第12話:雨月の30日に届いた手紙への返事

 この手紙はトゥードル・ゲンジーがクレメリア革命暦649年2月17日(雨月レイディンの30日)に送った手紙に対してベーデン・モンバドゥール氏が送った返事である。

 お手紙ありがとうございます。それは災難でしたね。わたしも言い忘れていたことがあったのでこの辺は私の落ち度でもあります。申し訳ございません。

 落ち度と言うのはその小人についての説明をしてこなかったことです。民類学(ここではあなたが仰っていた民族学に近いものです)での彼らについてお教えしますね。彼らは脚背フットマンの民と言う種族で、極めていたずら好きであり、手癖の悪い種族であります。尚且つどこまでも気まぐれな種族なのでスリなどの悪事を手癖感覚でやってしまうのです。ただ、彼らはその器用さ、すばしこさからどの種族よりも斥候としての適性があるという点です。また、一度顔を見たら忘れないという特徴を持ち、一度痛い目を合わせるとどのような手を駆使してでも復讐をするという厄介な種族でもあります。なので、あなたが手を出そうと踏みとどまったのは正解かもしれません。

 反面、一度顔を見せたら忘れないということは一度でも温情を見せたらその恩を決して忘れる事のない義理堅い性格でもあるという事です。これは脚背フットマンの民の特筆すべき良い点でしょう。我々久遠エルフの民はあまりにも長命なためどこかのんびりとしており、些細なことでも忘れてしまう事が多いのです。その点に関しては脚背フットマンの記憶力は見習いたいものですね。私がトゥードルに毎日手紙を書くのを忘れないのも、貴方が頻繁に手紙を送ってくれるおかげです。貴方のマメな所。私はとても好きですよ。これからも続けてくださるとうれしいです。

 さて、あなたはこの詐欺事件についてどうすればいいかを悩んでいる。そこが一番の問題でしたよね。詐欺とは人をだます悪い手段です。ですが、気まぐれな脚背フットマンの民がそこまで計画的な悪事を働けるとは到底思えません。人をだます行為に走る時は、騙さなくてはいけなくなった理由がどこかにあるはずです。例えば、生活に困って違法な職に就かなくなってしまったとか。そういった類のものです。理由なく人をだます人などいるでしょうか?詐欺は悪質な金儲けの手段です。金を儲けるためには頭を使わなければなりません。その為どこかに詐欺に手を染めるだけの理由がどこかにあるはずなのです。

 難しい話が続きましたね。なので簡単な結論を言います。その人を許してあげましょう。当然難しい話ですがまだあなたとその脚背フットマンの民は一度目の出会いです。一回くらいの過ちは許してあげましょう。幸い、お金を出して損をしただけですからね。これが家族を殺されたりなどでしたらまた別の手段をとるべきですが、個人間のお金の問題ならまだ取り返せるはずです。その後どのような処置を送るかは海運衛士隊に任せなさい。貴方は検事でも弁護士でもありません。クレイマリーポートには法律があります。法治国家です。個人の感情ではなく法というシステムによって民を裁くのがルールです。決して個人的判断で罪を償わせてはいけませんよ。

 最後に、貴方は人に騙されたという経験をしました。ですが失ったのは日々の稼ぎでえてきたお金だけで済みました。貴方の世界はどうなのか知りませんが、この世界にはよい人がいると同時に悪い人がいます。なのでどこかで悪に飲み込まれそうになったら、その鏡石の剣を見つめなさい。悪を受けたものの悔しさを思い出すあなたの心の武器になりましょう。その戒めの剣をもって、貴方が道を踏み違える事がないよう心から祈っております。

 ベーデン・モンバドゥール

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