貧乏神様とルームシェアすることになりました!
あさき いろは
プロローグ
地方都市の片隅にひっそりと
築50年をゆうに超えるその建物は、雨漏りの跡が残る外壁とくすんだ看板が特徴的。いい意味での昭和レトロ感がたまらない物件である。
住人はこれまたノスタルジアを感じさせてくれるお歳を重ねられた人生の大・大先輩方だ。
大・大先輩方は朝日が昇る前から行動的で、その分昼過ぎには玄関横の空きスペース、今風に言うとエントランスホールやロビー、ラウンジにあたる場所に設置されている長椅子に腰掛け、通り過ぎる人や車を眺めながらぼんやりと過ごしている姿が日常的な光景だ。
しかし、若い世代からは敬遠されてしまうシチュエーション、その分家賃は破格に安い。
そんな夕暮荘の一室に、人生に疲れ切ったかのような冴えない男、
メジャーリーグでも大活躍したスーパースターの『イチロー』選手と同姓同名だが、人生は天と地ほど違うから
20代後半のサラリーマンで、日々の生活に何の希望も見いだせずに、ただ生きるために働いて、食べて、寝るだけの生活を送っていた。
「安ければそれでいい」
一朗がこのボロアパート・・・いやもとい、レトロアパートを選んだ唯一の理由である。最近の一朗は職場でもミスが増え、上司から叱られることが多くなり同期たちからも
「俺の人生って・・・何のためにあるんだろうな・・・・」
そんな
「なんだ・・・この重たい空気?」
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような妙な感覚と独特の臭い。
「もしかして、事故物件なのか・・・ここで自殺?それとも殺人事件でもあったのか?」
気味が悪いと思いつつも、家賃の安さに
一朗は覚悟を決めて、玄関からキッチンを通り、4.5畳の和室に荷物を運んだ。
小さいながらも風呂付でトイレと別になっている。家賃2万5千円で共益費5千円、
計3万円なのは本当に有難い。押し入れも割と大きめサイズで、布団を入れる場所を工夫すれば簡単なクローゼットが出来そうだ。
部屋の中を見回しながら、空気を入れ替えるため和室の奥の窓を開け放った瞬間、押し入れの中から声が聞こえた。
「よう、帰ってきたのかと思ったら、新顔かよ」
一朗は驚きのあまり畳に尻もちをついてしまった。
右手にビニール傘を持ち、恐る恐る押し入れの戸を一気に開け放った。
そこには和装姿の少女が
髪がボサボサに乱れていて、目の下にはクマ、全体的に薄汚れた感じで、その姿はどこか異様で現実離れした感じである。
「誰だ、お前?」
鈴木一朗の新たなる場所での生活は、この奇妙な出会いから幕が開いた。
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