2 俺を待っている人②
「そういえば、一花。今年のクリスマスには友達呼ぶの?
「ううん……。クリスマスだからね、やっぱりお兄ちゃんと二人で過ごしたい。お兄ちゃんは予定あるの?」
「予定はないけど、中学最後のクリスマスだからさ。高校生になると別の学校に行くかもしれないし、いいの?」
いつの間にかお母さんみたいに話している俺だった。
でも、友達同士で作る思い出は大事なんだからさ。俺はできなかったけど、一花は俺と違って楽しい思い出を作ってほしかった。そして学校にいる時にどう過ごしているのか分からないけど、一花も学校が終わった後すぐ家に帰ってくるからさ。外でいろいろ友達と楽しいことをしてほしいのに、それはダメかな。
この広い家で一人になると意外と寂しいんだからさ。
「ひまりちゃんとはイブにショッピングをすることにしたの。だから、当日はお兄ちゃんと過ごす!」
「そうなんだ。美味しいのたくさん食べよう、クリスマスだからさ」
「うん! ひひっ」
家にいる時はこうやって一緒にゲームをしたり、ご飯を食べたりして二人きりの時間を過ごす。そしてお風呂に入る時と寝る時以外はずっとくっついている。くっついて今日学校であった話とか、一花の好きな話をして、彼女が眠くなるまで居間で話をする。それが俺たちのルーチンだった。
小学生の頃と全然変わっていない。一ミリもな。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「どうした? 一花」
「一緒にお風呂入ろう! 今日新しいシャンプーとボディソープ買ってきたから、匂いがすっごくいいの」
「一花……。いくらなんでもそれはちょっと…………」
「どうして?」
じっと俺を見ている一花が首を傾げる。
そして何が問題なのか全然分かっていないその顔がとても怖かった。
小学生の頃には仕方がなかったけど、もう中学三年生だからさ。一人でお風呂くらい入れるだろ。てか、俺……一花が中学一年生だった時にちゃんと説明してあげたような気がするけど……。
なぜ一緒に入れないのか、それについて二時間くらい話した。覚えている。
「いいか、一花。俺の話をちゃんと聞いて」
「うん」
「一花は女の子だよ、分かった?」
「うん、私女の子だよ?」
「そう、女の子だから。女の子は女の子同士で入るのが普通。俺は男、分かった?」
「でも、私のお兄ちゃんでしょ? 平気!」
「平気じゃねぇよ! いくらお兄ちゃんだとしても堂々と妹とお風呂に入る権利などねぇよ! どうしてそんな恥ずかしいことをさらっと言い出すんだよ。一花は……」
「お兄ちゃんのことが好きだから!」
またあれかよぉ。
まあ、周りにいつも妹に「死ね」って言われているやつがいるから、好きって言ってくれるのは嬉しいけど、それとこれと別だからさ。うちの場合、妹がめっちゃ甘えてくるから困る。
「ダーメ! 一花は早くお風呂に入って、俺は洗い物をするから」
「ひん……。じゃあ、その代わりに!!!」
無視してすぐキッチンに向かった。
こういう時は無視した方がいい。そうしないと一花のペースにすぐ巻き込まれてしまうからさ。
可愛いけど、ちょっとしつこい妹。それがうちの妹だ。
てか、他所もこんな感じかな? 分からないな。妹の話、俺はあまりしないから。
「ねえー!!! 行かないでぇ。私の話、終わってないからぁ!」
「何……、一花」
「その代わりに!」
「その代わりに?」
「今日は私が眠るまでそばにいて!」
「はいはい。それくらいなら……。てか、俺もお風呂入りたいから早く入ってくれ。一花」
「だから、一緒———っ」
軽くデコピンをした。まったく……。
「それは出来ない相談だ」
「痛いよぉ。ひん……、ケチ」
……
「ふぅ……」
そろそろ高校生になるから俺たちの距離感をどうしたらいいのか、頭を洗いながらそればかり考えていた。てか、一花は思春期の女子中生なのに、どうしてあんなに距離感がバクってるのか分からなかった。
どこから間違ったんだろう。
ふと友達のことを思い出す。
ちょっと可哀想だけど、冗談ってことを分かっているから、それが普通だと俺もそう思っていた。お兄ちゃんという存在は妹にとってあれだからさ、なんか警戒するべき存在っていうか、思春期の女の子ならもっと警戒すると思う。
なのに、うちの妹はどうして……! 「眠るまでそばにいて」とか言うんだよ!
「お兄ちゃん?」
うわぁ、びっくりしたぁ。
いつそこにいたんだ……?
「う、うん……。どうした? 一花」
「新しいタオル持ってきたからこれ使ってね! そして……」
「そして?」
「背中……、流してあげようか?」
「いや、いいよ。そろそろ上がるから気にしなくてもいい。そしてそっちにいると俺出れないんだから、部屋で待ってくれない?」
「うん! 分かった」
そういえば、俺からいい匂いがする。
シャンプーとか、ボディソープとか、そういうのはほとんど一花が買ってくるから気にしていなかったけど。いいね、今度買ってきたやつ。匂いを嗅ぐとなぜか一花って気がする。気のせいかもしれないけど……。
「お兄ちゃんからいい匂いがする。私の匂いがする……」
「うん、この匂いけっこう気に入ったよ。やっぱり、一花はセンスがいいね」
「ひひっ、そう言ってくれて嬉しい!」
電気を消して、隣に置いているランプをつけた。
そして横になる二人。
「ううん……。ねえ、ちょっと遠くない? もっとこっち来てよ……。」
「…………」
「もう……」
くっそ、バレたか。ここでくっつくのはあれだから、わざわざ距離を取ったけど。
一花の方からさりげなく俺にくっつくとは思わなかった。しかも、抱きしめられている。
「…………」
この静寂が怖い。早くなんとか言わないと……。
「あっ、そ、そうだ! 一花はクリスマスのプレゼント何が欲しい?」
「ううん、私はお兄ちゃんがいてくれるだけで十分だから考えたことない」
「またそれかよ、欲しいもの本当にないのか?」
「うん。目の前にいるからね」
「からかわないで、一花」
「ひひっ。でも、本当だから。お兄ちゃんと一緒に過ごすクリスマスはプレゼントそのものだからね」
「まったく……、一花」
「ひひっ」
ぎゅっと俺を抱きしめる一花に、さりげなくその頭を撫でてあげた。
すると、顔を上げて俺と目を合わせる。にっこりと笑う一花がすごく嬉しそうに見えた。
そのまま再び顔を埋める。
「なでなで……、気持ちいい……。なんかお兄ちゃんに愛されてるような気がして、すっごく気持ちいい……。もっとしてぇ」
まったく……、そんな恥ずかしいことをさらっと言うのもさぁ。
どうにかしてぇ。
「…………」
それから一花が眠るまでそばでじっとしていた。
そして眠った一花を確認した後、ランプを消す。
「おやすみ、一花」
布団をかけてあげた後、こっそり俺の部屋に戻ってきた。
そのままベッドにダイブして、俺の一日がやっと終わる。
「おやすみ、俺……」
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