第3話 狙撃手は突然に
それから。
騒ぎに乗じて駅から抜け出したイブリーズは、自ら置かれた状況を整理していた。
学生鞄の中から、取り出したのは、少女が元々、携帯していた生徒手帳である。
天使真緒(あまつかまお)。
生徒手帳には、少女の名前が記されていた。
「ふむ。真緒か。良い名じゃ。今後はワシも真緒と名乗ることにしよう」
邪神が日本語で書かれていた文字を読めたのは、少女の記憶が残っているからだ。
今、ここに邪神の記憶と少女の記憶は混ざり合い、新たな存在が誕生していた。
二つの名前が混在するのは煩わしい。
元々、自分の名前に対して、特に執着はなかった。
イブリーズは今後、この世界で生きていく上で『真緒』と名乗ることに決めていた。
「ふむ。やはり、この世界、ワシを飽きさせないようじゃな。気に入った」
と、どうやら、さっそく敵に狙われているようだ。
敵は、ここから、200メートルほど離れた雑居ビルの屋上から狙ってきているようである。
「面白い。まずは、この世界の人間がどれくらい力を持っているのか、小手調べと行こうか」
命を狙われている最中にもかかわらず、真緒は不敵な笑みを浮かべるのであった。
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一方、その頃。
黒色の帽子を被った一人の男は、ライフル銃を構えて、真緒(ターゲット)に向けて、照準を合わせていた。
男の名前は、斎藤斑(さいとうまだら)と言った。
異能者協会からは、Bランクの称号を与えられている実力者である。
通常、異能者の仕事は、ゲートから現れる魔物を討伐することにある。
だが、中には、魔術を使用した犯罪を抑止することを生業としている異能者も存在している。
斎藤も、そんな、変わり者の一人だ。
「魔術を使って、酷い事故を起こした奴がいると聞いて、駆け付けてみれば……。なんだ。ありゃ。ただのガキじゃねぇか」
斎藤は『公安異能部隊』という組織に所属しており、異能者たちを取り締まる活動をしていた。
公安は、異能者同士の争いに関しては基本的に不介入のスタンスを取っているのだが、今回のように一般人の被害者が出ている場合は話が別だ。
異能者にとっての最大のタブー。
それは一般人に危害を及ぼすことにあった。
見つけ次第、殺害することが国から許可をされている。
「やれやれ。オレもヤキが回ったな。まさか、女子高生を手にかけることになるとはねぇ」
照準を向けたのは、ターゲットの心臓だ。
生憎と相手が年端のいかない少女であっても、手加減しようなどという気概は持ち合わせてはいなかった。
そういう僅かな、油断、慢心から命を落として行った同僚たちを斎藤は知っていたからだ。
「もらった」
トリガーを引くと、ライフルの先端から銃弾が発射される。
この銃弾には、特別な呪縛の魔術が込められている。
吸魔の刻印。
それが異能者として、斎藤が得意としている魔術であった。
相手の体のどの場所に当たっても関係がない。
体に命中さえすれば、一撃でターゲットの魔力を吸い上げて、干物に変えてしまうのだ。
だからこそ、斎藤は、次に目の前で起こった光景を俄かには信じられずにいた。
「ふむ?」
心臓に向かって飛んでくる銃弾を真緒は、二本の指で受け止めてみせたのだ。
「ふむ。ふむふむ。これは吸魔の魔術か。懐かしいのう」
ダンジョンの奥で、多数の敵と戦ってきた真緒は、転生前の記憶を思い出す。
宝を守る邪神として君臨していた真緒は、デバフ系の魔術を一通り受けた経験があったのだ。
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