第30話 煌く灯を耳と首につけて

 クリスマスイブである12月24日。

 別に雪などは降っていないが、街中でギラギラと光っているイルミネーションどそれを実感する。


 待ち合わせ場所はカップルどもがイチャコラしているが、今から俺と夏織もそういうやつらと同じように見られてしまうのではないか?

 いいのだろうかと疑問に感じながら待っていると、うるさかった周囲が一層と騒がしくなったように感じた。


 ざわめきが多い方に近づいてみると、何やら少しトラブルが起きていたようだ。


「なぁなぁ、ちょっと俺らと遊ぼうぜ〜?」

「待ち合わせなんかほっぽってさ! 絶対楽しいから!!」

「…………はぁ」


 俗に言うナンパ族だな。女子を見境なく手を出そうとし、数打ちゃ当たる精神で、無理なら無理で蛮行を行う野蛮な生態を持つ。

 だが、そのナンパどもが話しかけていたのが俺に知人……もとい、待ち合わせをしている夏織であったのだ。


「あー……夏織? 大丈夫か?」

「! 芹十! 大丈夫だった? 私が来る間に変なやつに手出されなかった?」

「大丈夫だが……お前の方が大丈夫か?」

「何が? このキモいやつらのこと? 全然大丈夫だよ」


 夏織はナンパ族二人の神経をを逆なでするかのように、笑いを込めて彼ら二人を一瞥する。


「テメェこのクソ女ァ!!」

「痛い目見たいらしいなゴラ!!!」


 俺は呆れのため息を吐き、一歩後ろに下がって

 夏織は殺し屋かなと思えるくらい無駄のない動きをし、人差し指だけでツボを押し、二人を気絶させる。


「今、芹十に手を出そうとした……。コイツらは危険因子だし、今こそ禁忌である即死のツボを――」

「はいはい! イヤァ〜助かった!! さぁ行こうか!!」

「そんなに行きたいの? ……わかった。運が良かったね、二人とも」


 息を巻いていた夏織だったが、なんとか血のクリスマスイブにはならずに済んだ。

 外は寒いと言うのに汗が止まらない。俺のためにやってくれているんだろうが、ヒヤヒヤするからやめてほしいね……。


「んで? イルミネーション見るっつってももう終わっちまったぞ」

「まだあるでしょ! ほら、い、行こっ」


 わざわざ身につけていた片方の手袋を外し、俺の方に差し出してくる。

 手を繋ぎたいという意思は伝わってきた。が、なぜ外したんだろうか……? ちょっと俺には理解ができないぞ。


 わからないなりに考えた結果、俺も片方の手袋を外して手をつなぐことにした。

 すると夏織は、マフラーで顔の半分を隠す。口元は見えないが目元は笑っていることだし、多分正解だったのだろう。


 平常心を保ちながら歩いているつもりだったが、ふと店のガラスに反射した自分を見ると耳が赤くなっていた。

 これは……そう、寒さが原因だ。顔も赤いと言われてもうるさい。寒さが原因と言ったらそうなのだ。


 煌びやかなイルミネーションをキョロキョロと見渡していたのだが、ふと夏織の方を見ると俺をジッと見つめているのに気がつく。


「……夏織? なんかついてるか?」

「んーん、なんでも。綺麗で素敵だよね」

「あぁ、キラキラしてて綺麗だよなー」

「うん、それも、ね」

「……? なんだ?」

「ふふっ、楽しい♪」


 今日の夏織は、どこかいつもよりふわふわしているような気がする。

 どのイルミネーションよりも眩しい笑顔を浮かべる夏織を見続けていたら失明しそうだったため、俺は煌びやかな服を身に纏うクリスマスツリーに目を移した。


 時間もだいぶ経過して、そろそろ寒さも強くなってきたのでプレゼントの交換をすることとなる。


「それじゃ、私から。芹十はいつ死んじゃうかわからなくて不安だから、どこにもいかないようにここは手錠を……」

「ピッ!!?」

「……ってのは、流石にじょーだん」

「お、驚かさないクダサイ……」


 冗談なのだろうか。それを言っていた時の目が一瞬本気マジに見えたが……。ま、まぁ夏織が言ってるんだし、流石にないよな。

 バクバクと慌て始めた鼓動をなんとか落ち着かせ、本当のプレゼントを受け取る。


「……これは?」

「ピアスだよ。ノンホールピアスって言って、穴を開けなくてもつけれるやつ。なんやかんや芹十もおしゃれだし、こういうの渡しても大丈夫かなって」


 金色と白色の三日月の形をしたピアスで、男の俺がつけるのは少し憚られる。ま、夏織と出かける時はありがたくつけさせてもらおう。

 机に飾っていてもオシャレになるだろうし、普通に嬉しい。


「ありがとう」

「つけてあげるから、じっとしてて」

「ひょっ!? く、くすぐったいんだが!!? いやんっ!!」

「へ、変な声出さないで!」


 めちゃくちゃくすぐったかったが、なんとからつけてもらうことに成功した。スマホで撮ってもらったものを見せてもらったが、似合っているのかどうかはわからない。

 夏織は嬉しそうにはにかんでいるし、大丈夫だろう。


「んじゃ、次は俺だな。ほい」

「これって……」

「あぁ、ネックレスだ! まぁなんだ。遺書とかで不安にさせちまったし、いつでも感じられるようなそんなニュアンスで……。色々な助言をもとに選ばせていただいた所存だ」


 夏織は受け取ったネックレスと俺を交互に見て、大きく口を開けて何やらワナワナしていた。

 これは喜んでいる……と受け取っていいのだろうか?


「あ……あ、えっと、すごい嬉しい……! ありがと、芹十」

「よかった。ちょっと重いかと思って不安だったぜぃ」

「そんなことないよ。……ねぇ芹十、つけて」

「ん? まぁいーぞ」


 一旦ネックレスは返却され、夏織の背後に回り込もうとしたのだが、くるりと彼女も開店して対面を向く。

 俺が回り込もうとしても、同じように移動して全く背中を見ることができない。


「あの……カオリサン?」

「付けてよ。わざわざ背中に回りこまなくてもいいから、さ」

「くっ……!!」


 なるほど……これが目的だったか汐峰夏織ィ……!

 俺は溜息を吐き、諦めて対面のままネックレスをつけるために腕を彼女の背中へと移動させる。

 カチャカチャと手を動かして無事つけると、夏織はそのまま俺の胸に飛び込んできた。


「あの……すごい目立ってるから……」

「うん、わかってる。けどごめん、我慢、むりかもだから……。もう少し、あったまらせてほしい、な」

「っ……はぁぁぁ。わかった、今日は特別な日だしな。……ハッピーバースデイ、夏織」

「えへへ♡ メリークリスマス、芹十♪」


 黄色い歓声やらなんやらが聞こえてくるが、俺はただただ寒さを溶かすほどの恥ずかしさをひしひしと感じつつ、彼女の温もりを直で受け止め続けるのであった。

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