第5話
リュラ様はいったい何を怒っているのだろうか?部屋から怒って出ていってしまった後ろ姿を追うこともできず、手に持ったままのバケツと雑巾をとりあえず下ろした。
自分はリュラ様の為だけに存在しているし、リュラ様が望むことは何でもしてあげたいけど、その間にリュラ様と会えないのは嫌だった。でも、それほどまでに乳兄弟が立派な騎士でないのは恥ずかしいことなのだろうか。
確かに他の皇子達の乳兄弟はみな武芸に秀でて幼い頃から皇子達は自慢気だった。リュラ様には、私が何もできないせいで自慢できず、辛い想いをさせていたのだろうか。
しかし何故今頃になって……。
バシリオは、ハッとした。縁談を受けるからなのか?
縁談を受けるのに、乳兄弟が立派でないと、もしかしてまた恥ずかしい思いをするのだろうか。この国は、従者の質をどうこう言ったりしないが、他国はもしかしたら従者も騎士でないとだめなのかもしれない。
それはいけない、だとしたら確かに今すぐにでも立派な騎士にならないと、間に合わない。
リュラ様が私を置いていかないために、根を回してくれたのだと気付き、バシリオは急いでバケツと雑巾を片付け、近衛騎士団に戻って、頭を下げた。
「これからは心を入れ替え本気でやります」
「そうかそうか、バシリオ、待っていたぞ」
パッキラ将軍もカイル兵長も喜んでくれて、また厳しい訓練が始まった。
1ヶ月もすると、それなりに剣にもなれて、他の騎士との模擬戦にも勝てるようになった。身長を使って振り下ろす剣技を教えてくれたのはカイル兵長で、身の守りかたや、動きかたなど事細かく、基礎を叩き込んでくれた。
ずぶの素人で変な癖がついていないことも幸いして、バシリオの剣はみるみる上達したし、基本に忠実な太刀筋は見ていても美しく、そしてもともと備わっていた腕力で剣を振る素早い動きか様になり、これは本物だと、噂が上がる程だった。
それにしても、リュラと会えないまま1ヶ月が過ぎ、バシリオはだんだんと不安に思うようになってきた。リュラ様が新しい見映えのする従者を雇っていたらどうしよう。
一度確認に行くかと思ったが、今また戻ったら怒られるにちがいない。せめて階級を上げないと報告にすら行けない。
階級を上げるためには、武術大会で勝つか、戦に出て武勲を立てるかだ。
「カイル兵長、階級を上げたいのですが」
「近く戦がある、出陣するか?」
「はい」
近衛騎士団は本来は皇都を守る兵であるから出陣はしないが、バシリオは国境近くのダクニア領軍に加わる事となった。10名程度の兵を部下につけてもらい、出発する。出発の前夜、リュラ様に一目あってから行こうと部屋を訪れた。
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