3 大雪とイブ
十二月二十四日、今日は朝からすごい量の雪が降っていた。
もうすぐクリスマスだから雪が降るのはいいと思うけど……、外がめっちゃ寒そうですぐ風邪ひきそうな天気だった。それに今日一花が水原さんと一緒にショッピングをするって言ったから、なぜか心配になる。
さっきから風がすごかったからさ。
学校が終わる頃には止んでほしいな。この雪。
そして窓を叩く強い風の音にぼーっとしていた。
「おいおい! 香月! 今年のクリスマス、予定ないよな?」
「クリスマス……、予定あるよ。ごめん、隼人」
「もしかして、妹か!? また妹かよぉ」
「知ってるくせに……」
「理解できない! どうしてお前んちはそんなに仲がいいの!? 俺はいつも妹に死ねって言われているのにぃ!」
「というわけで、俺は無理。
「私?」
後ろからさりげなく俺の肩に手を乗せる早乙女さん、彼女はうちの委員長だ。
俺たち三人は同じ中学校出身で、中学二年生の頃から仲良くしている。
もちろん、俺より二人の方がもっと仲がいいけどな。俺の場合、一花が家で待っているからみんなと思い出を作るようなことはできなかった。だから、学校にいる時にいろいろ話している。
「ゆいちゃん、聞いて〜。香月今年も無理だって!」
「妹?」
「そうそうそう! たまには俺たちと遊んでもいいんじゃね? 寂しいよ、香月」
「俺もそうできるならいいけど、心配になるからさ」
「それもそうだね。香月くんが帰らないとずっと一人で待つことになるから、それは寂しいかも。それにまだ子供だし」
「それは仕方がないな……」
一花が中学三年生ってことはこの二人にまだ話さなかった。
妹がいるってことも高校生になってから教えてあげたことだからさ。
多分、この二人が想像している妹は小学生くらいだと思う。なんか、嘘をついているよな気がして心に引っかかるな。とはいえ、この二人はいつも仲良く話しているからさ。俺がいない方がもっと楽しめると思う。
そういう関係だろ? 二人は。
「じゃあ、仕方ないね。イブもダメ?」
「うん、イブも……」
「香月! 今年はもう終わるぞ! みんなで何かしようよ! 香月!!!」
「学校にいる時はいろいろできるだろ?」
「このシスコン!」
「ええ……、二人で行ってこいよ。なんか面白いことがあったら教えて」
……
学校が終わった後、すぐ家に帰ってきた。
気のせいかもしれないけど、学校にいる時より雪と風が強くなっているような気がする。
そしてこの家で一人になるとたまに昔のことを思い出してしまう。
あの日も今日みたいに大雪が降っていた。
それはクリスマスイブにあったこと。中学一年生だった俺はクラスメイトに誘われて、何気なく彼の家で一時間くらいゲームをした。一花もそろそろ中学生になるし、もう俺の保護は必要ないと思っていたからさ。
何かあったら連絡するだろうと思って、気にせずその時間を楽しんでいた。
そして家に帰ってきた時、暗い部屋の中でずっと泣いている一花に気づく。
すごく震えている体と手、一花は「すごく寂しかった!」って言いながら俺に抱きついた。大粒の涙を流しながら俺を見ているその目を、俺はまだ忘れていない。だから、もう少し一花と一緒にいようと思ったけど、来年は一花が高校生になるからもういいよな。
とはいえ、できるかどうか分からない。
そのままソファで窓の外を眺めていたら、一花から電話がかかってくる。
「一花、どうした?」
「お兄ちゃん……」
なぜ、落ち込んでいるんだ? 一花。今日楽しくなかったのか?
「ど、どうした? 一花。何かあったのか? 大丈夫?」
「えっと……。む、迎えに来てくれない? お兄ちゃん……」
「ああ、そういうことだったのか。確かに、今日は天気が悪いよね」
「うん……。ごめん……。面倒臭いよね? 私」
「そんなこと言うなよ、すぐそっち行くから」
「ありがと……」
電話を切って、すぐ一花が待っているショッピングモールに向かった。
なるべく早く……。
「ああ、傘!」
……
そしてショッピングモールに着いた時……、一花と水原さんが入り口で俺を待っていた。やっぱり、雪がすごいから帰れなかったのかな。でも、なんか楽しそうに話していてホッとした。
行こうか。
「一花、そして水原さん久しぶりです」
「七海さんだぁ……!」
「お兄ちゃん!」
「一花、寒くない?」
「すっごく寒い……!」
真っ赤になっている一花の顔と耳を見て、思わず「やっぱり」と言ってしまう。
マフラーくらいはしろよ、風邪ひいたらお父さんに怒られるって……! と言いたいけど、水原さんがいて黙々と俺のマフラーを巻いてあげた。てか、前にもそう思ってたけど、女の子って寒くないのか? いくらタイツを履いているんだとしてもめっちゃ寒そうに見えるからさ……。スカートは。
「ありがと、お兄ちゃん! 温かい……」
さりげなく一花の頭を撫でてあげた。
「七海さんって」
「はい?」
「相変わらず、イケメンですね〜。一花ちゃんが羨ましい〜。こんなにカッコいいお兄ちゃんがいるなんて」
「うちのお兄ちゃんカッコいいよね? ふふっ♡」
「うん!」
「あ、そうだ。傘、貸してあげますからこれを使ってください。あとカイロもありますから」
「あ、ありがとうございます!」
「一花、手が冷えてるじゃん」
「寒いよぉ」
じっと香月の横顔を見つめるひまり。
彼女はぎゅっと一花の手を握っているその姿から目を離せなかった。
「じゃあ、ひまりちゃん私たちはこっちだから!」
「うん!」
「そうだ。荷物、俺が持つから」
「ありがと!!! お兄ちゃん」
そう言った後、俺たちはショッピングモールで別れた。
そして今は一花と相合傘をして、雪が積もっている道を歩いている。
「お兄ちゃん」
「うん?」
「手!」
「あっ、うん」
一花にもカイロを渡しておいたけど、どうやら手がすごく冷えているみたいだ。
そのまま手を繋いで俺のポケットに入れる。すると、指を絡めてぎゅっと一花の方から強く手を握った。にっこりと笑うその顔を見て、やっと安心する。それだよ、そうやって少しずつ友達との思い出を増やすんだ。一花。
やっぱり、笑う時の一花は可愛いね。
そう思いながら黙々とこの道を歩いた。
「ひひっ」
「楽しかったの? 今日」
「うん! ひまりちゃんといろいろ話して、美味しいのも食べて、楽しかった!」
「よかったね」
「でも、やっぱり……私はお兄ちゃんと一緒にいたい。そうだ、ケーキ! 買ったから家に帰って食べよう!」
「ありがと〜」
そしてさりげなく俺と腕を組む一花。
またぎゅっと俺の手を握る。
「マフラーからお兄ちゃんの匂いがする……」
「うん? 何か言った? ごめん、風のせいで聞こえなかった」
「ううん! なんでもな〜い! 早くケーキ食べたい!」
「そう? もうすぐだからね。ちょっとだけ我慢して、一花」
「うん!」
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