地球は青かった
解体業
地球は青かった
薄暗い部屋の中で独り、目覚めた。窓の外から見えるのは黒い空と不毛の大地。そして、少し丸みを帯びた地平線。地表面は細かいガラス状の砂で覆われているか、ゴツゴツとした岩肌になっている。ふと放射線レベルを確認してみると数値はギリギリ安全圏。まだこの場所で息をしていることに感謝するべきか。生き抜いていくためには毎日体調を整えて健康を維持しなければならない、最後に残るのは自分の身一つだけなのだから。骨が脆くなっているように感じて、少しだけストレッチをし、身体を起こした。
今日もまた、この厳しい環境で生存するために、作業をするのだ。
倉庫で保存している缶詰や乾燥食料を取り出す。外の世界の極端な温度の変化のせいで、食物を栽培することはほぼ不可能だ。綺麗な水も存在しないので、限られた水をリサイクルしながら生活を続けている。朝食は冷えた缶詰と粉末のスープ。味も栄養も期待できるわけではないが、それしか食べるものがないから仕方なく口に運ぶ。
シェルター内の装備をチェックする時間。外に出るためには、適切な装備を整える必要がある。もう何度も使い古した防護服を着る。今やこれが唯一の防御手段だ。装備の細部をチェックし、フィルターと酸素供給装置が機能していることを確認する。外は過酷な環境。放射線、極端な温度差、そして頻繁に襲い来る微細な隕石の衝突には、慎重に装備を点検し、万全な状態で臨まなければならない。
荒れ果てた景色の中で、資源を探す作業に入る。過去の人間の痕が残る地面を見ながら辺りを徘徊し、鉄くずや金属片を回収する。何度も何度も資源を手にとって運び、再利用できる材料を探す。あまりの疲労に足元がおぼつかなくなるが、そんなことを言っていられない。生きるためには、この資源を無駄にしないことが最優先だ。
午前中に集めた資源をチェックしながら、簡素な昼食を取る。今日の食事も、また缶詰と乾燥食。体を動かすエネルギーが不足しないように、必要最小限の食事で我慢する日々。喉が渇いているが、耐えられる限り水を飲まず、貴重な水はできるだけ無駄にしないように管理している。再利用できる水を集める作業は、また夜に行う予定だ。夜といっても空はいつも黒いから、太陽ではなくて私が人為的に決めた時間における夜ではあるが。
基地の外壁や機器の修理が必要だ。ここは何年も前に建てられた施設で、今や何もかもが老朽化している。酸素供給装置がうまく動かないこともしばしば。修理をしているときに、時折ピッと警告音が鳴るが、もうその警告音に慣れてしまった。放射線レベルの変動、設備の故障。すべてに対応しなければならない。これが日常だと割り切っている。
厳しい環境では、体力維持のためには毎日の運動が欠かせない。筋肉や骨が縮み、体力が落ちていくのを防ぐため、昼食後しばらくしたらシェルター内でできる限りの運動を行う。シンプルなトレーニング器具を使い、数十分間、筋力トレーニングを行う。目の前に広がる荒廃した景色と無力感を感じつつも、身体を維持するためにこの作業を続ける。
夕食は缶詰の食料を再度温め、食事を取る。無数の星がくっきりと光る空を見上げると、偶然、皆既日食を見ることができた。私に余裕があった昔ならば、楽しむこともできたかもしれないが、こんな環境ではじっくり鑑賞することはできない。
夜になると、基地内の電気を使ってさらなる修理作業と水のリサイクルを行う。今後の生活がどうなるのか、明日にはどうなっているのか分からない。再利用できる資源も限界が近づいていることを感じている。少しでも余剰なエネルギーを使わないようにと、思い切りセーブモードで生活を続ける。何もかもが「どうせ、続かないのだろう」と思いながら、最小限の明かりで作業を終える。
寝床に戻り、今日もまた眠りにつく。明日を無事に迎えられるか、迎えられたとしてそれが良いことなのか、分からない。ただ、この過酷な生活の中で、少しでも生き延びるために、睡眠を取る。これが唯一の安らぎであり、次の日への希望である。寝室は薄暗く、ただひたすらの静寂の中、眠りにつく。
窓の外から見える、青く輝く地球を眺めながら。
地球は青かった 解体業 @381654729
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