第3話 よんしゃいに、なりましゅた。おとうとも、でちましゅた!
次の日もその次の日も……
変わらず薬草採取で稼ぐ。
ギルドに部屋を借りてから半年が過ぎた。
薬草採取は、かなりの収入になる。
途中で狩った小さな魔物もまあまあの買取額だ。でも、危険な魔物を倒すことが冒険者だと思っている人も多いみたいで、怪我をしている人もよく見かける。俺としては薬草採取の方が割がいい気がするけど。
「ナギ。今日も無事に戻ったな。今日は魔物はないのか?」
「ありましゅ。おおねじゅみがきましゅた」
おお、すごいなと言われて一緒に魔物の買取カウンターへいってくれる。
「今日はオオネズミらしいぞ」
「すげぇな、ナギ。尻尾もあるか?」
はい、もちろんですよ。
「尻尾の値段が高いんだ。だから討伐部位は尻尾なんだぞ」
なるほど。じゃあ、尻尾だけあればいいの?
「そんなことない。肉は家畜の餌になるから、業者が買い取る。だから、こうやって持って帰ってくれるのは助かるぞ」
よかった、そのままでいいんだな。
「それでナギ。俺からの提案があるんだが聞いてくれるか?」
なんだろう、ドキドキするんだけど。
あっちで話そう、と買取伝票を受け取ってカウンターに渡してから、ギルマスの部屋へと向かった。
「俺からの提案だけどな。お前は変わらず薬草採取を頑張ってくれてる。でも、どうしても小さな魔物に会うことが多いだろ? その上、お前はそれを狩る。だから防具を着けて欲しい。お前が小さな魔物に負けるとは思ってない。けどな、これから薬草を探して森の入り口くらいは行くだろう。そうなれば、ゴブリンなんかも出ることがある。だから心配だ。服もそうだが丈夫な方がいい。俺たちが心配なんだよ。良ければ今から俺が見繕ってやる」
え。そういうことなの? それはありがたいことだけど、いいのかな?
「ぎるましゅ、いしょがし。いいの?」
「ああ。今日の仕事はとりあえず終わらせた。お前と防具を買いに行くつもりだったからな。俺の知り合いならぴったりに調整してくれるはずだ。それに値段も適正価格だ」
「じゃ、おねがいしゅましゅ」
じゃあ行こう、と立ち上がり部屋を出た。
途端に冒険者たちの間に緊張が走る。それほどギルマスは実力がるんだろうね。
「ナギを連れて防具屋に行ってくる」
受付と食堂に声をかけたギルマスは、俺の手を引いて歩き出した。
この街は子供に対してとても優しい。どこでもそういうわけじゃないんだろうけど、あちこち行ってみたいと思っている。もちろん、成人近くなって俺の身体がそれなりになったときだけど。今のところ身体は小さい。前世は中肉中背だったと思う。それなりに成長するかな。
「ここだ」
そう言われて見上げれば、狼と剣の絵が看板になっている。『ドールーハの店』というらしい。
「よう。暇か?」
「うるせぇ。この時間が暇なんだって。それで、その小さいのが天才冒険者か?」
「ああそうだ。こいつはまだ三歳だけど、高ランクの薬草採取や、その時に襲ってきた魔物たちをことごとく狩ってくる。だから防具をつけろと言ったんだ」
「ふむ。その方がいいだろうな。予算は?」
聞いてないと言うギルマスは、むちゃくちゃ怒られている。
「予算も聞かずに連れてきたのか。まあ、しかたない。俺と直接話せばいいから」
いくつか防具を出してくれる。
目の前に並んでいるのは、服とブーツ。そして手甲と胸当てだ。全て魔物の皮らしく、丈夫で軽いんだと聞いた。これはオークのものらしい。少々薄手だけど内側が加工されているので、丈夫で軽いし付け外しも簡単みたい。
つけてみろと言われるけど、どうやって?
胸当てはかぶる様につけるらしい。短いベストみたいだ。スポッとかぶってみれば、少し大きめだね。
「これはもう少し大きくなるまでつけられる。このベルトを引っ張って……」
なるほど。ベルトで引っ張ればちょうどいい場所で止まるようになっている。脇はそれに合わせてボアがつけられているので、ぴったりフィットだ。すごいな、これ。
手甲もとても簡単につけられた。そしてブーツは少し長めだ。スポッと入ったのでどうするのかと思っていれば、ベルトでぎゅっと固定すれば、少々大きめでも違和感がない。
「今のお前は成長期だからな。はけなくなったら買い換えろ。でなきゃ、命取りになるぞ」
はい、と頷くしかない。
「じゃあ、服は二着くらいにするか。全部でいくらだ?」
「ここまでそろえると金額がはるぞ。薬草採取だけじゃ払えないだろ?」
いくらかと問えば銀貨八枚だと言う。それならギルマスお勧め防具とブーツ、そして服は二セット購入することにした。
最近はギルドの宿代もひと月分まとめ払いができるようになったので、残りは貯蓄になっている。時々、入り口近くにあるパンの屋台で甘いお菓子を買うくらいなので問題ない。
「じゃあ、ナギだっけか。剣はあるのか? 今はその解体用のナイフか?」
「はい。これ、べんり。よくきれるしゅよ」
見せてみろと言われて渡せば、少し待つように言われて奥に行ってしまった。
「研いでくれるんだろうな。あれだけか武器は」
そう聞かれたので、おとうさんの短剣を取り出して見せた。
「ほう。これはすばらしいな。だが戦いに使うのはやめとけ。高価なものだから人に襲われるぞ。そうだな、今のところは大丈夫だろうが、少し背が伸びたらここで短剣を買えばいい。俺が付いてきてやるから。お父さんの形見は大事にしろ」
そう言ってくれるので、再び短剣をアイテムボックスに入れた。
一緒に来てくれるなら助かる。
試しに、どれくらいの金額なのかと短剣を見てみる。
これとかこれかいいぞ、と言われた。どちらもそれほど高級品じゃないらしい。けど、小さい俺の腰にぶら下げられるサイズだとこうなるんだね。
そんな風に見ていれば、ナイフを手にオヤジさんが戻ってきた。
「ほら。よく切れるようになったぞ。これくらいなら、いつでも研いでやる。可愛いお前にはタダでな」
ありがと、と頭を下げれば、紙袋に買ったものを入れてくれた。それを手にしたギルマスは、再び俺の手を取り歩き出す。
ふふふ、と嬉しくなってスキップしそうになる。自分が稼いだ金で自分のものを買うって、充実感があるな。それに楽しい。
そんな風に思ったことはなかったけど、この世界で基本的なことに気がつくなんて。やっぱり楽しいな。
ギルドにつく前にギルマスがパンの屋台で立ち止まる。
これとこれと、と俺好みの甘いものを買っているんだけど、なんで?
「戻ったぞ」
そう言えば、冒険者たちは落ち着いている。食堂の方が賑やかだ。
「お帰りなさい。いいのありましたか?」
当然だ、とニヤリと笑うギルマスは、おじさんだけど結構モテるんだよ。デカいしかっこいいのは間違いない。その上、一所懸命な人にはとても優しい。俺だけじゃなく、真面目に冒険者をやってる若い人たちは慕ってるんだ。
「ようギルマス。ナギ連れて買い物か?」
「おう。服と防具をな。いいのがあったぞ。ドールーハの店だ。明日の朝、見られるぞ。なあ、ナギ」
うん、と頷けば食堂からウエイトレスがいつものワンプレートを持って来てくれた。
ベンチによじ登り、靴を脱いでその場に正座する。そして自分にクリーンをかけてから食べ始めた。
「こっちの荷物入れとくぞ。で、これ菓子だから後で食え」
「ありがと、ぎるましゅ。うれしゅい~」
そう言えば、頭をクシャリと撫でてくれた。
「よかったな、ナギ。いいおじちゃんが側にいてくれて。そのうち嫁にこいって言われるかもな」
ぎゃははは~と冒険者たちにからかわれるけど、俺は男だよ。
「それはむりしゅ。ぼく、おとこしゅよ?」
えええええええええええええええええええええええええぇっ!?
ギルマス含めたその場にいた全員が驚いて動きを止める。
食堂のスタップまでかたまったよ、これ。どうすりゃいいんだ、事実を言っただけなのに。
「本当に男か? でも、その見た目で男はないだろう? まあ、俺は女だと思ったから何かをするわけじゃないけどな」
喜ぶのは受け付けだけだろうな、と言う意味が理解できずに首をかしげる。そして周りをみれば、がっくりと項垂れている人、男でも大歓迎だと言う人など。あはは、勘違いしてたんだね、みんな。
このとき仕入れた情報だと、この世界は同性同士の結婚も許されているらしい。ほんと心が広い世界だよね。
理解不能な皆を置いてきぼりにした俺は、夕食にかぶりつく。正直、腹が減って死にそうだ。三歳なんだから、寝るのも早いんだよ!
大口をあけて食べ始めれば、やっとあたりは動き出す。
髪をなでて手を振り離れていったギルマスをもぐもぐしながら見送れば、少ししてキャーっと受付のお姉さんたちの声が聞こえた。どうやら全員勘違いしていたようだね。
☆☆☆
あれから日々頑張ってますよ、俺。
今日は俺の誕生日。
まあ、変わりない毎日なんだけどね。言葉は少しだけちゃんと話せるようになったよ。
空を見れば天気が悪くなりそうなので、早朝から昼過ぎまでと決めてギルドを出た。
いつものように薬草採取を楽しむ。
俺にとっては定番となりつつある、難しい採取をこなしながら森の入り口付近を移動しサーチする。
気配を探りながらだけど、今のところは大丈夫そうだ。
クゥ~ン……
ん? 何の音? 泣き声かな。
クゥ~ンクゥ~ンクゥ~ン……キュンキュン……
やっぱり泣き声だ!
泣き声の主を探せば、少し奥で子犬が鳴いてるようだ。
ガサッと草をかき分けて進む。もちろん魔物の警戒は最大だ。ガサガサとサーチの光に向かっているけど、これって。
サーチのモニターにはいろいろ書いてある。
<サーチ>
シルバーウルフ:今日生まれ 目が開いていない 母親が冒険者に討伐された その時産み落とされたシルバーウルフ王の仔
えっと、母親は殺されたの?
ガサリと草をかき分けた先には、シルバーウルフの遺体? その乳に縋るように吸い付いている子犬、じゃなくてシルバーウルフの子供だ。お乳は出てると思うけど母親は生きてるのかな。
そっと近づいてみれば、小さな息が聞こえる。
回復魔法は使えないけど、やってみる価値はある。
<ヒール>
ふわりと光ったシルバーウルフは頭を持ち上げる。
『人の子か。我はシルバーウルフの王。だが、陣痛に苦しんでいるとき、冒険者に襲われた。まだこの仔は目も見えぬ。せっかく回復してくれたが、我の命はあとわずかであろう。我亡き後、小さき仔がどうなるかは理解できる。我の命が尽きた後、この仔を連れていって欲しい。名を与え世話をしてくれぬか、人の子よ』
えっと、頭に声が聞こえるんだけど。
「ごめんね、ぼくのひーるがたりないから。おかあさん、もうダメなの? もういっかいひーるするからがんばって」
<ヒール><ヒール><ヒール>
さっきよりは光ったけど、おかあさんの息は荒い。
『感謝するぞ、人の子よ。いずれにせよ、我の命はわずかである。産後にこれほどの傷では助からぬ。頼む、我の仔を頼む……』
そんな風に言われて、今世の母を思い出した。
おんなじ思いで俺を床の下へと押し込んだんだろう。それならば、俺はこの仔を守る!
「わかった。このこ、は……ぼくがひきとる。なまえは……フラットがいい。おかあさんみたいに、おおきくて、だれにでもやさしいおおかみになってほしいから」
『そうか、フラット。ふむ良い名だ。明日には目を開ける故、頼む。そろそろ雨になる。フラットを頼むぞ』
わかった、とフラットを見ればお腹がいっぱいになったんだろう、眠っていた。
『其方に我の加護を与える。我は逝く。頼んだ……』
え? そっと触れば息をしていないことが理解できた。
悲しすぎるけど、これがこの世界の現実だ。
このままだと冒険者たちに素材として売られてしまう、と俺は土を掘ることにした。でも、何もないから大変な事だ。
そうだ、確か魔法が使えるはず。
<土魔法>
お母さんを葬るための穴を掘りたいと思いながら発動して見れば、ドドンと大きな音がして、深い穴ができた。すごいね、これ。
そっとフラットを抱きあげて、アイテムボックスから毛布を取りだし包む。リュックへそっと入れてから、お母さん狼をそっと手で押した。ドサッと音が聞こえてお母さんは穴の底へ落ちた。近くにあった花をちぎってお母さんの周りに放り込む。
ごめんね、こんなことくらいしかできないけど。フラットと一緒に生きてくから心配しないでね。誕生日は俺と一緒だから、弟だよ。おかあさん、ゆっくり休んで……
両手を合わせて合唱して、再び土魔法で穴を埋めた。
出血量を見て思った。討伐されそうになり、切りつけられても仔を守るためにここまで逃げてきたんだろう。そしてここで出産した。だから埋葬すれば冒険者に遺体をあらされることはないんだ。
リュックにフラットを入れたまま、薬草採取を続けようかと思ったが、そろそろ雨が降りそうだ。
それなら、このまま帰ろう。
フラットを包んだ毛布を胸に抱いて、身体強化をかけて走り出す。普通に街に入れるんだろうか。門もないし憲兵もいないからいいんだろうけど、どうするかな。ギルマスに相談してみようか。
街に到着して、ギルドの前で考える。
とりあえず、ギルマスに会うまでは見られない方がいいかな。
上着の前を閉じて中に毛布の塊をそっといれておいた。
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