(4)――わからないのだから、調べないと。
「すみません、これの続き……? のような資料はありますか?」
「それでしたら、こちらにございます」
司書は、間髪入れずに一冊の本を差し出してきた。あまりの手際の良さに、ここまで調べる人間は、その本を続けて読む人間が多いのかもしれない、と思った。
「確認させていただきます」
そう言って手に取ったのは、紫色の本だった。
鮮やかというよりは、おどろおどろしい色合いのそれに、少しだけ中を確認するのを躊躇ってしまう。
しかし、躊躇しているわけにもいかない。
私は、私のことを知らなければならないのだ。
何故?
何故って、それが当然のことだからだ。わからないことや知らないことがあれば、調べる。ただそれだけのことだ。
意を決して紫色の本を手に取り、開く。目次から『桜居宏次朗』の項目を探し出し、該当するページを開く。三冊目ともなると、その動きにも無駄がなくなってきたように思う。
桜居宏次朗。職歴、なし。
しかし、慣れた手つきで開いたページの先にあったのは、それだけだった。
前後の項目は他人の情報で、私に関する記載はそこにそれだけしかない。
「……」
堪らず、言葉を失う。
私は、失敗していた。
姉とは違うタイミングで、しかし、決定的な失敗を犯してしまっていた。
就職ができていなければ、それまでの勉強の意味がない。私は大学卒業を期に、全てを無に帰してしまっていた。
ああ、そうだ。
失敗して、それまで積み上げてきたものを、全て無駄にして。
私は、自室から出られなくなったのだ。
十三年間。
ずっとずっと。
来る日も来る日も。
ひとつの部屋の中に閉じこもって。
変化が起こらない日常に安堵し、逃避していたのだ。
現実から目を逸らして、そして、記憶を失ったとでもいうのだろうか。
わからない。
わからないのだから、調べないと。
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