第29話 昨日の敵は今日の友

 参戦してきた夏織にツボを押されて気絶、もとい熟睡中になった浩介。

 事情を帰ってきた晶くんに伝えると、深いため息を吐いた。


「はぁぁ……この人って本当に面倒っスよねぇ……。まぁ下手に殺したとか怪我させたとかではないので大丈夫だと思うっス!」

「よかった……。これで明日もクソゲーをできる!」

「にしてもまさか、メイド服を着て乗り込んでくるとは思ってなかったっスよ! でもメイド服着ただけだと入れるわけではないんスけどね?」

「私は勉強できない代わりに他が色々とハイスペックだから。潜入はお手の物」


 ドヤッとした顔をし、俺にベタベタと抱きつきながらスマホで俺をパシャパシャと撮っている。

 許可した覚えはないが、助けられたことは事実。甘んじて受け入れようぞ。


 しばらくすると、部屋に冬姫がやってきた。スヤスヤ寝ている浩介を嘲笑っていたが、夏織を見た途端に苦い表情になる。


「な、なぜあなたがここに……」

「芹十に呼ばれたからに決まってる。芹十の命を脅かすものはなんであろうと私が対処するから。あんたでも、ね」

「そうですかそうですか。それはとても素晴らしい心意気です。ですがこの屋敷に入ることを、ワタクシは許した覚えがありませんが……!!」

「芹十を助けられないような雑魚は引っ込んでて」

「むき〜〜っ! ムカつきます!! あとワタクシも写真を撮るので退いてくださいっ!!!」


 コロコロと変わる表情だったが、最終的には俺と写真を撮ってニマニマした顔へと落ち着いた。


 その後、日が沈みかける頃まで浩介は眠り続け、俺はその間に着替えを済ませておく。

 もう会うことはないだろうなと思い、給料を受け取って屋敷を後にした……のだが。


「ん?」

「げっ」


 目を覚ましたのか、浩介とばったり出くわしてしまう。なんでか俺の顔をジロジロ見てくるが、気のせいだろう。

 流石に女装しているから気づかれないはず……。


「君、もしや芹子さんとの血縁者か?」

「え、あ、あー……。まぁ、双子の兄の松浦芹十、だ」

「おお! やっぱりか!! オレは皇浩介だ!!」


 パァッと顔が明るくなったかと思えば、その顔が見えなくなるほど深々と頭を下げられる。


「えっ!!?」

「申し訳ないッ! 君の妹さんにオレは無理やり迫ってしまった!! 興奮すると割れを見失ってしまうことがよくあって気をつけているのだが、本当に申し訳ない……。どうか許して欲しい」


 心の底から悪いやつ……というわけではないのだろうか。

 まぁここで「許さん」とか言ったら「なんでもする」とか言って付きまとってきそうだし、適当に許しておこう。


「妹もそんな気にしていないって言ってたから、そんな気にすんな。ま、俺から伝えておくからな」

「ほ、本当か! ありがとう、お義兄さん!!」

「あぁ。…………ア?」


 なんか漢字が変な感じがした気がしたが、多分これも気のせいだろう。そうしておかないと、また俺の胃痛の原因が増えそうだし。

 その後、適当に会話をしてコイツとは別れた。多分もう会わないし、大丈夫だろう。



 # # #



 ――翌日、デパートにて。


「あ、お義兄さん。こんにちは!!」

「…………。よ、よぉ、浩介クン……」


 少し用事があって一人でデパートに買い物に来ていたのだが、なぜかまたばったりと浩介とエンカウントしてしまった。

 これが〝引力〟というやつなのだろうか。迷惑なのでやめてほしい。


「お義兄さんは何か用事でデパートに来たのか?」

「ま、まぁ……。ちょっとした用事がな」

「オレもお供させてくれ!!」

「いや、別にいらない……」

「さぁいざ行こう!!!」

「コイツ話しを聞かねェ!!」


 まぁ少し悩んでいたところだし、付いて来るのならば相談に乗ってもらおう。

 だが、ボロが出ないように会話しなければならないな。なんでこんなヒヤヒヤしないといけないんだよ、マジで。


「それで、お義兄さん。具体的に何を買いに来たんだ?」

「んー、実はクリスマスイブが幼馴染の誕生日でだな。それを買いに来たんだけど何を買えばいいか……」

「おぉ、それはいいな! 毎年あげているのか?」

「いんや、今年は一緒にイルミネーション見に行きたいって言われて、せっかくならプレゼントも交換し合おうってなったんだ」

「ロマンチックじゃないか! そういのはオレも好きだぞ!!」


 ブンブンと両手を振って興奮を露わにする浩介くん。なんか昨日とは打って変わって、忠犬みたいになったな。


「最近少し不安にさせちゃったこともあったし、そういう不安も少しでも拭えるようなプレゼントがあればいいが、何も思い浮かばなくてな」

「成る程、確かに難しいな。……あっ、ではこんなのはどうだ? ――――」

「……あー、それもアリか。でも重くねェか……?」

「そんなことないぞ!!」


 逆に少し重いくらいでも大丈夫なのだろうか。今の夏織なら大抵のことならなんでも喜んでくれそうだし、大丈夫……か?

 まぁなんとかなるか。よし、で行こう。


「じゃ、それにするか。ありがとな」

「あぁ! 困ったことがあればいつでも言ってくれ!」


 昨日はなんとかしなければと敵対していたが、今となっては相談相手となっている。まさしく昨日の敵は今日の友というやつだろう。

 兄になった覚えはないし、なるつもりもない。が、友達にはなってやってもいいかなと思ったりした。

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