第31話 ストップトリップスノー

 クリスマスも過ぎ去り、そろそろ年末が近づいてきていた。

 俺は年末は大抵じいちゃんの家に数日泊まって年を越すことをしているのだが、今年はどうやらいつもと違うこととなりそうだった。


「それじゃ、早速行こ、芹十」

「お友達の家にお泊まりだなんて、ワタクシ久しぶりなので楽しみです!!」


 キャリーケースを持ってきているのは、夏織と冬姫だ。

 なぜこんなことになったかというと、やはり夏織が一緒に行きたいと言い、じいちゃんに相談したところオーケーをもらった。

 が、それを冬姫に自慢したらしく、そこから彼女も行きたいということとなって今に至る、と。


「あのなぁ夏織、すぐマウントを取ろうとするのはやめとけよな?」

「はーい」


 また夏織の生意気さが戻ってきたような気がするが、もとに戻ってきていて喜ぶべきか、喜ばない方が良いべきか……。


 そろそろ出かける時間なので、俺も最低限のものを入れたリュックを背負って外に向かう。

 時刻は昼過ぎ、そして大雪である。


「電車、止まんなきゃいいがな……」


 ちなみに俺含め三人で行くのだが、母さんはまだ仕事があるため明日車で来るとのこと。

 俺たちは電車でじいちゃん家に行く予定だ。


「んじゃ行くか!」

「ん!」

「はいっ!!」


 二人を連れ、俺たちは駅へと向かった。



 # # #



 無事駅に到着して電車に乗ることもできた。

 年末だからか、なかなか人が多い気がする。普段あまり電車に乗らないから通常がどのくらいかはわからないが。


「そういや冬姫、よく両親が了承したな」

「はい。芹十くんの名前を出したらオーケーしてくださいました」

「……あのな、今の俺はごくごく平均的な普通の男子高校生だぞ。昔のように家の付き合いとかはないんだし」

「えぇ、だとしても、です。お父様もお母様も、芹十くんの実力を認めているので」


 ニヤリと笑って歯を見せてくる冬姫。

 やはり頭もいいことなし、食えないやつだ。


 俺は視線止まっている電車の窓を見つめてしんしんと降る雪を眺め始めたのだが……電車が全く動こうとしない。

 嫌な予感がするなと思ってスマホを見ると同時に、アナウンスが響いてきた。


『ご乗車の皆様――』


 まぁ要約すると、大雪による運休とのこと。運休再開は未定らしい。

 まだじいちゃんの家まではそれなりに距離があるので、歩いていくとかは考えられないだろう。


 チクショ〜!! 大晦日の一日前にじいちゃんの家行って色々エンジョイしようとしてた俺の計画がよォ〜〜!!!


「どうしますか? ワタクシがホテルでも予約しましょうか?」

「いんや、この近くならじいちゃんの知り合いが営んでる宿があるから、そこに行ってみよう。空いてるかはわからんが、近いから一旦な」

「重いなら私が荷物持つ。この中で一番力持ちだし」


 せっかくじいちゃん家に行けると思ったのにまさか運休に阻まれるとは思いもしなかった。出鼻を挫かれた気分だ。

 しばらく重い荷物とともに歩き続け、息を切らす俺と冬姫、そしてけろっとしている夏織。本当に勉強以外ならなんでもできるな、コイツ。


 そして数分後、ようやく件の宿へと到着した。

 そこは趣のある外観をしており、それなりにお高そうな宿だ。まぁ、俺とじいちゃん昔はよくここに行っていたし、それなりに融通が利くのである。


「すみませーん、原ばーちゃんいるー?」

「はーい。……あら、芹十ちゃんいらっしゃい! やだわ〜こんなめんこい女の子二人も連れてきちゃって〜♡」

「こ、こんばんは……」

「初めまして。冬姫と申しますわ」


 カウンターから出てきた原ばーちゃんこと、この宿を営んでいる人物。夏織は借りてきた猫のようになっていた。

 さて、部屋が空いているといいが、果たしてどうだか……。


「お爺様から事情は聞いたわ。でもね〜、部屋が一つしか空いてないのよ〜……。そ・れ・で、一緒の部屋になっちゃうけれど構わないかしら?」

「エッ」

「だいじょーぶです!!!」

「はい! 全く問題なしですね!!!」

「お前らっ!!?」


 いきなり元気になって返答する夏織と、いつものお淑やかさからかけ離れた大声を出す冬姫。

 原ばーちゃんもそれを見てなんかニヤニヤしてるし、余計なお節介が働きそうな予感がビンビンした。


 晶くん助けてくれ……ッ! このままじゃおたくのお嬢様に何されるかわかんないぞォォ!!


 不安が募りに募ってきているが、どうやら天候は彼女らの味方らしい。みるまる行きの勢いが強まって行き、ここから出さんぞという意思がひしひしと伝わってくる。


「はぁ……仕方ない、か」


 俺は諦め、ばーちゃんに案内されて空いている部屋へと向かうのであった。

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