよね、やっぱり。なら俺も行くかな。

 身体強化をかけてナイフを引き抜く。そして一気に駆け出した。といっても四歳なりにです。


 わぁっ! と驚いた冒険者たちだけど、フラットを見たことがあったのだろう、少し安心したようだ。一番手前にいたクマにフラットは飛びついた。


「たしゅけるから!」


 俺の声を聞いた三人は、目を見開いて驚いている。

 さらっと無視して、一番大きなクマに向かっていく。思ったより速いのでクマは逆に驚いている。立ち上がろうとしていたので、そのまま持ち上げた前足に乗ってジャンプした。


 背中に乗っかって首元にナイフを突き立てる。でも、このナイフじゃ皮膚の堅さと脂肪で届きそうにない。そう思って魔法を使うことにする。だが残りの一頭は今にも冒険者に手をかけそうだ。剣士は何とか長剣を振り回しているが、それじゃダメだ。その上尻餅をついてしまった。立ち上がったクマなら一撃だろう。


「まほうちゅかう、どいちぇ!」


 <氷の矢>


 指ピストルで氷の矢をイメージしてバン! と打つ真似をすれば、鋭い氷の矢がブシュッと突き刺さった。これならイケる! と乗っかっているクマの頭に指を押し当ててバン! と撃ち抜いた。今度は矢じゃなくて弾丸をイメージしてみたが正解だね。

 がぅぅ、とクマの首元に食らいついているフラットは、器用にクマの腕を避けている。


「フラット!」


 声を聞いた途端、さっとクマから離れた。もちろん、後は氷の矢でバン!

 ふぅ、なんとか間に合った。


「だいじょぶ、でしゅか?」

「はぁはぁ……えっと、ナギくん? だっけか。ありがとう、助かったよ。小さいのに強いんだな。すごいよ。それにフラット。ありがとう」

「本当にすごい。Dランクなんでしょ? でもほとんど薬草採取だけだもんね。コツコツやることが成長に繋がるって言われたけど、意味がわかった」

「……」


 魔法使いのお姉さんは今にも倒れそうだ。


「ケガ、ないしゅか?」


 たいしたことない、と言うけど、破傷風にでもなったら大変だ。


 <ヒール>


 三人にヒールをかければ、驚いている。


「治療もできるのか」

「違う、回復もできるんでしょ? ごめん、魔法使いのエリよ。少し魔力が回復した。ギルドまでは戻れそうよ」


 よかった、と頷いておいた。

 口の周りが血だらけのフラットをクリーンで綺麗にして、俺も血を消した。


「悪かったな。俺はコッチ、剣士だ。こいつは弓士のヨンド。よろしくな」

「ナギとフラットでしゅ。よろちく。クマ、どうしゅる?」


 顔を見合わせた三人は倒したのは俺とフラットだから持っていってくれと言うんだけど。


「それが当然なんだ。魔物は倒したやつの獲物になる。それに、俺たちの依頼はこいつじゃなかった。ゴブリンだから。この辺にはいないのかな」


 うーん、と首をかしげる。

 常時依頼らしいので、今日は帰ってゴブリンの生息地を調べるという。ちゃんと準備もせずにゴブリンくらいとやって来たらしい。

 ちゃんと調べた方がいいでしょうね。

 俺はどうするのかと聞かれたので、三時の鐘までは薬草採取をすると言えば、すごいなぁと感心していた。

 じゃあ、クマは持って帰りますと一頭ずつ触れてゆく。


「えっ? も、もしかして。ナギはアイテムボックス持ってるの?」

「うん。れも、ないしょー。おねがい」


 絶対言わないから、と約束してくれてよかった。

 じゃあ、と手を振って三人と別れた。


 これから大変だろうね。Eランクまではささっとランクアップしたのかもしれない。もとより、普通の人はFランクスタートだし。俺は子供すぎたからHランクからだったけど。


 再び薬草のある場所に戻って、警戒をフラットに頼んで薬草を引き抜く。一列飛ばして引き抜きまくった。


 お昼にホットドッグみたいな肉入りパンを食べた。ソースはかなり美味しかった。

 二人で三本ずつたべちゃったよ。比較的安いから冒険者に優しいんだよ。


 三時の鐘が鳴ったので、ギルドに向かって歩き出す。

 でものんびりはしていられない。四十分かかるんだから。

 ここからギルドまでは、とマッピングした道を確認すれば、草原を抜けていった方が早そうだ。


「フラット、はちるよ!」


 くわふっと聞こえたので、身体強化をかけてから走り出した。

 探索しながら走っていれば、自動的にマッピングしてくれる。ありがたい機能付きなのだ。

 頭に浮かぶ地図を見ながら、草原を斜めに突っ切って走り降りた。もう少し走れば街道に出るから、と少し手前でゆっくり歩きはじめる。ここまで戻れば、ギルドまではすぐだ。

 途中にドールーハの店もあるくらいだからね。

 身体強化を解除して、フラットと街道を歩きはじめた。


 ドールーハの店に行くのは後にして、ギルドに戻った。

 草原の風のメンバーは、食堂で話し合っている。


「お帰り、ナギさん」

「ただいま。やくそう、たくしゃんありましゅ。どこにだしましゅか?」

「そうだろうと思って大きな籠を用意してあるの。魔物は?」


 あると言えば、解体のおじさんを呼んでくれた。

 一緒に奥の部屋に入って行く。ここは解体場だ。

 先に魔物を出して欲しいと言われて、そこの台の上におく。アイテムボックスがなければ絶対に無理な高さだけど、それは獲物のデカさにも言えるんだ。


 まずは、とクマ三頭を取り出す。


「なに!? ムーンベアを倒したのか!」


 うん、と頷いてから角ウサギを山盛り取り出すけど、おききれないので、別の台に置いて欲しいと言われた。


「はぁ、お前には驚かされる。メモしてくれ」


 受付のお姉さんが専用の紙に書くらしい。


「ムーンベア大型一頭、中型二頭。それと角ウサギが二十八だな」


 すごいわね、とお姉さんは頭を撫でてくれる。

 いつもながらきれいな獲物だ、と感心しているのは解体のおじさんだ。


「じゃあ、次ね。薬草はこの籠に出してくれる?」


 はい、とバサバサと籠にアイテムボックスから直接落とし込んで行くのだが、入りきらない。大変だ! と奥へ行って同じ籠を持ってきてくれた。


 再び、バサバサと入れて行けば、山盛りになってこぼれてしまったので、こぼれた分は最後の籠へ乗っけておいた。


「こっちもすごいわね。じゃあ、今から鑑定と数を数えるから。ムーンベアの査定も時間がかかると思う。今日はどこかに行くの?」

「ドールーハのみしぇ、いきましゅ」


 そう、気をつけてねと手を振って送り出してくれる。

 手を振り替えしてカウンターから出れば、誰かにお菓子をもらっているフラットが見える。あ、Bランクのショルダーさんだ。

 この人、本当にフラットが大好きだよな。いつも声を駆けてくれるし撫でてくれる。フラットのおかげで俺もいろいろ教えてもらえるし。


「よう、ナギ! 今日もビックリするほどの薬草持って帰ったのか?」

「はい。たくしゃんとれましゅた」


 そうか、えらいなと頭を撫でてくれる。そして俺にもクッキーをくれた。二人で食えと袋ごと渡してくれる。

 ありがとうございます、ともらって二人で口に入れる。ふふ、美味しいね、と顔を見合わせて食べる。


「フラット。ドールーハのみしぇ、いこう」


 ショルダーさん、ありがとう! と声をかけてギルドから出た。

 クッキーを食べながら二人で歩く。

 トテトテ、ボリボリ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る