第5話 おおちなおとうと、いっちょに、ちゃちゃかうのに、みしゅりるのけんをかいましゅた。
オークの血が止まるまではと待っていたのだが、再びイノシシがやってくる。どうやら、逃げ延びたらしいけど。そうなると、さっきのオークが戻ってくるかな。
これはヤバいよね、と思いながら倒れたオークの吹き出る血をどうするかと考える。
くわぁん! と聞こえてフラットの鼻先を見れば、戻って来たよ、デカいやつが!
うん、これはかなりヤバいけど。とりあえず、魔法で何とかなるかな。
まだ少し距離があるので、今のうちにやってみよう。
うーん、どうやれば発動するのかがわからないけど。例えば、指で作った拳銃を撃つように魔法が飛んでいけばいいのに。
親指を立て、人差し指を前につきだし、打つ真似をする。
<氷の剣>
鳩尾あたりを狙って「バン!」と言ってみれば、ブシュッと何かが飛んでいった。ええっ? 飛んだよ!
氷の剣は、指デッポウで発射されて、デカいオークの鳩尾に突き刺さった。
何がおこったのか理解できていないオークは、ゆっくりと仰向けに倒れていった。
くわぁん! きゃんきゃん!
フラットが嬉しそうに飛び上がっている。いつの間にか、ジャンプ
ふぅ、と小さく息を吐き、俺は何をやってるんだと首を捻る。
薬草採取中心でと思ってたはずなのに。でも、今日はしょうがないね。
やっと血が止まった小さい方のオークをクリーンしてからアイテムボックスへ入れる。次にでっかい方を見に行ったけど、血が全く出ていない。なんでだろうと観察すれば、氷の剣が突き刺さっているからだろうと結論づけた。それならこのままアイテムボックスだね。
血だらけの地面をクリーンしてから、薬草をサーチしたんだけど、タイミング良く、いや悪く、街の鐘が鳴ったからそろそろ昼かな。
でも、さすがにここでは食事できないか。サーチ結果を確認すれば、東に少し歩いた場所に群生地があるみたい。
じゃあ、その手前で食べようか。
フラットは嬉しそうに俺を見上げながら歩いている。俺はリュックを担いでサンドイッチを食べるために歩いているのだが。午後からは薬草採取に専念したい。
シートを引いてサンドイッチを口に運ぶ。
フラットは、ひと切れ食べて、さすがにお腹いっぱいなのか長く身体を伸ばしてお昼寝中だ。
それなら二人分弱くらい残ってたけど、無言で食べ続けた。
どこかの国で戦争が始まったっていってたけど、できるなら戦争という戦いには参加したくない。そのためにも、いつでもどこにでも行けるように貯金をする。それが今の一番の目標なんだけど。今日みたいな事があれば、どうしても武器のことを考えてしまう。一年前にギルマスと一緒に防具屋さんへ行った時に見たショートソード。オヤジさんに教えてもらったのは、ホビットのように小さい種族や、パーティーの斥候、弓を使う人などが持つらしい。少し刃の幅が広いのが通常らしいけど、俺には重くなるのでショートソードにしては細めの方が扱いやすいだろうと言われた。今でも使えるし、三年後でも使えるという。どういう意味か理解できてなかったけど、今日戦ってみて思った。
俺の身長が三年で一メートルは大きくならないはず。七歳になったとしても、身長は今より二十センチ大きければ御の字だ。おそらく、十センチから十五センチ伸びる程度だろう。それならば、六十センチのショートソードなら問題ない。ただ、今、腰に下げられるかと言う心配はあるけれど。
俺にはアイテムボックスがあるから、普段は持ち歩かなくてもいい。
腰に下げられるようになればベルトに通せばいいだけだ。うん、それがいい。でも、どれくらいのお金が必要なんだろう。何もわからないなら聞けばいい! 戻った時、時間があればドールーハの店に行ってみよう。
そう結論づけた俺は、再び薬草採取に励んだ。
フラットは、シートの上でゴロゴロしながら遊んでいる。こうやってても、俺の周りを探索しているのだからすごい。
二日前に生まれたばかりなのに、獲物を捕らえて肉をバクバク食べるのだ。大きさは生後半年ほどの子犬だけど。それにしてもデカいだろうよ。まあ、生まれたときも大きめだったけどね。大型犬の子犬みたいだったし。
依頼された群生地の薬草をあらかた採取し終わった時、街の鐘が鳴った。どうやら午後三時くらいらしい。
どれくらい取れたかなぁとアイテムボックスを見てみれば、百本以上あるので、問題ないかな。
それよりも、獲物を買い取りしてもらいたい。いくらになるのかが楽しみだ。
フラットと一緒に普通に歩いて街へ戻った。
フラットはよく歩きよく走りよく遊ぶ。これはとても助かるのだ。小さな俺が抱いて移動するのは大変な事だしね。
ギルドに戻った時、まだ他の冒険者たちは戻っていない。
入り口でフラットと自分にクリーンをかけてから入って行った。
「あれ、ナギさん。今日は早めね」
「はい。ぐんせいちをみちゅけたから。それにまものもかりましゅた」
「いつも思うけどすごいわね。四歳になったばかりなのに。それじゃここに出してもらえるかしら」
「えっと、ここでいいでしゅか? ひゃくほんいじょう、ありましゅ」
……あっ、お姉さんが固まっちゃったけど、どうしよう。
ちょっと待ってね、とギルマスの部屋にいっちゃったよ。まずかったかな、本数いっちゃって。うーん、難しいね子供の姿で冒険者は。
「お帰り、ナギ。お前、結構取ってきたって? またランクアップするぞ。すごいな。それとは別に魔物がいるんだろ? なんだ」
いいのかな、と思いながら正直に話すことにした。
「でぃくびくぅ、がじゅういちとう、と、おーく、がにとう」
なに! と驚いているけれど、とりあえず薬草を出せと言われてその場に取り出した。
その後は、素材買取カウンターへ連れて行かれる。
「ここに出せるか? 無理なら奥の方がいいけど」
種類と頭数をいつものおじさんに伝えているギルマスは、奥に来いと手招きしてくれた。
後で怒られるかな、と思いながらもついて行く。そこでどうやって出すかを考えた。
「あの。ないしょしてもらいたいこちょ、ありましゅ」
「ああ。大体想像は付くが、言ってみろ」
「ぼく、あいてむぼくしゅ、ありましゅ」
はぁ~~~~と大きく息を吐くギルマスとおじさん。
「やっぱりか。おかしいと思ったんだよ。でも身体の小さなお前には助かるな。で、なぜ獲物を狩ることになった?」
聞かれたので、そのままを話したよ。
ふうん、と腕を組んで何かを考えているギルマス。
とりあえず、魔物を出せと言われてディグビッグを十一頭とオークを二頭アイテムボックスから引き出した。
「これはすげぇな。お前、小さいのにどうやってデカいやつを狩った? おっ、膝裏の腱を切って首を切ったんだな。こいつは血が出てないな。はぁ! 氷の剣が刺さってるって事は、魔法か?」
頷けば、でっかい二人は笑い出す。
「お前はどこまですごいんだろうな。まあいい、俺の部屋で話そう。買取明細は受付に回してくれ」
あいよ、とさっそくそれぞれの獲物を見始めるおじさんを残して、ギルマスと一緒に部屋に入った。
「で、今日は無事でよかったな。まあ、オークも二頭だけならよかった。だが、数が多くなれば無理だ。即逃げろよ。それだけは約束してくれ」
わかりました。絶対守ります。
「フラットがもう少し大きくなればお前の助けになる。だからそれまでは、くれぐれも気をつけろ」
はい。
「それであの短剣で戦ったのか? 大変だったろ。あの短剣は戦うための物じゃない。まあ、家の主が次代に引き継がせるようなものだからな。でもそのナイフだけじゃ無理だな。それで、だ。今日の薬草の買取や魔物の素材の買取はかなりの金額になるはずだ。薬草だけでも金貨数枚というとこだな。それで俺からの提案だけど、ドールーハの店でショートソードを買う方がいいだろう。お前なら使いこなせると思うし、数年は使えるぞ。長剣も見せてみろ。使えるものかどうかはドールーハが判断する」
自分もそう思っていたと話せば、うんうんと頷いてくれた。
俺とフラットを連れてドールーハの店に行くから、と歩き出したギルマスは、怒ってはいないようだ。よかった……
「よう、暇か? いや、珍しく忙しそうだな」
「あはは、たまにはな。どうした、ナギのことか」
そうだ、と答えるギルマスだけど、一時間後にしてくれといわれたので一度戻ることにした。今日は時間があるから問題ない。屋台で肉が焦げるいい匂いがする。クンクン鼻を向けるフラットを見て大笑いするギルマスは、二本買ってくれた。
いつも屋台の肉は買わないので、嬉しい。
ギルマスと一緒に食堂に座れば、ウエイトレスがやってくる。
「メシはまだだ。一時間ほど待ってろって言われて戻ったんだ」
なるほど、と俺に手を振って戻って行った。
肉串をだしてやれば、フラットは上手に食べる。パクッと加えて横に顔をスライドさせたのだ。本当に頭がいいな。
俺も負けじと食らいつく。美味い! 肉汁がじゅるりと出てくる。何の肉なんだろう。ほとんどは魔物の肉だと聞いたけど、下ごしらえが粗雑な肉は固いんだと教えてくれた。ここのは美味いと聞いていたが、本当に柔らかい。
「ナギさん。お待たせしました。やっと明細が出来上がったので、後で来てもらえますか?」
はい。肉串に食らいついたままで返事をした。
水を飲み干した俺とフラットをクリーンで綺麗にして、待っていてくれたギルマスと一緒に受付に向かった。
「こちらが明細です。薬草は金貨六枚と銀貨七枚ですね。そして魔物の買取ですが、ディグビッグがたくさんいたので美味しい肉が皆さんに提供できると思います。こちらは一頭銀貨五枚ですから、十一頭で金貨五枚と銀貨五枚です。あとオークですが、きれいに討伐されていたので、お値段もよいです。一頭は氷以外は傷がなかったので、金貨一枚と銀貨二枚。小さい方が銀貨九枚ですから、合計で金貨二枚と銀貨一枚です」
ありがとうございますといってくれたんだけど、これすごいお金だよ?
皮は革製品に、牙は防具になるらしい。そう言えば、俺の防具もオークだった。
「もういっぱしの冒険者だな。そろそろまたランクアップか?」
でも、俺、四歳だよ? 今のランクだってEランクだし。確か十二歳くらいからじゃなきゃ、魔物討伐はできないはずでしょ。
そう聞いてみれば、部屋で話すぞ、と連れて行かれた。
でも、ドールーハの店は?
そんな疑問をぶつける暇もなく、連れて行かれたんだけど。
「お前は既にDランクだ。大人ならCランクでもいいくらいだぞ。本当は魔物討伐依頼は十二歳前後からになるが、お前の場合は不可抗力だ。それでもポイントは溜まっていくんだ、実績としてな。だからランクアップするか? Dランクになるか?」
その方がいいかな。うん、いいかもしれない。それなら数年経ったときには、魔物の森に入らせてもらえるかもしれないし。
「おねがい、しましゅ」
よっしゃ! と満面の笑みでギルマスがお姉さんにギルドカードを渡した。
そろそろか、と立ち上がるギルマスに続いて俺とフラットはギルドを出た。
ドールーハの店に到着して中を覗けばもう客はいないようだ。
「悪かったな。こっちに来てくれ」
案内されたのは、奥の小部屋だ。
「さっきのやつ、貴族か?」
「ああ。俺の大嫌いな人種だ。自分の息子にショートソードと頼まれてたんだが、良いものが出来上がったと連絡した。で、見に来たんだけどな。装飾が少ないとぬかしやがったんだ。ミスリルの剣の事じゃなくて装飾だぞ!? 信じられるか。剣は装飾で仕事をするわけじゃない、切ってなんぼだ。ろくに剣も振れないバカ息子のために作ってやったのに、前金はいらないから取っておけだと。別の鍛冶屋に頼むって言うから、それならと返すのは止めたんだ」
ぶははは~と笑いはじめるギルマスに、苦笑するドールーハ。とても面白い組み合わせだな。
そのショートソードを見始めたギルマスは置いておいて、ドールーハは俺に話しかけた。
「今日は何だ? 研ぎか?」
「えっと……」
横からギルマスが助けてくれる。
「おい。これの長さは? ナギにちょうど良くないか?」
ん? とこちらを見るドールーハだけど、どうやら察したらしい。
「そうだな。丁度、あのバカ坊主も同じくらいの身長だった。ちょっと立ってみろ」
そう言われて立ち上がれば、俺の帯剣ベルトに当ててみる。
「少々長いかな。これをつけて長い距離をあるかないなら問題ないだろう。戦う時には、剣だけしか持ってない。鞘だけなら、ぶらぶらしてても問題ないぞ」
あはは、すごいこというね。
「で、何を狩ってきたんだ?」
「聞いて驚け。オーク二頭とディグビッグ十一頭だぜ。それも薬草採取の時襲ってきたからって理由だ。感心するしかないだろうよ。まだ魔物の森への許可は出せないが、とりあえずDランクになったぞ。今日はナイフと短剣で戦ったらしいが、それじゃぁ無理だと思ってな。武器をケチってこいつの命が危ないなら本末転倒だろ」
そうか、オークを倒したか、と感慨深げなドールーハだけど。この二人は特に俺の成長を楽しみにしてくれているように思う。だから俺もそれに答えたい。これまで通りメインは薬草採取だ。襲われたら魔物を狩るというスタンスは変えるつもりはない。いつか、ポーションを作ってみたいとも思うし、両親を殺した魔物もできるだけ討伐したい。だから、俺の天職は冒険者だ!
「なかなかいい剣だが、ミスリルか。いくらする?」
「値段か。まあ、あのバカ貴族から受け取った前金があるから、ほとんどいらないくらいだな。そうだな、のこりは金貨七枚って所か。鞘の仕上げしてたら金貨八枚になっちまうかも知れねぇ」
「ケチくさいこと言うなよ。お前だってこれが売れなきゃ困るだろうし。ナギ、ちょっと振ってみろ。普通のものより細くなってるから使いやすいと思うぞ」
立ち上がって剣を手にした。
思っていたより軽い。そして細い気がする。本来なら幅が広いってイメージだけど。
ブン! とふれば空気が切り裂かれる音がする。
「おお、いいふりするな。これを打つとき、あのバカガキじゃなくて、お前のことばかり考えてたんだ。俺もおかしいなと思ってたんだが。普通は使うやつのことを考えて打つんだよ、俺は。だからそれはお前のための剣だったんだろう。よし! じゃあ、俺がお前のためにと作った剣だ。仕上げはシンプルだが質の良いものにしてやる。金貨五枚だけ用意できるか?」
えっと、とギルマスを見ればニッコリ微笑んで大きく頷いている。それなら、とコクリと頷いた。
「よっしゃ! じゃあ、明日の夕方にはできてるからな。いつでもいいぞ。ついでにお前の父親の長剣も見てやる。いいものなら研いでやるから。大きくなったら使えるだろ?」
それがいいぞ、とギルマスが後押ししてくれるので、今日の薬草採取の金を当てることにした。
出来上がった時にもらうと言ってくれたので、お父さんの長剣を渡して、丁寧に礼を言い店を出た。
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