第4話 望み

 三度みたび気がついたときには、さすがに自分がどこにいるのか把握できていた。自宅のアパートよりもずっと高い天井、広い空間。


「聖女様、お目覚めですか?」

「あなたは、確か、ゲント先生の助手の……」

「どうぞエラ、とお呼びください。聖女様。ゲント先生に代わり、しばらく貴女様の傍に医師として控えることになりました」

「あの、ありがとうございます」

「身体を起こされますか? お腹は空いていらっしゃいませんか?」

「そういえば、少し空いている気もします」

「何か消化にいい物をお持ちするよういたしますね」


 そうして人を呼びに行こうとした彼女を慌てて引き留めた。


「あの、エラ先生! さっきの男の人はまだいますか?」

「さっきの男の人……ウェリントン副魔道士様でしょうか。彼は一度下がりました。アウリクス大魔道士様に報告に行っているのでしょう」

「私、帰りたくないんです、元の世界には。だから、あの人に言って、帰らなくてもいいようにしてもらいたくて……!」

「聖女様、大丈夫です。私どもは聖女様の意に沿わないことは極力いたしません。貴女様が帰りたくないとおっしゃるなら、いくらでもここにいていただいていいのです」

「本当ですか? 無理矢理帰らされたりはしない?」

「はい。さすがになんでも言う通りにしろと言われるとできないこともありますが、聖女様が元の世界にお帰りになることを望まないのであれば、その希望は必ず叶えられます」


 エラ先生の言葉に、どっと安堵の気持ちが湧いてきた。


 そのまま放心したようにベッドにもたれる私に、エラ先生はいろいろ説明してくれた。ゲント先生の命令でしばらく私は面会謝絶らしく、彼の許可を得た人間しかこの部屋にはこないらしい。助手であるエラ先生が主治医代行、私の身の回りの世話は、先ほどまで側にいてくれた女性魔道士であるマルグリットが行ってくれるとのこと。


「まずはお身体を労わることです。ここは魔塔の中枢。貴女様は王族と同じ身分を遇された高貴なお方です。聖女様を害する者は近づけません。安心してお休みください」


 エラ先生の話が終わると同時に、部屋に食事が運ばれてきた。見た目はお粥とスープ。口に運べばあっさりとした優しい味わいで、美味しいと感じることができた。



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