第7話 みしゅりるの、けん、をうけちょっちぇ、ちゃんけん、もかっちゃよ。

 ちょうど袋のクッキーが空になるころ、ドールーハの店に到着だ。


「こんにちは。おじしゃん、ナギでしゅ」

「おお、来たか! 奥に行こう」


 店を若い人に任せて奥へ向かうドールーハの後に続く。

 よっこらしょ、と昨日の部屋に入った。


「これ、どうだ。かっこよくなっただろ」


 うわぁ~と声を上げてしまった。すごくかっこいい。余計な飾りなんかはないけど、すっきりとして持ち手の部分に小さな石が入って入る。石かな、魔石かな。


「壊れにくいように強化を付与しておいた。これなら思い切り戦えるぞ。まあ、お前はまだ森に入れないけど、森には普通の剣じゃ太刀打ちできない魔物もたくさんいる。気を抜かずに頑張れよ」


「これなら、ムーンベア、ちれる?」

「ああ。サッと切れるぞ。もしかして、ムーンベア倒したのか?」

「うん。でも、かちゃいし、ごちゅい。あぶられ、ナイフがおくまでしゃしゃらなかったの。だからまほうでたおちた」

「そうか。解体用のナイフだろ? 見せてみろ。うん、これは無理だな。油が付いてる。魔法が使えるからいいな。何頭倒した?」


 三頭だと言えば、驚いていた。

 ナイフの油を拭き取ってくれながら、ショートソードをつけてみろと言われて、ベルトを外した。鞘にあるホルダーにベルトを通して締め直す。


「おっ、ギリギリだな。ちょっと斜めにしてやろう」


 そう言い、ささっとホルダーを調整してもらえば、後ろがクイッとあがった。はみ出た部分は五センチもない。それなのに、十センチは鞘の先が持ち上がった。ベルトの位置も変わってないのに。すごいな、この人は。


 そのまま剣を抜いてみろと言われてシャラッと引き抜いてみれば、スムーズに抜けた。斜めになったからかな。剣のグリップも握りやすい。今の俺にぴったりだ。


「握りは、もっと大きくなったら太くできるからな。それと、お前の親父さんの長剣だが、これはいいもんだ。かなりの代物だぞ。おそらく十年くらいは経ってるが全く問題ない。ちゃんと手入れしてたんだろうな」


 そう言って両手で差し出してくれた。

 これもミスリルらしい。元は剣士だったのかもな、と優しい笑顔をくれた。

 おとうさんの剣をひとなでして、アイテムボックスへと入れた。


 金貨五枚を渡せば、ありがとよと頭を撫でてくれる。


「おじさん、おねがい、ある。もっといい、ちゃんけん短剣、がほちいの。これはもっちおく」

「そうか。その方がいいだろう。その短剣じゃ、そのうち折れる。親父さんの形見なら、静かに持っていればいい。店で見るか?」


 うん、とフラットと一緒に店にもどった。

 お客さんがふたり来ていたが、若い人が丁寧に説明している。長剣を選んでいるらしい。


「お前なら、このあたりだな。ミスリルと鉄の合金で作った短剣で、普通サイズだ。これなら、角ウサギくらいなら狩れるぞ。解体用のナイフより楽だしな」


 そうなんだ、と引き抜いてみる。

 おとうさんの短剣よりも細くて厚めだ。重さは変わりない。うん使いやすそうだ。


「これをつけるなら、その解体用ナイフはしまっとけ。ケースはあるんだろ?」


 コクリと頷けば、パチンとベルトから外された。ナイフはもう一度手入れ用の布で拭ってからケースに戻してくれる。


「同じような作りだけど、こっちのケースの方が丈夫だし外れにくくしてる。こうやって留めて、これを差し込めば鍵になってるから外れない。安全のためにも、グリップに回したベルトはいつも掛けておくこと。守れるか?」


 コクコクと必死で頷いておく。


「いくらしゅ?」

「そうだな、お前は俺のお得意さんだ。個人的にもな。だから銀貨八枚でいい。あるか?」


 うん、とアイテムボックスから銀貨を八枚取り出して渡した。

 すげぇ、と声が聞こえる。

 長剣を選んでいた冒険者たちの声だ。手に持ってる長剣と同じ金額らしい。あはは、すみません。こういうときのためにコツコツ貯めてるんですよ、俺。


「お前はしっかりしてるな。薬草採取に徹している。その時に出てきた魔物を狩るだけなのに、とんでもない大物を仕留めやがる。その二つ、いつでもいいから磨きにこいよ。俺が作った剣は俺がメンテナンスするからな」


 ありがとう、と嬉しくなる。

 ねえ、フラットと見てみるがいない。

 あれ? どこいった?

 どうやらキラキラ光るメダルみたいなのを見ている。それなんだ? と一緒にみていれば、おじさんがそれをとって、獣魔ネックレスの留め金の部分につけてくれた。


「やるよ、フラット」


 わふっと嬉しそうなフラットは、おじさんの脚に両手を突いて立ち上がっている。でかくなるのが早いなぁ、と笑っているおじさんは、とてもやさしいのだ。


「ありがとう。あちちゃからもがんばる!」

「おう、頑張れよ! 今、薬草の買取が高いんだろ? 稼ぎ時だが複雑だよな、戦争なんて」

「うん。でも、ぼくがやくしょうとっちぇくれば、ケガ、はやくなおるから」


 そうかそうか、と頭をくしゃくしゃにされた。えっと、長い髪だからこんがらがると大変なんだよね。


 手を振ってドールーハの店を出た。

 ギルドにむけて歩いているけど、ショートソードは全く違和感なく俺の側にいてくれる。フラットも当然のように右側を歩いている。最近になってやっと皆が知ってくれるようになった、小さな冒険者とシルバーウルフの仔の二人組。うれしいんだけど、いろいろ面倒もあるんだよ。


 ギルドに入って行けば、受付のお姉さんが手を振ってくれる。


「ナギさん! 終わりましたよ~」


 カウンターに呼ばれているんだけど、ギルマスからの呼び出しだ。


「ナギ、そのままこっちこい。査定結果はこっちでな」


 はい! とお姉さんは革袋と明細をトレイに乗せてやってくる。俺はそのままフラットと一緒に階段を上がった。


「毎日お疲れだな。で、ドールーハの店に行ってきたのか? それか、ショートソード」

「あい。すごくいいでしゅ。じめんにちゅかないようにしちくれた。いっしょ、ちゃんけん、かったしゅ。おとうしゃんのはそのうちおれるっち。らからちまっとくの」

「それがいいな。で、その短剣はミスリルか? 見せてみろ」


 短剣を抜いてグリップを向けて渡せば少し驚いていた。


「ふん、ミスリルと鉄の合金か。いいもんだな。銀貨八枚か。ドールーハもよほどお前の事気に入ったんだな。新品だし破格だぞ」


 そうなんだ、と嬉しくなる。


「フラットにも、これ、くれちゃよ」


 なにを、と見てみるが、よかったなとフラットを撫でてくれた。


「で、今日はなんでムーンベアなんかと出会ったんだ。森の奥に行ったのか?」

「ちがう。ぼうけんしゃ、あぶなかっちゃ。しゃきにフラットがとびだちて、そのあちょ、ちゃすけるっち、こえかけちゃの。しゃんにん、かなりちんどかっち、みちゃい」


 パーティー名を聞かれたけど、いってもいいのかな。


「あの。いろいろしらべるっちいっちゃし、こちゅこちゅやるのがいいっち、わかっちゃって。らから……」

「わかってるよ。怒るわけじゃない。ただ、これからも気にかけておきたい。身の程を知らないなら怒るけどな」


 それを聞いて安心した。「草原の風」だと伝えれば、気にしておくといってくれた。基本、ギルマスも優しいんだ。


 じゃあ、とお姉さんを促せば、トレイが置かれる。


「えっと、まず。薬草ですが、根まできれいに引き抜かれていますので、全く問題ありません。全部で二百八十二本でした一束十本で銀貨二枚とプラスで小銀貨五枚ですから、二十八束で金貨七枚です。端数の二本は魔物買取にプラスしています。こちらはギルドが買い取りますので通常の値段二本分、小銀貨八枚になります。魔物ですが、ムーンベアの大型、これが金貨三枚と銀貨五枚。これは毛皮も肉も高ランクでした。爪や牙も全て素材として買取できましたので。中の一頭は金貨二枚と銀貨三枚です。そしてもう一頭は金貨二枚ですね。ムーンベアの買取合計は、金貨七枚と銀貨八枚です」


 そう言って、金貨七枚と銀貨八枚、それと薬草二本分だろうか、小銀貨八枚がおかれる。魔物の分ね、と並べてくれた。

 それプラス角ウサギの買い取りになったので、金貨二枚と銀貨四枚がある。

 総合計で金貨十七枚と銀貨二枚、小銀貨八枚だ!


「かなりになったな。お前が頑張ってくれるから、珍しい薬草がそろうと依頼主が大喜びだ。明日からも頑張ってな」


 はい! と革袋にお金を入れてアイテムボックスへ入れた。

 飯食って休めよ、と部屋から送り出されて、俺とフラットは食堂に向かう。


「ナギさんとフラットが戻りました~」


 そう叫ぶ声が聞こえて手を振っておく。

 壁に取り付けられている長いベンチによじ登れば、フラットはひょこんと飛び乗った。

 出してもらった水をゴクゴク飲んでしまう。はぁ、美味い水だ。

 すぐにお代わりしてくれたけど、食事のためにとっておく。


 運ばれてきたプレート二つには、山盛りの食事がのっかっている。今朝二人分払っているので、そのまま食べられるのが嬉しい。


「どうぞ、美味しいよ」


 ありがと、と満面の笑みでフォークを持つ。となりでは、フラットがテーブルに前足を置いてかぶりついた。


 満足いく食事を終えて、二人で階段を上がって部屋に向かう。

 酒を楽しむ人が増え始めたからだ。

 部屋に入って、トイレに入ったフラットが用を足した後、箱の砂をクリーンしておく。すぐにきれいにするので臭いもない。

 俺とフラットにクリーンをかけ、ベッドに転がった。


 お腹はいっぱい、身体も服もきれいになった。でもパジャマに着替えなきゃ。今日もいろいろあったなぁ。明日はなんの薬草だろう。面白いものがあればいいな……




 今日も早朝から、ショートソードと短剣を腰に下げて受付の前に立っています。


「ねえ、ナギさん。それ、買ったの? すごそうね。でも、ちゃんとした武器があった方がいいよね。魔物に襲われたときには安心だわ。あ、ごめんなさい。えっと、今日はこれと、これ……」

「わかりましゅた。じゃあ、いちばんおおくのはオットしょう?」


 よろしくね~と常時依頼の紙をもらった。その方が重要度が理解できるからだ。

 食堂で朝食を食べていると、冒険者が数人やってくる。

 俺に絡んでくるやつはほとんどいない。ギルマスや素材買取の人たちのお気に入りだと知っているからだ。

 でも、この人たちは見たことがない。よそから来た人なのかな。


「おうねえちゃん。あの坊主が食べてるやつ、俺にもくれや」

「申し訳ございません。メニューにないもので、彼のための食事なんですよ。他のものでお願いします」


 なんだと! と怒りだした。

 ヤバいなぁ~と思ってたらこっちにやってくる。


「お前、剣持ってるって言うことは冒険者だろ。いくつだ。ほんのガキが偉そうにいい剣つけてるじゃねぇか。その上、特別メニューだと? なんでそんなに優遇されてるんだよ。今朝この街に来たけど、こんなこと知らんぞ。ええっ! どういうことだ!」


 食事をトレイごとパンと吹っ飛ばされた。あ~あ、もったいない。せっかく作ってくれたのになぁ。


「どういうこちょれも、あなたにはかんけーない。まなーくらいはまもっちくらしゃい。おとな、れしょ」


 少々偉そうに言ってみた。


「何だと? いっちょ前のこと言うじゃねぇか。お前のランクは? どうせ、金持ちのボンボンが趣味でやってるんだろうが、Fランクか?」


 煩いなぁ、ほんとに。

 ぐるるぅと唸りながら食事しているフラットに苦笑する。


「何笑ってんだよ!」


 パシッと頬を叩かれた。

 いたぁ~ これ、反撃してもいいのかな。


「ぼくにそんなこちょいうまえに、あやまっちくらしゃい。せっかくちゅくっちくれたしょくじ、あなちゃがダメにちた。しょっちもわれた!」

 立ち上がって男の前で見上げる。


「はん! 何言ってんだよ。俺は食うのを断られたんだぞ? それより、お前の生意気な態度が気に入らねぇ」


 ふぅ、とため息をついてしまった。また怒るかな。

 でも、怒鳴り声はやってこない。

 なんで、と再び見上げれば、ショルダーさんが男のエリを掴んでいた。


「お前ら、こいつに因縁つけてるのか? どこの冒険者だ? どこのギルドで登録したか教えろ!」

「何だよ! お前に関係ないだろ!」

「あるんだな、それが。俺はBランクのショルダーだ。もちろん、このギルドでずっと活動している。俺はこいつを気に入ってんだよ。だから俺の弟分に因縁つけるやつは許さない。ランクと名前を言え」


 B、ランク? と男の顔は青くなる。


「えっと、えっと……すんません。三つ向こうの街から今朝着きました。Dランクのボーといいます。すみません、ごめんなさい!」


「あははは、Dランクだと? こいつと同じじゃないか。多分だけど、お前よりこいつの方が強いぞ。一人とこの眷属だけで活動してるんだからな。歳はまだ四歳だから薬草メインだけど、魔物もかなりの代物をかるぞ。オークやムーンベアなんかをな」


 えええええ? と驚いて腰が抜けたみたい。ちゃんと立ってね、大人なんだから。もうショルダーさんに任せておこう。

 しゃがんで割れた食器をかたづける。


「ごめんなしゃい。しょっち、われちった。しょくじも。むらにしちゃっちごめんなしゃい」

「ナギくんが気にすることない。あいつが悪いんだから。少し待ってて。ギルマスに聞いてくるから」


 はい、と戻ればウエイトレスのお姉さんが料理の残骸を拾ってくれてた。

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