11 誰かの気持ち
一緒に買い物をした後、俺たちはいつもの通りソファでくっついていた。
夕飯までまだ時間があるからテレビをつけたまましばらくじっとしているけど、どうやって話せばいいんだろう。隼人の話……。それがけっこう難しかった。そして隠そうとしても結局一花と仲良くなって付き合いたいのが本音だからさ。
ちらっと一花の方を見ていた。
「お兄ちゃん、どうしたの? さっきから変!」
「えっ? そうかな?」
「うん! 普通なら私に声をかけたり、ぎゅっとしてくれたりするけど、今日はずっとぼーっとしている! 何かあったの?」
「ううん……。一花が可愛いからさ、その可愛い顔を見ていた」
「そ、それなら! し、仕方ないね……」
可愛いって言ってあげるとすぐ照れてしまう。
そして真っ赤になる耳をすぐ後ろで見ていた。
「あのさ、一花」
「うん?」
「もし、俺の友達が一花と仲良くなりたいって言ったら一花はどうする?」
「私と? なんで?」
ここでちゃんと答えないといけないのに……、すごく難しい。隼人、ごめん。
どれだけ考えても一花にバレずそれを言うのは無理かもしれない。
「ううん……。まあ、仲良くなりたい理由はいろいろあるだろ? そして一花も高校生になったからさ。友達が増えるのはいいことだと思う。みんなとたくさんの思い出を作るんだよ」
「でも、お兄ちゃんの友達と仲良くなって私にどんなメリットがあるの?」
だろうな……。
隼人に「一花と仲良くなりたいからなんとかしてくれ」って言われたけど、いきなりその話を持ち出すのはやっぱり不自然だよな。それにメリットか……よく分からない。今の一花は多分そういうことに興味ないはずだからさ。
そのままじっと一花を見つめていた。
やっぱり無理だよな。
「そんな顔しないで、そしてお兄ちゃんの友達なら……。あの先輩かな? 梅沢先輩」
「そうだけど……」
「仲良くなれるかどうか分からないけど、一応頑張ってみるからね」
「えっ!? マジ?」
「うん! そしてみんなと楽しい思い出を作りたい! お兄ちゃん昨年は何もしてないんでしょ?」
「そ、それはそうだな……」
そう簡単に頑張ってみるって言うのか? 意外だった。
てっきり「いらない!」って言うと思っていたからさ。少し……、可能性があるかもしれない。隼人。
「じゃあ、私頑張るからその代わりにご褒美が欲しい!」
「ご、ご褒美? 何がいい? 甘いものでも買ってこようか?」
「ううん……。お兄ちゃんのここに……、チューしてもいい?」
指先で俺の首筋をつつく一花。
そして首にチューするってことは、またエッチなことがしたいってことだよな。
確かに、それはキスじゃないから断れない。俺が言ったキスは口にすることだからさ、それ以外は全部オッケーだった。そして一花はそれをちゃんと知っている。だから、こんなことを要求するんだろう。
今更後悔しても意味ないな……。
「いいよ、好きにしろ! 約束は約束だから……好きなだけやってみろよ! 一花」
一か八かだ。
「うん♡」
そしてすぐ一花に首を噛まれる。
「ちょっ! まっ、待って! 一花、これはチューじゃねぇだろ!?」
「いっひょうあはら……」
一緒……って言ってるのか。何が一緒なんだ?
とはいえ、俺……こんなに首が弱かったのか……? 別に痛くないけど、なんっていうか、妹の前で変な声が出そうでさ。少しやばかった。それに一花がずっと俺を抱きしめているから逃げられない。このままじゃ何もできない。
変な感触、それは一花に食べられているような感触だった。
「…………っ」
やばい……、感触がやばすぎる。
てか、これ……キスよりエロくない……?
それに指でつついたところにチューするだけだと思っていたのに、反対側も噛まれてそのままソファに倒れてしまう。これはチューじゃなくて、噛んだり、吸ったりして一人でめっちゃ楽しんでいるように見えた。
一花……。
「うふふっ♡ あら、ごめんね。お兄ちゃん……。私やらかしたかも……」
「…………」
それが終わるまでずっと息を我慢していた。
そんなに痛くなかったから別にいいけど、その「やらかしたかも」の意味はなんだろう。ソファに倒れたまま、俺を見下している一花を見ていた。妹にやられっぱなしでさ、本当に恥ずかしかった。
そしてさりげなく俺の体に乗っかってニコニコしている。
「どうせクラスにいてもやることないし、休み時間ごとにそっち行くから。ふふっ」
「そうか、分かった」
隼人……、俺は精一杯頑張ったぞ。
この後はお前に任せた。正直、ここに意味があるのかどうか分からないけど、一応一花がそう言ったから可能性はあるかもしれない。付き合うまで少しずつ頑張ってみろ。俺は応援している。
そして二人が付き合ったら、俺も……自由になれるだろう。
それに一花を意識する理由もなくなるし。
そう、一花に必要なのは一花のことを大切にしてくれる人だ。だから、好きな人ができるまでは俺がそばにいてあげないといけない。隼人と上手くいけるといいな。人は外見だけじゃないからさ。
「お兄ちゃん、今めっちゃ可愛い……。写真撮っていい?」
「や、やめてよ……」
「ひひっ」
笑いながら写真を撮る一花。
片手ですぐ目を隠したけど、撮られるのは仕方がないことだった。
「見て見て! 超可愛い!」
「…………一花、これは……」
「あっ、これね! キスマークって言うの! 口で皮膚を軽く吸うと吸ったところが赤くなる! 可愛いよね? でも、心配しないで! これはすぐ消えるから」
「そ、そうか」
なぜ首を吸ったのか分からなかったけど、これを残すためだったんだ……。
てか、吸われたところが真っ赤になっている。不思議……。
そして女子経験のない俺は、このキスマークにどんな意味があるのかよく分からなかった。一花に言われた通り「吸われると赤くなる」それだけだと思っていた。いつもこんな感じで過ごしていたからさ。
「お兄ちゃん」
「うん?」
「興奮したの?」
「し、してねぇよ!」
「そう?」
「そう……。妹にそんなこと———」
あれ……? なんで俺……、一花に反応しているんだ?
どういうこと? あれ? どういうことなんだ、これ。
「ふふっ♡ お兄ちゃんは変態だね……♡」
「か、からかわないで……! は、早く……夕飯を作ろう! 一花」
「やーだよ〜。私はもう少しお兄ちゃんとくっつきたい〜」
「まったく……」
そのままソファで一時間くらいくっついていた。
そしてまた俺の首に唇を当てる一花。
「ちょっと……! もういいだろ!? 一花」
「ええ、ケチ! 私はお兄ちゃんの頼みを聞いてあげたのに……。こんな簡単なことすらやらせてくれないの? むっ!」
「……わ、分かったよ!」
すごく恥ずかしい……。これ、すごく恥ずかしいんだから……!
勘弁して、一花……。
また一花の前で息を我慢していた。マジで変だよ、この感触。
「はあ……♡ うん! 大満足!」
「はいはい……、よかったね」
なんかボロボロになった気がする。
「うん♡」
早く……、この子を連れていけ。隼人……、俺はもう無理だぁ。
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