第4話 おとうとがでちちゃけじょ、しゅぐに、おおちくなりましゅた。

 おかえり~と迎えられて、いつものように薬草を取り出していく。次々と薬草を採りだして、精算してもらう間にギルマスへの面会を申し出た。

 案外すんなり通された部屋では、ギルマスが忙しそうに書類を書いている。


「おう。どうした? 何かあったか?」


 うん、と見つめれば、座れといってくれるので、遠慮なく腰を下ろした。


「で、その腹には何がいる?」


 げっ、わかってたのかよ!

 そっと毛布の塊を取り出して、中を見せれば驚いている。


「これは、シルバーウルフの仔か?」

「うん。やくそ、とってて、なきごえ、きこえた。しにしょうなおかあしゃんのおっぱいのんでた」


 その後、シルバーウルフの王だという母狼と話した内容をそのまま伝えた。


「ふん。間違いなく王だな、それは。人と話せるのはそれ以外ない」


 俺をじっと見つめるギルマスは、はぁ~と大きくため息をついた。


「こいつ、フラットだっけ? お前の眷属になってるぞ。ていうか、お前のステイタスは何なんなんだ!?」


 鑑定したというギルマスは戸惑ってるね。

 普通は無断で鑑定したりすることはないらしい。でも、フラットの扱いを考えたとき、もしかしてと思ったそうだ。


「ちぇんぞく? なに、しょれ」

「そうだな、普通なら専門職がいるんだ。だが、お前は王と話して引き受けただろ。だからじゃないか」


 そういうことなの?

 でも、ここにはいられないのかな。


「心配するな。ここはちゃんとテイムされているなら一緒にいられるぞ。大きくなったら別だけどな。だが、テイム魔物として登録してからネックレスが必要になる。それに、お前の食事とは別に費用がいるが大丈夫か?」


 お金がいるよね、ご飯を食べさせるには。じゃあ、頑張って稼ぐかな。


「わかりましゅた。じゃ、ぼく、がんばってふらっとのごはん、かしぇぎましゅ。どしたらいい?」


 そうだな、と受付を呼んで眷族登録の書類に名前を書けと言われた。俺の名前とフラットの名前。契約済みというところに丸をつけるらしいんだけど。

 自分でも確認すれば、ちゃんと眷属になっている。あれ? 他にもいろいろ変わってるみたい。後で見てみようかな。


 手続きが終わって、俺のギルドカードにフラットの事が記された。そして次はネックレスだけど、フラットが大きくなるまで借りられるらしい。街や国ごとに貸してくれるらしいが、旅に出るときには万国共通のものを買う方がいいと教えてくれた。

 これから大きくなるんだから、と今のサイズを貸してもらう。歩きはじめればつければいいらしい。

 ただ、明日には目も開くし普通に食事をすると聞いて驚いた。野生の森で生まれる生き物は、のんびりしてると食われるから、らしい。そうだよね、確かに。

 明日からは一緒に依頼を受ければいいと言ってくれたので、とても嬉しかった。


 夕食のとき、追加で温かいミルクを頼むことにした。この世界は、豆乳みたいなミルクだ。皿に入れてもらって、部屋に持って行った。まだフラットは眠っているから。


 部屋に戻って、ベッドに下ろしてやるが、生まれたばかりで血や泥がついている。それなら、と自分も含めてきれいにする。


 <クリーン>


 しゅわしゅわ~っとした感覚が収まったとき、俺もフラットもきれいになっていた。毛布までね。


 その後、鳴き始めたフラットに豆乳ミルクを飲ませれば、ゴクゴクのんで、またコロンと寝てしまった。

 こんなんで明日には歩くのかな。




 今日は一日雨になりそうだ。

 起きて空を見た時にそう思った。

 それなら、と先に朝食に行くかな、と起き上がる。

 フラットはどうだろうかと見てみれば、思い切りのびをした。そしてぱっちり目が開いたのだ!

 水色の瞳がとてもきれいだ。

 クゥ~ンクゥ~ンクゥ~ンと手を出してくる姿はとてもかわいい。


「おまえは、きょうからフラットだよ。いいね、おぎょうぎよくしないちょ、ここにちょまれなくなるから、ふたりでおりこ、しような」


 そう言えばキャン! と泣き声でこたえてくれた。


「ぼくはあしゃごはん、いくけど。どうしゅる?」


 キャン、と立ち上がったフラットは少し身体が揺れたけど、しっかり立っている。すごいね、と抱きしめてしまった。嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っているよ。

 一緒に行こうかと言えば、コクリと頷いたように見える。それならと抱きあげて階段を下りた。


 食堂のベンチ椅子によじ登った俺は、いつものように正座する。雨の音がザーザーすごいから、今日はダメだな。

 今日は何して遊ぶかなとフラットと話していれば、朝食プレートが置かれた。


「その子ね、ナギさんの眷属は。もう歩けるのね。夕べはミルクだったけど、何を食べるの?」


 なんだろう、と考えていれば、フラットがプレートの前に手を置いている。


「おなじでいいの?」


 キャン! と尻尾をぶんぶん振ってるけど、大丈夫かな。


「じゃあ、料理長に聞いてみるわ。少し待っててね」


 俺をじっと見つめるフラットの瞳はキラキラしてる。何も知らない真っ白な癒やしがもたらされる。


「お待たせ。ナギさんと同じメニューで作ってくれるって。だからいつもと同じ料金はかかるけどいいかな」


 はい、と今日のお金を二人分払う。確かに、とウエイトレスは笑顔で戻っていった。


 二人で美味しい朝ご飯を食べた。

 今日は何をするかな。

 そうだ、ステータスを確認してみよう。


 ■ナギ・ワシュウ


 ≪ステータス≫

 年齢:四歳

 性別:男

 身長百八センチ 体重二十二キロ 白銀髪ロングヘア(生まれてから切ってない)

 種族:人間

 レベル:3(*10)

 生命力:300(*10)

 魔力:500(*10)

 攻撃力:260(*10)

 防御力:200(*10)


 ≪スキル≫

 生活魔法

 四大属性魔法

 解体


 ≪EXスキル≫

 複合魔法

 氷魔法

 無属性魔法

 治療・回復魔法

 身体強化

 鑑定(真偽判定可能)

 探索


 ≪ユニークスキル≫

[アイテムボックス] 隠ぺい

[自動地図オートマップ] 隠ぺい

(広域の地図と現在地、索敵済み範囲の敵と味方の表示ができる。詳細な地理情報の表示も可能)

[探知レーダーサーチ] 隠ぺい

 すべてのマップで索敵対象の弱点と詳細情報の表示ができる

 状態異常無効

[毒耐性]隠ぺい


 ==========

[シルバーウルフ王の加護]

 眷属:シルバーウルフ:フラット

[創造神の加護]隠ぺい

[幸運]隠ぺい


 ===今後開花する予定一部表示(隠ぺい)===

 回復魔法

 召喚魔法

 空間魔法

 光魔法

 錬金魔法

 創造魔法

 精錬精製

 錬成 他多数


 ■ ■ ■ 


 うん、なんかいろいろ変わってるぞ。

 レベルが上がってる。

 だからかな、生命力や魔力はぐんとアップしてる。

 攻撃力や防御力も数値が出てる。でも(*10)の意味はまだわからない。

 本当にシルバーウルフ王の加護が付いてるんだけど。

 眷属もちゃんと書かれてる。

 治療・回復魔法が増えて、鑑定と探索がオープンになってる!


 これ、チートってやつじゃないのかな。

 鑑定されたとき、バレるとヤバいかな。あっ、ギルマスには見られてるけど。まあ、いいかな。


 じゃあ、鑑定を許可制にできればいいのにね。

 そう思った時、ふわりと身体が光った。何これ? フラットも光ったけど。

 フラットを鑑定すれば、鑑定許可制と書いてある。当然、俺は許可だ。

 ふん、これって自分で制限をかけたって事なのかな。

 なるほど、と頷いていれば、フラットがもじもじし始めた。

 もしかしておしっこかな?

 フラットを抱きあげて、ギルドの裏に下ろしてやれば、トテトテと駆けていった。うん、おしっことうんちだね。あちらこちらにおしっこするところは犬と同じだね。まあ、縄張りって事だろうけど。

 戻って来たフラットを抱きあげて、汚した場所をクリーンしておいた。

 部屋でおしっこしちゃダメって教えたことはないから、本能なのかな。お行儀のいい仔で助かるよ。


 それからは、魔物図鑑や薬草の本を見たりして時間を過ごした。時には二人で昼寝もしたよ。

 この世界で覚醒して、一年くらい。昼寝なんかしたことなかったな。

 明日は晴れそうだから、明るい空が見えるといいな。




 気持ちよい目覚め。フラットも一緒に起き上がる。

 あれ? フラットがなんか、大きくなってる? これなら大丈夫かな、と眷族のネックレスをかけてみる。うん、かっこいいね。


 二人で朝食をとり、新しい常時依頼を確認してからギルドを出ようとしたとき、声がかかる。


「ナギさん。今日はこれを重点的にお願いできませんか?」


 なんだろうと見てみれば、緊急依頼だと書いてある。何やら傷薬や打ち身なんかに効くものみたいだ。

 何があったのかは知らないけど、ポーションの材料になるくらいの金額だからうけてもいいかな。


「はい。じゃあ、このいらい、うけましゅ。いくちゅ?」

「どれだけでもこの金額で買い取るそうよ。隣の国で戦争が起こってるらしくてね。切り傷や打ち身なんかはポーションを使うと予算が大変だから。即効性のあるものなの。でも、少し奥だから魔物には十分気をつけてね」


 はい、と手を振ってギルドを出た。

 二人分の朝食にしては少々心許ないので、屋台でサンドイッチを買った。俺はいいけど、フラットは足りないだろうな。でも、干し肉とパンがあるから、それも食べさせればいいかな。


 身体強化してかけあがった森の入り口だけど、ここでサーチを使ってみよう。


 <サーチ>


 ポポポポ~


 おお、かなりの量があるぞ。


「フラット、ぼくはやくそ、とるから。まものがきたらおしゅえてね」


 くわぁん! と俺の側で警戒しはじめた。

 知らせてくれれば対応はできるから、と頭を撫でて採取に取りかかる。数はどれだけでもいいらしいので、小さなナイフでどんどんカットしていった。ある程度まとまったらアイテムボックスへ入れるを繰り返す。

 かなりの群生地だったから、採取量も多い。でも、まだまだ採取するぞ!


 二時間ほど採取し続けたから、一休みするかな。

 暇なときに拾っておいた枝をおいて火をつける。

 小さな鍋に水を入れてわき上がるまで待つことにした。

 今日は紅茶を持って来たから飲んでみたい。家から持って来たものだけど。


 紅茶を入れて、フラットにはクッキーを置いてやる。

 家を出る前に肩掛けバッグに入っていたものだ。アイテムボックスに移動していたので問題ない。

 嬉しそうにクッキーを頬張るフラットの前にはボウルがある。それには魔法で出した水がはいっている。甘みのある水なんだ。

 ガリガリ、ゴクゴクを繰り返した俺たちは、大きく背伸びする。


 くわっ? フラットが何かを感じたようだ。


 魔物を探せば、あちらこちらに光が見える。

 どうやらイノシシのような魔物らしい。でもあまり大きくはなさそうだ。子供なのかな。

 違う。どうやら獣のイノシシだ。

 魔物じゃない野生動物もいるんだ、と詳しいことをみることにする。どうやら体長二メートルくらいまでのようだ。素材としては魔物ほど高額ではないが、肉がなかなか良いお値段なのよね。

 これは狩るかなと、少し後にフラットを下がらせる。まだ小さいから、この戦いには入るなと言いきかせた。襲われた時以外は逃げろと言えば、くわん! と答えてきちんとお座りした。

 うん、大丈夫みたいだね。


 ドドドドーーーー走ってくるイノシシだけど、どうやら何かに追いかけられているように見える。


 なんだ? と探索すれば、少々大きめの魔物らしい。これはイノシシを狩るよりも、そっちの魔物を退治すれば片付くのかな。


 何がくるのかと見ていれば、昨日見ていた魔物図鑑を思い出す。確か、ディグビッグという魔物で、豚に角が生えた感じかな。でも、あの角は攻撃のためじゃないと書いてあった。キノコとかを掘り返すためのはず。

 よし、これなら狩れる。


 ドドドドとイノシシから少し遅れて走ってくるので、ナイフではなく短剣を取り出して身体強化を使い走り出す。

 首元をバシュバシュッと切り裂きながらディグビッグの集団の中心を駆け抜ける。ほとんどを狩ったけれど、残りはそのまま走り抜けて行っちゃったよ。どういうこと?


 まあ、とりあえず魔物だからとアイテムボックスへ収納した。もちろんクリーンをかけてからね。

 どうにも腑に落ちないな、と自分をクリーンしてからフラットを見れば、どうやら一頭を仕留めたらしい。背を向けているけど、食事中だな。見たくないからいいけどね。


 おかしいなぁ、とアイテムボックスの中身を確認すれば、たくさんの薬草とディグビッグが十一頭いる。肉は柔らかくて美味しいとあったから確保したけど。ギルドに戻らないとわからないね。


 でも、まだ気になる気配がある。

 そのうち、ドスドスと足音が聞こえてきた。そしてグギャグギャと聞きたくない騒音も。

 ゴブリンだよ。こいつらも逃げてるんだけど、どういうこと?

 理由はすぐに判明する。その後からはオークが迫っていた。


 ゴブリンを狩るのかと思ってみていれば、ゴブリンは踏み潰されていったみたい。これ、ヤバいよね。俺たちに気づかずに行ってくれればいいんだけど。

 二頭いたオークの一頭は気づかずに走り去っていったけど、後に続いてたやつはいらぬ事に俺たちに気づいた。

 チッ、余計なことを。


 さて。

 今の俺の身体でどう倒すか、だけど。


 こっちの武器は短剣とナイフだ。短剣といってもすごく切れ味がいいわけじゃない。解体用ナイフの方が手入れしてもらってるから切れ味は別格だ。

 それなら、右手にナイフ。左手に短剣を持つことにした。


 できるならば、もう少し長い剣があればいいんだけど。おとうさんの長剣じゃ長すぎる。ならば、できる方法で戦うのみ、だね。


 大きな棍棒を振り上げてこちらに向かってくるオークに対して、俺はまっすぐ駆けてゆく。

 肉体強化を発動しているので、オークよりこっちの方がよほど早い。棍棒を振り下ろそうと目一杯身体を伸ばしたオークのまたを通り抜けて後に回った。そして、ナイフで膝裏を切り裂く。短剣で脚の腱を切ったけど、骨が邪魔して一発では切れない。それなら膝だな。

 右から左に一気に短剣を引けば、オークの身体は前に傾きはじめる。


 ぶもおおおおおおおぉぉぉぉぉーーー


 うん、豚の声だね。でも煩いんだけど!


 ドシーンと倒れたオークの尻から背中へと駆け上がる。

 棍棒や腕を動かして俺を振り落とそうとするけど、そんなこと受け入れられるわけない。

 短剣を右の首元に突き刺し、ナイフを両手で持って頸動脈に押し当てた後、思い切り引き抜いた。

 ブシューっと吹き出す血は、どれほどあるんだろう。

 俺は真っ赤に染まってしまう。これで頸動脈切断は確定だ。

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