第2話 快速電車のパワーはベヒーモスにも匹敵する
ここは東京都、品川区にある、とある各駅停車の駅のホームである。
普通の女子高生、天使真緒(あまつかまお)は人生に絶望していた。
絶対に合格すると確信をしていたFランク異能者の昇格試験に落ちてしまったのだ。
この日本にゲートと呼ばれる異界に続く扉が出現してから50年の時が経過しようとしていた。
ゲートの出現と共に現れたのは、異能者と呼ばれる超常的な力を持った人間たちである。
少女は異能者の育成学園に通う女子高生であった。
普段は使わない、この駅に降りたのは、彼女が死に場所を探していたからである。
『マオちゃん。今夜、会えるかな?』
おむもろにスマートフォンの電源を付ける。
と、会ったこともない、知らない男から新着の通知が届いているようであった。
『今、何している?』
『今夜、遊ぼうよ』
同じ男からの通知は、もう何件も溜まっている。
返事をするどころか、少女の中には既読をつける気力すらなかった。
「もう死のう。ワタシなんて生きていても何の価値もない」
快速電車が最高時速で通り抜ける、この各駅停車の駅であれば、確実に自殺できるだろう。
「ワタシの世界は灰色だ」
そう呟いた少女は、快速の電車が通り抜けるタイミングを見計らって、自らの意思で身を投げる。
「~~~~ッ!?」
その瞬間、突如として、少女の体が眩い光に包まれることになる。
別次元の世界から転生をした邪神、イブリーズの魂が少女の体に宿ったのだ。
「ほう……。これは驚いた」
目を覚ました時、イブリーズは驚愕をしていた。
「世界に、色がついておる」
殺風景だったダンジョンの中と比べて、この世界は、なんと色鮮やかなことだろう。
だがしかし。
残念ながら、感傷に耽っていられるだけの時間はないようだ。
ギギギギギ!
少女の存在に気付いた運転手は、電車に急ブレーキを踏んでいる。
見たことのない時速100キロの鋼の塊が目前に迫っていた。
無策でいれば、この無防備な少女の体は、一瞬で肉塊に変わることになるだろう。
「ほう……! いきなりワシに挑もうとは! 面白い! 面白いではないか!」
転生直後から、窮地に追い込まれたイブリーズは笑っていた。
この逆境こそ、イブリーズが求めてやまないものだったのだ。
イブリーズは魔力を全快にして、少女の肉体を強化する。
時速100キロの快速電車と力比べだ。
その衝撃は、何とも筆舌に尽くしがたい。
イブリーズはこの時、前世の宿敵、神話級のモンスター、ベヒーモスと戦闘した時のことを思い出していた。
ギギッ!
ギギギギギギギギギギギッ!
線路の上に激しい摩擦が走り、快速電車は減速を始める。
力比べの結果は、イブリーズが圧勝だ。
イブリーズの桁外れの腕力に押されて、快速の電車は、その場に停止することになった。
「あ……。あ、あ、あ……」
事態の一部始終を目の当たりにしていた運転手の男は絶句していた。
突如として、少女が飛び込んできたかと思えば、素手で電車を止めてしまったのだ。
今起きている出来事を真面目に他人に説明しようものなら、精神状態を疑われかねない状況である。
急激な力が加わった結果、快速電車は線路を外れて、大惨事になっている。
緊急時に発動する防御の魔術がなければ、車内は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていただろう。
「ふむ。この世界には、こんなに強い奴がいるのか。今後の戦いが楽しみじゃのう」
ここ数百年、誰も、挑戦者が現れなかったことで、イブリーズは『戦闘』に対して、強烈な飢餓感を覚えていた。
前代未聞の大事故が起きている最中、邪神イブリーズは独り、楽しそうに笑うのだった。
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