第6話


 砂漠の賞金首、砂鬼との予期せぬ死闘を制し、無事に戦車クルマを手に入れた俺たち。

 その後何事もなく街に戻ってきたはいいものの、やっぱり真っ裸で入るのはまずいらしく街の入口でレンタルカーと戦車クルマを停めて待っているように申し付けられた。

 そりゃ言われんでもこっちから提案するつもりだったけども。

 股間がぶらぶらして落ち着かないし、普通に恥ずかしいし。

 ちなみに、クルマには盗まれないための生体認証システムが標準装備されているとのことで、余程のことが無い限り他人のクルマに勝手に乗り込んで使うとかはできないようになっているらしい。



 人々の視線から隠れながら孤独に待つこと数十分……。

 クソでかい上にボロボロになった砂鬼の死体と一緒に居るから、注目度がエグいんですけど?

 やめろそこのおっさん、俺は別に追い剥ぎにあったわけじゃねえよ。哀れみの目を向けるんじゃあない。



 お。

 ミラとモアが戻ってきた。

 クソでかいキャリーケースと共に。


 なにあれぇ?


「おかえり??」

「ただいま。はい、服。下着もあるから」

「うっす。着替えてきまっす」

「外に出たら危ないから、戦車クルマの陰で着替えてね」

「普通に恥ずかしいんだけど?」

「これまで散々ぶら下げておいて何言ってるの。今更にも程がある」

「ヴッ」


 おいやめろ、その正論は俺に効く。

 砂鬼との戦闘でテンション上がってたというか、アドレナリンがうんたらこんたらだったから気にならなかっただけだよ!

 冷静になったらこんなんめちゃくちゃ恥ずかしいに決まってるだろ!!



 ぐすん……もうお婿に行けない……。

 あっ、この服西部劇のカウボーイみたいでカッチョイイ!



「お待たせ」

「ん。まあ似合ってる」

「ガウ!」

「おお、ありがとう」

「じゃあまずハンターオフィスに行って砂鬼の死体を引き渡して賞金を貰おう。その後、修理工房に行って砕けた砂鬼の包丁のカケラを使って、防具を作ってもらう」

「え、そんな事できるの? つーかいつの間に集めてたんだ……」

「ん。元が大きいから砕けててもプロテクターの一つや二つは作れるはず。それが完成したらこの街を出るつもり」

「そっか、元々この戦車クルマを探しに来てたんだもんな」

「そういう事」


 カウボーイスタイルとなった俺を見て、ミラが微笑みながら褒めてくれた。

 これであと十年は戦えるぞ。


 そんでもって、工房に素材を持ち込んで防具を作ってもらったりできるのか。

 あれ、それってモン〇ン……いやいや、何もアレの専売特許ってわけでもないしよくある事だよな、うん。


 そういうわけで、まずはハンターオフィスへ行く事に。

 これでようやく忌々しい砂鬼の野郎ともお別れだ。


「ところで、引き渡した賞金首はその後どうなるんだ?」

「生け捕りなら公開処刑が行われるし、今回みたいに死体ならバラバラにして使えそうな部分は街のために使われる。人間の賞金首は知らないけど」

「えっ、賞金首ってモンスターだけじゃないの?」

「もちろん。よほどの悪党じゃないとならないけど、人間でもその首に賞金を懸けられてる奴は居るよ。リビングデッドの四天王とかがそう」

「……組織の幹部的な?」

「ん。ちなみに、両親とお義父さんの仇として私が追っているのは、四天王の中でも最高額の賞金首、“オーバーキル・バッドラック”って奴。懸賞金は30万ゴールド」

「ワァオ」


 えっと、砂鬼の懸賞金がたしか1000ゴールドだから……300倍!?

 そんなにヤバいやつを追ってるのか、ミラは!?


「さすがに、まだまだ戦いを挑むのは無謀だって分かってる。だから、もっともっと力をつけなくちゃ。そもそも、奴がどこに居るのかも分からないけど」

「組織の本拠地とかは──」

「不明。噂になってる所はあるから、とりあえずそこを目指してみようかと思ってる」

「なるほどね、ところで気になってたんだけどそのキャリーケースはどったの?」

「ガウ?」


 体を擦り付けてくるモアを撫でながら、指差して聞いてみた。


「荷物入れ。主に食料品を保存するのに使うことになるかな」

「ああ、そっか。街を出るなら当然酒場に寄って飯食ったりなんてのもできないわな」

「ん。ネタが手に入ったら現地で調理して食べることもあると思う」

「そりゃそうだ……何かそれっぽい建物が見えてきたけど、アレがハンターオフィス?」

「そう。ハンゾーくんも行こ。砂鬼を倒せたのは、間違いなくあなたのおかげだから」

「よせやい照れるべ」

「クゥーン……」


 古めかしいボロ屋ばかりが並ぶこの街にあって、場違いな程に綺麗な白い建物。

 それっぽい看板が見えたからもしやとは思ったが、やはりアレが件のハンターオフィスらしい。


 あ。

 でっかい窓から見えてる、たぶん受付のお姉さんがこっちに気付いた。

 つーか窓開けて外に顔出してる。


「ミラちゃん! クルマで牽引してるその死体はもしかして……」

「ん。砂鬼と遭遇したから狩ってきた」

「ちわっす、初めまして。最近ミラと組み始めた荷鳥半蔵と言います」

「ニトリ・ハンゾーくん……? へえ、聞かない名前だけど……そう、ミラちゃんが遂にパートナーを」

「変な言い方しないで。まあ、砂鬼を倒せたのはハンゾーくんのおかげだけど……」

「ガウ!」

「へえ……?」

「ニヤニヤしないで。もう、さっさとお金ちょうだい」

「あはは、ごめんごめん。とりあえず中に入りなさいな。あ、砂鬼の死体はこっちで預かるわね」

「うっす、失礼します」


 なんというか、ミラのお姉ちゃんみたいだな。

 街の人たちとも随分馴染んでたし、ミラって案外この街に来て結構長いのだろうか?

 あ、建物の中からマッチョな黒服さんが出てきた。

 砂鬼の死体を検分するのかな?



 お姉さんのお言葉に甘えてハンターオフィスの中に入ると、そこにはこの世紀末世界ではぶっちぎりに清潔と言える空間が広がっていた。

 ピカピカの黒いテーブルに、座り心地の良さそうなソファまであるぞ……。


 ん、壁にはってあるあのポスターみたいなのは……。

 なんか実物と微妙に違うけど砂鬼だ。

 つー事はこれが賞金首の手配書か!


 アレだな、画像はイメージです、みたいな感じ。

 画像というか、手描きのイラストっぽいけども。


 お姉さんの指示に従い、ミラと並んでソファに腰掛ける。

 おお、フカフカ!


「一応、確認が取れるまで待ってね」

「面倒」

「確認、っすか?」

「そう。賞金目当ての虚偽報告をする輩がたまーにだけど居るのよ。それに、私たちハンターオフィスからの情報を元にしてトレーダーさんが行商ルートを考えたりなんかもするから、間違った情報を流すわけにはいかないってわけ」

「はへー、なるほど」


 行商人……トレーダーか。

 そういうのも居るわけね。

 

「ちょっと他の賞金首が気になるんで、壁の手配書を見ててもいいすか?」

「どうぞどうぞ。暇だものね」

「ん! 私が説明してあげる」

「あ、はい」

「ふふっ、ごゆっくり~」

「うるさいな」

「ガウ!」


 フカフカのソファから離れるのは名残惜しいが、この世界を旅するとなると賞金首の情報を把握しておく必要がある。

 状況によってはいちいちミラに聞いてられないって事もあるだろうしね。


 えっと、一番左が砂鬼か……。

 ホントに、金額が一番少ないや……。



「まずは砂鬼。ソラ砂漠を根城に、通りかかった人たち……主に街と街を行き来するトレーダーを中心に被害が出てた」

「強かったよなぁ、こいつは。あれで最弱ってマジ?」

「マジ。次はマッハブレイク。砂鬼と同じくソラ砂漠で出没する戦車クルマ型の賞金首。おっきい角みたいなラムが二つついてて、砂漠のあたりを戦車クルマで走ってると対抗するように並走してくる」

「懸賞金は2000ゴールド……うわ、砂鬼の倍もあるじゃねえか! つーかクルマ型って、中に誰か乗ってたり……」

「しない。戦車クルマについてるAIが暴走して勝手に動いてるだけ。だから倒して大人しくさせられれば、ハンゾーくんが乗り込んで使えるかもね」

「マジ!? いやー、俺も自分のクルマが欲しいと思ってたんだよ!」

「ガウ」

「でも砂鬼より数段強いはずだから無茶は禁物だよ」

「う、まぁ、そうね」


 うーん、クルマのあてができたのはいいんだけど……砂鬼の倍……倍かぁ……。

 ミラには悪いけど、絶対無茶する事になるだろうなぁ。

 やめろよ、ミラもモアも。

 ジトーっとした目で俺を見るな!


「最後に、スクラギガース。ソラ砂漠を北に抜けた先で活動してるらしい。出没地域が少し遠いから情報があまり無いけど、すんごく硬い上にパワーもすごくて、無数のクルマがスクラップにされてきたんだって」

「うえ、3000ゴールド……今度は砂鬼の3倍かぁ。マジでアイツ最弱なんだな……。クルマがスクラップに……まあ、見るからにパワー系って感じだもんね」

「ガウゥ……」

「この街で扱ってる賞金首の情報はこれくらい。他の連中はよその街へ行けば手配書がはられてると思う」

「なるほど。まあ、あんまり遠くの事までは関知してらんないよな」

「ん。新しい街に着いたらまずハンターオフィスに行って手配書をチェック。これがハンターの鉄則」

「ふむふむ、分かった」



 ここで、ちょうど砂鬼の検分が終わったようで、受付のお姉さんに呼ばれて無事に感謝の言葉と懸賞金を受け取った。

 成行きで討伐する事になったとはいえ、良いことをすると気持ちが良いゾイ!

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