第2話「公開対局」

 教室の中央に寄せられた4脚の机の上に、青天目なばための持って来たプラスチック製の将棋盤が置かれた。同じくプラスチック製の駒を箱から出し、向かい合わせで席に着いた雪姫ゆきと黒羽が淀みの無い動きで初期の配置に並べていく。

 2人がそうしている間に、青天目がトートバッグから横長のタイマーを取り出した。デジタル式のそれはモニターが2つ付いており、それぞれの上部に大きめのボタンが1つずつ、細かい設定を行うメモリやボタンが裏に配置されている。チェス用に開発された“チェスクロック”と呼ばれるタイマーで将棋の対局でもよく使われるのだが、大半のクラスメイトが物珍しそうにそれを眺めている。


「持ち時間は10分、切れたら30秒で良いかい?」

「はい」

「それで」


 そうして全ての駒を配置し終えたところで2人がジャンケンを始め、雪姫が勝ったのを確認した青天目が彼女側のを5枚取った。


「白鳥くんの歩先ふせんで」


 将棋の対局では公平性を保つ場合、振り駒によって先手と後手を決めることとなっている。上座側の陣営から歩を5枚取り、振り混ぜて放ったときに表の“歩”と裏の“と金”のどちらが多いかで先手を決定するのだが、今回は上座下座の概念が無いため、どちらの陣営から歩を取るかを決めるジャンケンが最初に行われたというわけだ。

 青天目の言葉に2人が頷いたのを確認し、彼女が5枚の歩を両手で包んで軽く振ってから盤上に放った。

 5枚中4枚が裏返り、と金になった。


「黒羽くんの先手ということで。――それじゃ、始めよう」


 他のクラスメイトが一定の距離を空けて2人(と青天目)の周りを取り囲み、自分の椅子に座って緊張した面持ちで見守る中、青天目がそう宣言すると同時にボタンを押し、10分と表示されていた歩側のモニターがカウントダウンを開始する。

 その直後、黒羽が2六歩、つまり自分の飛車の前にあった歩を1マス前に動かした。それを受けて、雪姫も同様に飛車先の歩を動かす。そして数手の遣り取りを経て、互いに角の進む道を空けた。

 2人が駒を動かす度にタイマーのボタンを押す青天目は、それを見てニヤリと笑みを浮かべた。


 ――“角換わり”か……。黒羽くん、普通に勝ちに来たな。


 将棋には長年の研究により数々の戦法が生み出され、それぞれに“定跡”と呼ばれる効果的な駒組みの手順が存在する。特に持ち時間の少ない早指し戦となると、少しでも考慮時間を減らすために中盤ほどまで定跡通りの展開となることも少なくない。

 そしてその戦法は基本的に先手側に選択権があり、今回黒羽が選択したのが“角換わり”というものだ。序盤で互いに角を交換した後に駒組みを進める戦法であり、先手の勝率が比較的高いとされている。

 とはいえ、そんなことは雪姫だって百も承知だ。そのうえで彼の思惑に乗ったということは、彼の作戦を真正面から受けて立つことを意味している。


 ――互いに手の内を知り尽くしている2人による、互いに得意とする戦法でのぶつかり合い。これは面白くなりそうだ。


 青天目の予想通り、2人が互いの角を取って持ち駒とした。観客であるクラスメイトの大半は将棋の基本すらよく知らず、そのため角交換のタイミングで小さなどよめきが起こるが、2人はまるで意に介さず駒組みを進めていく。

 黒羽が3七の位置に銀を進めたことで、彼の戦法が“早繰り銀”と呼ばれるそれへと絞られた。対する雪姫も7三に銀を進め“早繰り銀”を選択、そのまま40手目ほどまでは細かい歩の遣り取りこそあれど攻め合いの雰囲気は無く、機を伺いながらほぼ定跡のまま進んでいった。


「…………」


 チラリと黒羽の顔を窺った雪姫がぎょくを2段目に上げた。盤上の穏やかな雰囲気を見て、玉の前方を味方の駒で囲んで防御を固めていく。

 それを見た黒羽は、左の桂を前方へと上げていく。迫る相手の駒をスルスルと躱しながら、雪姫の玉を囲う歩を取って王手を掛けた。今までで一番分かりやすく相手玉に迫ったことで、主に女子生徒の方から小さな悲鳴があがる。

 雪姫はその桂を、玉自らの手により討ち取った。しかしこれにより、玉が囲いから顔を出す形となる。

 すかさずここで黒羽が追撃の手を進める――かと思われたが、ここで彼は攻めの姿勢を見せず自陣の玉を上げる一手を指した。


「おいおい、今のは攻め時だろ……」

「さすがに消極的じゃないか?」


 微かに男子生徒同士の会話が青天目の耳に届いたが、彼女はそれを表情には出さず心の中で一笑に付した。チラリと雪姫に目を向けてもホッと胸を撫で下ろすといった仕草はしておらず、むしろ当てが外れたとばかりにほんの少し肩を竦めて玉を引くのが見えた。


 ――攻めの誘いに乗らないか……。さすが黒羽くん、冷静だな。


 青天目からの勝負の提案に対し、黒羽はさほど時間を掛けず乗ってきた。それを見るにもっと積極的に攻めてくるかと思っていたのだが、さすが中学生でプロ棋士になるほどの逸材といったところか、と彼女は相手に失礼であることを自覚しながらそう分析する。


 と、ここで雪姫が持ち駒の桂を8五に打った。空いている7七を起点に相手玉を攻める算段と思われるが、このタイミングで黒羽が序盤に手に入れた角を相手陣地に直接打ち込む攻めの姿勢を見せた。雪姫は一旦自陣の金を寄せて防御に回すが、彼はそのタイミングで相手銀の前にある歩を銀で取った。

 明らかにこの銀は捨て駒、しかも味方駒による利きが無い“タダ捨て”だ。何かあると踏んだ雪姫であるが、このまま放置すると8筋にある飛車を狙われる形となるため、同銀と取って対応する。

 瞬間、黒羽が相手陣地に送り込んでいた角で玉の真横にいる金を取った。馬と成りながら迫る大駒に雪姫はすかさず先程寄せた金でそれを取るが、彼は先程取った金を7筋に打ち込んできた。

 ここは雪姫の飛車と銀を両方狙える位置にあり、つまり必然的にどちらかは見捨てる形となる。

 雪姫は少し時間を掛け、飛車を助ける選択を取った。飛車を引き、銀が討ち取られるのを黙って見送る。


 ――さて、ここまでで角を2枚持ってる白鳥くんが駒得だが、玉の守りが薄いのが少し気掛かりだな。


 とはいえ、互角の範疇であることは間違いない。勝負は、まだまだこれからだ。


「…………」


 少し時間を置いて考えた後、雪姫は8筋の飛車を3筋に大きく動かした。次の一手で相手陣地にある桂の眼前まで迫り攻撃の意思を見せるが、黒羽は桂の後ろに歩を忍ばせて飛車に睨みを利かせてきた。

 それならば、と雪姫は飛車の隣に銀を打つ。攻撃と防御の両方を見据えた一手であり、放置すると一気に歩の玉へと攻め入る起点となるだろう。しかし黒羽はそれでも冷静さを崩さず、飛車を挟んだ反対側に銀を打って牽制する。

 雪姫は更に持ち駒である角と2枚目の銀を投入して揺さぶりを掛けるが、黒羽の玉はその攻めに対しスッと距離を取った。“玉の早逃げ八手の得”という格言に従ったその一手により、彼女の攻撃が空振った感は否めない。


「――――」


 と、ここに来て、雪姫が怒涛の攻めを見せた。

 まずは後方に控えていた桂を跳ねる。黒羽は金を寄せて玉を固めるが、8筋の角、2筋の銀と桂を使って玉の周りの駒を次々と剥がしていく。素人にも分かりやすい猛攻撃に、雪姫に肩入れする女子生徒だけでなく、男子生徒からも「おぉっ」と声があがる。

 しかし傍でそれを見ていた青天目は、尚も雪姫の玉の守りが薄いことが気掛かりだった。確かに一見すると彼女の方が調子良く思えるが、攻めの合間を突かれて痛恨の一撃を放たれる危険が常に付き纏っている。


 ――黒羽くんがそれに気付いてないはずが無い。おそらく、機を狙っているはずだ。


 青天目がチラリと黒羽の顔を見遣ったのと同時、2五にあった雪姫の桂が相手陣地に突撃して成った。


「…………」


 空いた2五に、黒羽の視線が向けられる。

 そこから斜めに進んだ先にあるのは、雪姫の玉のすぐ隣に控える金。

 その金の他に、玉を守る駒は無い。

 黒羽の手が、本来ならば駒台があるであろう、持ち駒を置くためのスペースへと伸びていく。


 ――来るか!


 そうして黒羽が、2五に角を打ち込んだ。


「――――!」


 雪姫の目が、僅かに見開いた。

 姿勢も若干前のめりとなり、ジッとその箇所を見つめながら考え込む。


「……何だ? 白鳥の手が止まったぞ?」

「悩んでるんじゃないか?」

「ってことは、今のクロの手が決まったってことじゃないか!?」


 主に男子生徒達が、にわかに色めき立った。対照的に女子生徒達は表情を曇らせ、雪姫を心配そうに見つめる。中には祈るように両手を握り締める者もいるくらいだ。

 ここまでの遣り取りを経て、持ち時間はほとんど残っていない。持ち時間を使い切った後は、一手につき30秒以内に着手しなければ敗北となる“秒読み”に移る。思考する時間を充分に取れないため、ミスが生まれやすくなる。


「雪姫! 早く指さないと……!」

「無理だって。もう打つ手が無いんだろ?」

「諦めるなら今だぞ~」


 観客席が騒がしくなってくるが、雪姫はまるで聞こえてないかのように微動だにせず考え続ける。いや、極限まで意識を集中させているため、本当に聞こえていないのかもしれない。


「…………」


 そうして考え続ける雪姫を、盤を挟んだ正面から黒羽がジッと見つめる。表情は相変わらず冷静であるが、その視線は先程から盤上と彼女との間を頻りに往復していて忙しない。


「白鳥くん。持ち時間が尽きたから、ここから30秒将棋となるよ」


 青天目の言葉に、雪姫は黙って頷いた。

 10秒、と青天目の声。雪姫は動かない。

 20秒、と青天目の声。雪姫は尚も動かない。

 1、2、3、4――と、青天目の声が機械的にカウントダウンを進めていく。


「――動いた!」


 そうしてようやく、雪姫の手が盤上に伸びた。

 相手の歩を取って、先程の猛攻の際に相手陣地へと入った成桂をスッと相手玉に寄せた。


「――――!」


 黒羽の表情が歪み、グッと両目が細くなった。

 玉が自らその成桂を討ち取ると、雪姫はその眼前にスッと飛車を差し出してきた。他に対応できる駒は無く、前線に釣り出されると分かっていながらも玉で取らざるを得ない。

 先程黒羽が反撃の起点として打った角の隣、3五に金が打ち込まれる。王手しつつ角取りも視野に入れたその一手に、彼は角を見捨てて玉を引く選択を採った。案の定角が取られ、同時に2筋から金が睨みを利かせる形となる。

 雪姫は角を2枚も持っており、いつでも好きな場所に打てる状態だ。3筋に角を打たれるといよいよ苦しいと判断した黒羽は、睨みを利かせる意味合いを込めて、玉の隣に歩を打った。



 結果、これが敗着となった。



 雪姫の腕が、スッと伸びた。

 持ち駒の桂を掴み、それを黒羽の玉の前へと打ち込んだ。


「――――は?」

「んんっ?」


 黒羽と青天目が、無意識の内に、同時に声を漏らした。


「ん? 何だ?」

「どうした? 白鳥がやらかしたか?」

「えっ? どっちの反応?」


 今までに無い両者の反応に、生徒達がザワザワと騒ぎ立てる。先程までは対局者(主に雪姫だったが)を揶揄うような声も聞かれたが、今は手番である黒羽の反応に皆が釘付けとなり、おいそれと声を掛けられない雰囲気となっている。

 一方クラスメイトの視線を一身に受ける黒羽はというと、そんな彼らの存在すら抜け落ちてしまうほどに、先程雪姫が指した桂馬に意識を集中させていた。

 いや、この場合、むしろ“取り残されていた”と表現した方が適切かもしれない。


 ――な、んだこれ……?


 金で桂を取れば、空いた場所に銀を打ち込まれ王手飛車取り。

 金を戻して飛車を取れば、即座に逆側に角を打たれて王手金取り。

 仮にそこから玉を逃がしたとて、今度は前方に角を打ち込まれ、先程の角と合わせて玉を追い詰めていく状況となるのは必至。


「黒羽くん。持ち時間が尽きたから、ここから30秒将棋となるよ」

「…………」

「黒羽くん?」

「おい、何やってんだよクロ! 早く指さないと負けちまうぞ!」

「――――!」


 男子生徒の呼び掛けで、ようやく黒羽がハッと我に返った。意識を盤面から現実世界の自分に戻して、改めて姿勢を正して脳内のエンジンをフル回転させる。

 しかしそれで状況が変わるわけもなく、何度考えたところで先程の袋小路から抜け出すことが叶わない。


「……くそっ」


 黒羽は小さく悪態を吐き、玉でその桂馬を取った。たとえ悪手だと分かっていてもそうせざるを得ない、という結論によるものであり、彼にとっては屈辱以外の何物でもなかった。

 その直後、雪姫は一切の迷いも無く相手陣地に角を打ち込んだ。黒羽の玉を背後から狙うそれに対する有効な受けは無く、よって彼は持ち駒の桂を打って彼女の玉に王手を仕掛けた。

 しかし雪姫の玉は、桂の真正面にスッと逃げることでそれを回避。ならばと黒羽は玉から1マス空けた真横に飛車を打って再び王手とするも、間のマスに角を打つことで対応される。

 その後、黒羽が王手を仕掛けて雪姫がそれに対応する、という遣り取りが数回続いた。素人が盤面のみを見れば彼が怒涛の攻めを仕掛けているように見えるかもしれないが、沈痛な面持ちの黒羽と背筋をピンと伸ばして冷静な表情の雪姫を見て、そのような勘違いをするクラスメイトは誰1人いなかった。


「クロ……」


 その呟きは、本人でさえ無意識に漏れたものだった。

 先程まで嬉々とした表情で激励や挑発を口にしていたその男子生徒は、

 名前も顔も知らない奨励会員を女子相手に油断して負けた奴だと揶揄したその男子生徒は、

 今や固唾を吞んで、将棋指しを生業と決めた2人による無言の遣り取りを見守るのみである。


「っ……!」


 そうして黒羽の王手が途切れたタイミングで、雪姫が6八に銀を打ち込んだ。

 パチンッ、と駒の叩く音が、教室に鳴り響く。

 それはまるで、この戦いの終焉を知らしめるかのようだった。


「――――負けました」


 ガックリと項垂れながら、歩が小さく、しかしハッキリと負けを宣言した。

 重苦しい空気が教室を支配し、耳が痛くなるほどの静寂に包まれる。勝者を称える声も敗者を慰める声も無く、ちょっとした身じろぎで音を鳴らすことすら憚られるほどの緊張感だ。

 そんな緊張感を生み出している張本人である黒羽は、負けを宣言して項垂れたままジッと動かなかった。クラスメイト達は彼をジッと見つめ、その出方を窺っている。


 一方、雪姫と青天目も同様に彼を窺っているが、他の皆ほど緊迫した雰囲気ではなかった。

 2人にとってこの状況は、取り立てて心配するようなことではない。

 得てして“感想戦”というのは、敗者から始めるのが不文律であるからだ。


「――2五に角を打ったときか? ミスったの」


 顔を上げて問い掛ける黒羽の表情はとても悔しそうに歪んではいたが、その目は逃げることなく真っ直ぐ雪姫を捉えている。

 そんな彼の目を真っ直ぐ見つめ返しながら、雪姫はコクリと頷いた。


「正直、5四に打たれてたら厳しかったよ」

「チッ、マジかよ……。おまえが急に時間使って考え始めたから、何か嫌な予感はしてたんだ……」

「うん。候補に無かった手だったから、見落としがあるのかもって探してたんだ。――まぁ、単なる悪手だったけど」

「てめぇ……」


 恨みがましく睨みつける黒羽に、はにかむような笑みを浮かべる雪姫。

 黒羽はチッと舌打ちするもそれ以上は何も言わず、投げやりな仕草で椅子の背もたれに大きく寄り掛かった。


「あぁクソ、ムカつく。みんなの前で負かして恥掻かせてやろうと思ったのに。てか30秒であそこに桂馬打つとか普通思いつくかよ」


 恨み節のごとく愚痴を零す黒羽の姿は、負けた直後の発言を許さないほどの緊張感は微塵も無く、小さな子が親に玩具を買ってもらえず駄々をこねているような振る舞いだった。

 クラスメイト達の間でホッと空気が緩み、そして堰を切ったかのように2人の周りへと集まっていく。


「凄いじゃん、雪姫! 恰好良かったよ!」

「正直何をしてるのかほとんど分からなかったけど、何か目を惹くものがあったよね」

「手に汗握るって、こういう感じなんだね!」

「ドンマイ、クロ! 良い勝負だったぜ!」

「テキトー言うなよ、将棋なんてほとんど分かんねぇだろ」

「確かに俺達には難しすぎたけど、2人が本気で戦ってたのは伝わってきたぜ」

「白鳥って本当に強かったんだな。相手が手ぇ抜いてただけだって言って悪かったよ」

「うんうん。皆さん、とても有意義な時間を過ごしたようですね」


 思い思いに感想を口にしていたクラスメイトに混じって聞こえてきたのは、腹に力の籠もっていない、柔らかな雰囲気を持つしゃがれた声だった。

 皆がそれに気づいて一斉に振り返ると、古典の授業を担当する年配の教師が、若干の苦笑いを添えて教室の入口に立っているのが見えた。


「ところで皆さん、とっくに2時限目の授業の時間になってるのは気づいてますか?」

「えっ? あっ、本当だ!」

「チャイム鳴ってたの、全然気づかなかった!」


 教師の言葉に、雪姫と黒羽を含むクラスメイト全員が一斉に動き出した。自分の座っていた椅子を持って、端に追いやっていた自分の机を持って所定の位置へと戻していく。

 まるで掃除の時間を再現するかのような大騒ぎの中、青天目は自分の持って来た将棋の道具一式を手早く片付け、トートバッグの中へと収めていく。

 先程の対局での駒の動きを記した、所謂“棋譜きふ”のメモ書きを眺めながら。


 ――ちょっとしたデモンストレーションのつもりが、まさかプロの対局と遜色無い名局に立ち会えるとは……。


 名局というのは、1人で作り上げられるものではない。実力のある者同士が死力を尽くすことで生まれる芸術作品であり、だからこそ棋士の功績を称える将棋大賞の“名局賞”は勝者と敗者の両方に対し贈られる。

 練習相手として今まで数多くの対局をこなしてきた2人だからこそという側面もあるだろうが、それでも昨日プロ入りを決めたばかりの新人同士でこれほどの棋譜を生み出したのも事実。

 そしてそんな2人が、将棋界に殴り込みを掛けてくる。


「ふふふ……! これは何とも、面白いことになりそうですね……!」

「はいはい。君も早く自分の教室に戻りなさい」


 不敵な笑みを浮かべる青天目の後ろから、のんびりとした声で古典教師がそう呼び掛けた。

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2025年1月7日 21:00
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白雪に染まる ゆうと @javelinyuto

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