第12話 希望の兆し

 夜が明ける頃、ハルカとレイは街外れの廃工場に身を潜めていた。前夜の追跡劇の疲労が残る二人だったが、ここで休む時間はほとんどなかった。ニュードーンの兵士たちは執拗に二人を追い続けている。


「次はどうする?」


 レイが背負っていた荷物から地図を取り出し、低い声で尋ねた。地図には、近隣の施設や道路網が簡単に記されている。その端に小さなマークがついていた。


「ここに行く。」


 ハルカが指を指した場所は、街から少し離れた場所にある、古い通信塔だった。


「どうしてそこを選ぶ?」


「通信塔なら、広範囲に信号を送れるはず。ニュードーン計画の情報をできるだけ多くの人に広めるためには、こういう場所が必要だと思う。」


 レイは一瞬黙り込んだが、すぐに頷いた。


「リスクは高いが、やるしかないか。」


 ---


 移動中の道中、二人は道端の小さな商店で最低限の食料と水を手に入れた。その店の店主は、二人が疲れ切った表情をしているのを見て、何も言わずに余分なパンを渡してくれた。


「気をつけるんだよ。最近、このあたりで何か物騒な噂が広がっている。」


 その言葉に、ハルカは少しだけ微笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。必ず気をつけます。」


 店を後にして、二人はさらに街を外れて進む。廃れた風景が続く中、遠くに通信塔のシルエットが見え始めた。


「あと少し。」


 ハルカが小さく呟くと、レイもそれに応えるように歩調を速めた。しかし、周囲の静けさが逆に彼らの不安を煽った。


「何かがおかしい。」


 レイが足を止め、鋭い視線で周囲を見回した。その瞬間、彼らの背後で音がした。草むらから現れたのは、ニュードーンの追跡ドローンだった。


「伏せろ!」


 レイが叫ぶと同時に、ドローンが警告音を鳴らし始めた。二人は咄嗟に身を隠し、地面に伏せた。


「時間がない。急ぐぞ。」


 レイが先に動き出し、ハルカもそれに続いた。ドローンの追跡をかわしながら、彼らは通信塔へと走った。


 ---


 通信塔にたどり着いた頃には、すでに夕方になっていた。塔の入り口は錆びついていたが、レイが力を込めて開けると中に入ることができた。


「ここでデータを送れる仕組みが残っているかどうか…。」


 ハルカは端末を取り出し、塔の制御盤に接続を試みた。緊張が走る中、制御盤のランプが一つずつ点灯していく。


「いける!」


 彼女の声に、レイも安堵の表情を浮かべた。


「だが、時間がない。ニュードーンがここを探知するのも時間の問題だ。」


 ハルカは必死にデータの送信準備を進めた。だが、その最中、通信塔の外から車両の音が響いてきた。


「追ってきたか…。」


 レイは塔の窓から外を覗き、ニュードーンの兵士たちが通信塔に向かって接近しているのを確認した。


「ハルカ、急げ!」


「もう少し!あと数秒…!」


 緊張感が最高潮に達する中、端末の画面に「送信完了」の文字が表示された。


「やった!」


 ハルカが歓声を上げたその瞬間、通信塔の扉が激しく開け放たれた。


「二人とも動くな!」


 兵士たちが銃を構えて中に突入してきた。だが、レイは冷静だった。彼は持っていた小型爆弾を手に取り、ハルカに視線を向けた。


「これで時間を稼ぐ。お前は逃げろ!」


「でも…!」


「いいから行け!」


 ハルカは涙を浮かべながらも、レイの言葉に従い塔の裏手から逃げ出した。その背後で爆発音が響き、塔全体が揺れる。


「レイ…。」


 彼女は振り返りたくなる衝動を必死に抑え、荒野へと走り出した。だが、その胸中には、彼を置いてきた罪悪感と後悔が渦巻いていた。


 ---


 遠くの丘の上で一息ついたハルカは、空を見上げた。夜空には無数の星が瞬き、その中にかすかな希望の光があるように感じられた。


「絶対に無駄にはしない。必ず真実を広める…。」


 涙を拭い、ハルカは再び歩き出す。レイの犠牲が無駄にならないようにするために、彼女は進み続ける決意を新たにした。

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