12 誰かの気持ち②

 深夜の一時半、お兄ちゃんのそばで目が覚めた。

 そしてすぐ目の前にいるお兄ちゃんの顔。すごくカッコよくて、すごく可愛くて、やっぱり私のお兄ちゃんは他のくだらない男子たちと違う。私の話ならなんでも聞いてくれるし、自分より私のことを優先してくれるから、こんなお兄ちゃんを独り占めできるなんて、それは幸運そのものだった。


「…………」


 そしてお兄ちゃんは寝耳が鈍いから、深夜になると私が何をしても起きない。

 だから、私は深夜になるまで寝たふりをしていた。お兄ちゃんは私が眠るまで寝ないから、これは油断させるための作戦。なぜこんなことをするのか、それは眠った後のお兄ちゃんにいろんなことができるからだよ。


 まずは「キス」———。

 お兄ちゃんとしないって約束をしたけど、そんな約束……私が守るわけないじゃない。深夜になるとその唇は私の物になる。何度も何度も……、私はその唇にキスをした。中学生の頃、好奇心でやってみたキスが癖になってしまったから。そのままお兄ちゃんをぎゅっと抱きしめても起きない、今までずっとそうだったからお兄ちゃんもそれに慣れていた。


 すごく楽しい。


 私がどれだけお兄ちゃんのことが好きなのか、お兄ちゃんは多分知らないかもしれない。幼い頃からずっとお兄ちゃんのそばでたくさん甘えてきたけど、お兄ちゃんは私を意識してくれなかった。やっぱり私のことをただの妹だと思っているかもしれない。妹じゃなくて、一人の女の子として見てほしいのにね。


「好き……、お兄ちゃん…………」


 この時間になると私は自分の欲求を抑えられなくなる。

 もっともっと……お兄ちゃんのことを汚したくて私の物にしたくて耐えられない。


 そして我慢できなくなった時はをする。

 もちろん、お兄ちゃんの「手」でね。

 どうせバレないし、お兄ちゃんがそこを撫でてくれるような気がしてすごく気持ちいい。これも癖になっている。


 そのままパンツの中に手を入れて、私は声を我慢していた。大好き……。


「……っ、いちゃん……。お兄ちゃん…………」


 そして今夜も……行っちゃった。


「……っ」


 あれをした後はすぐ眠れないから、しばらくお兄ちゃんのスマホをいじる。

 お兄ちゃんは昔私と約束をして、スマホにはパスワードをかけないことにした。それをいまだにちゃんと守っている。こんなお兄ちゃんが好きになるのは当たり前のこと。好きすぎて、死んじゃう。そしてお兄ちゃんの一番はいつも私だから……、それもすっごく好きだった。


 私はお兄ちゃんのすべてを知っている。

 癖も、好きな食べものも、好きな女の子のタイプも、全部ね。

 だから、私もいろいろ頑張っている。お兄ちゃんの可愛い妹になるために。


「ライン……、ライン…………」


 そして定期的にお兄ちゃんと連絡をしている人を確認する。

 その中には私のことが好きになった人がいる。梅沢隼人。「一目惚れしたから一花ちゃんと仲良くなりたい」ってずっとお兄ちゃんを苦しめる人。なぜ私がこんなくだらない人と仲良くならないといけないのか分からない。ブスだし、会うたびにジロジロ私を見ていたからすごく気持ち悪かった。


 でも、お兄ちゃんに頼まれたから……。少しだけ遊んであげることにした。

 その後、通話履歴を見る。


「やっぱり……♡ 私しかいないよね……? ふふっ♡」


 通話履歴には私しかいなかった。

 それ以外はほとんどスパム電話。


 そして高校卒業まであと三年、高校を卒業すると私はお兄ちゃんと永遠に一緒にいられる。その時まで頑張ってお兄ちゃんのすべてを監視しないといけない。その代わりに、お兄ちゃんに私のすべてをあげるから。私はお兄ちゃんさえいれば幸せになれる。私のためにずっと犠牲してきたその時間を、全部埋めてあげるからね———。


「大人になったら……、私と赤ちゃん作ろう♡ お兄ちゃん♡」


 耳元でそう囁いた後、居間のソファに座る。

 そしてお父さんに電話をかけた。


「一花か、どうした? こんな時間に。香月と喧嘩でもしたのか?」

「ううん……。眠れないからお父さんに電話したの。最近、忙しくて全然連絡できなかったからね。ちょっとだけ時間ある?」

「そうか、少し話をしようか」

「うん!」


 お父さんにはいつも感謝している。

 お兄ちゃんと二人っきりで生活できるようにいつも頑張ってくれるから、私はお父さんのこともすごく好き。


「最近どう過ごしている? 香月と」

「お兄ちゃんはいつもの通り私のことを大切にしてくれるからね。心配しなくてもいいよ」

「そうか。そして……、あの話はしたのか?」


 あの話……。


「ううん……。まだ……」

「幼い頃に一花がそうしたいって言ったから香月にはまだ話してないけど、ずっと香月を騙す必要はあるのか? もう高校生だろ?」

「でも……、まだ言いたくない」

「そうか、別に関係が壊れるほどの話じゃないと思うけど。一花がそうしたいなら、俺も知らないふりをする」

「ありがとう、お父さん」

「そしてお小遣いとか大丈夫?」

「うん……! お兄ちゃんとちゃんと節約しているから、十分だよ。いつもありがとう。そろそろ寝るから、お父さんおやすみ!」

「分かった、おやすみ。一花」

「うん!」


 電話を切った後、しばらく夜空を眺めていた。

 私はお兄ちゃんにその話をしていない。それは私の「嘘」から始まったこと。そのおかげで簡単にお兄ちゃんを束縛することになったけど、その代わりに距離感ができてしまった。私のことを家族だと思っているから、それ以上私と距離を縮めようとしない。知っているけど、どうしたらいいのか分からなかった。


 でも、私はこの関係が好きだから……。

 もし、この関係がなかったら私たちは———。


「…………」


 好きという感情が溢れてきて、どっちが正解なのか分からない。

 そのまま部屋に戻ってきて、お兄ちゃんに抱きついた。


「お兄ちゃん……」


 首筋に残っている私のキスマーク。

 お兄ちゃんはそういうことに鈍感だから、それがどんな意味なのか分からないはず。


 そういうところも好き、お兄ちゃんは純粋だからね。

 本当に幸せだよ。

 ずっと探していた私の王子様はやっぱりお兄ちゃんだった。だから、私は何があってもこの関係を守る。絶対守ってみせる。


「…………」


 そしてこっそりTシャツの中に手を入れた。


「……ふふっ♡」


 この時間は私の宝物……。


「好きぃ……♡」

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