星が見たくて。
彼岸水
一
こない。
電車に揺られながら携帯を見る。
あの人〝から〟の連絡がこない。
鳴らない携帯に向かって小さく溜息を吐き、有り余るほどの話題の中からどれをあの人に話そうかと考えた。
そうだ。あの本の話題にしよう。私は今思い立ったことをあの人に伝えるべく、文章を打った。
『○○という本はご存じですか。』
送信のマークを押す直前、私は躊躇った。
そもそもあの人はあまり本を読まない。それに、この本だって私が数か月前に読んで、〝とても面白かったような気がするけれど、内容を思い出して語ることは難しい〟といった曖昧な立ち位置にある本だ。
もう一度携帯に向かって小さく溜息を吐き、『今日も一日お疲れさまでした。』というなんとも無難な文章を今度は迷いなく送信した。
一時間と少しが過ぎて、携帯が鳴った。あの人からだ。
『ありがとうね』
この返信から会話が続くことなんて、まあ期待してはいない。一日に数度話ができるだけで幸せと考えたほうがいい。でも、私はもっと話がしたいと毎回思ってしまう。気分が落ち込んでいるときなんかは、『あなたは私と話がしたいと思ったことがありますか。』なんて面倒極まりないことを聞きたくなってしまう。
空も茜色に染まり切り、そろそろ星が綺麗に見えるようになる時間だ。電車を降りた私は、いくらか下がった気分のまま改札を通り、大通りへと歩を進めた。
星が見たくて。 彼岸水 @cluster_amaryllis01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。星が見たくて。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます