第5話



 砂漠を爆走する怪物、砂鬼との死闘は続く。

 とはいえ、今は戦車がある分こっちが大きく有利なはず。


「お、モアも中に居たか」

「ガウッ! クゥーン、クゥーン……」

「ちょっ、まっ、舐めるなって! だはははっ、くすぐった──」

「二人とも、後にして!!」

「あ、はい」

「ガウ」


 ミラが無事見つけ出したと思われる戦車に乗り込むと、当然だがモアもそこに居た。

 さすがに、犬の身では手伝うことが無いようで暇そうにしていたけど。


 モアもこいつなりに俺の事を心配してくれたらしく、顔を合わせるなりベロベロといろんなところを舐められた。

 まあ、俺真っ裸なんですけどね。


 当然、今はそれどころではないとミラに怒られちゃった。


「何か手伝うことは?」

「一人でも動かせるけど、武装の管理をお願い。そこのハンドルで狙いをつけてボタンを押せば手動で攻撃できる」

「リョ~カイ! えっと、これか。なんだかUFOキャッチャーみてぇだなぁ」


 言われた通り、戦車の武器を管理するFCSの前で座り込み、ガチャガチャとハンドルを動かしてみる。

 運転席前のモニターに映る照準の縦軸と横軸、操作感は完全にUFOキャッチャーのそれだった。

 つーか一人でも動かせるってどゆこと?

 戦車って普通何人も乗り込んで複数人がかりで操縦するものじゃないの?


 ふと湧いた疑問はさておき、散々人を痛めつけてくれた砂鬼に照準を合わせ、ボタンを押す。


「よーし、撃てェ!!」


 ポチッとな。

 主砲、発射!!



「ヴガァァァ!?」


 命中確認、ヨシ!

 悲鳴が車内にまで聞こえるって、どんだけ声デカイんだアイツ。


「ざまぁみやがれクソ野郎め!」

「まだまだ、全弾撃ち尽くすぐらいの勢いじゃなきゃ砂鬼は倒せない! 賞金首を甘く見ないで!!」

「あ、はい。ところで残弾は……これか」


 戦車に乗っているから、さっきまでよりも相対的に小さく見えるけど砂鬼ほどの巨体ならば外す方が難しい。

 ミラも上手い具合に砲塔を回転したり、距離を維持しながら常に砂鬼を視界に捉え続けてくれてるからめっちゃ狙いやすいしね。


 そんでもってモニターの隅っこに表示されてる主砲の残弾は、18発。

 俺を助けてくれた一発と合わせて、この戦車には元々20発の砲弾が装填されていたのだろうか。


 さぁ、どんどん行くザマスよ!!

 って包丁投げてきたァ!?


「くっ、狙いが上手い……!!」

「ダメージは!?」

「まだまだ大丈夫! でも、帰りの分も考えるとあまり被弾はしたくない!」

「な~る。そんならたらふく砲弾を食らわせてやらにゃなぁ!!」


 砂鬼の包丁が戦車に命中し、明らかに車体が揺れた。

 マジであの包丁何で出来てんだ……?

 とりあえず主砲発射ァ!!


「連射とかできないのかこれ!」

「そういう形式のパーツもあるけど、この戦車クルマは一発ごとに冷却時間を挟むから無理」

「そっかぁ」


 砲弾が再び砂鬼に着弾したかに思えたが、今度は手に持った包丁を盾にして防がれてしまった。

 本当にびっくりするぐらいの硬度だが、さすがにそう何度も防げるほど頑丈ではあるまい。


 投擲し、地面に突き刺さった包丁を砂鬼が回収している隙に、冷却時間が終わった主砲を再び発射する。



「ぃよっし! 当たった!!」

「ん、その調子」

「ガウッ!!」

「他に武器はついてないのか?」

「機銃があるけど、大砲に比べたら威力で劣る」

「十分! 包丁に集中砲火してくれ!」

「ん、武器破壊?」

「そういうことっ!!」

「ガウッ?」

「モアはお座りしててね」

「ガウゥ……」


 ミラが運転しながら器用に機銃を操作して砂鬼の包丁を狙い、冷却時間が終われば俺も主砲で攻撃する。


 そして、ついに──



「ヴァッ!?」


 バギン、と。

 忌々しい包丁が、砕けた。

 さすがに、戦車の猛攻に耐えられるほどに硬くは無かったようだ。


 アレさえ無けりゃこっちのもんよぉ!!


「ミラ!!」

「ん!」

「ガウッ!!」


 主砲の照準合わせ、ヨシ!

 機銃、ヨシ!

 暇そうにしてたモアも外に乗り出して攻撃用意、ヨシ!!



「「いっけぇぇえぇぇ!!」」

「ヴァッ!? ヴガッ、ヴガァァ!!」



 銃弾、砲弾の雨あられが、クソッタレな砂鬼の野郎に降りかかる。

 これにはさしもの怪物も堪らず悲鳴を上げ、砂の大地を奴の血が染め上げた。



 そして、その時は訪れる。



「ヴ……ァ……」



 どしーん、と轟音を上げて、遂に砂鬼が倒れた。

 砕けたご自慢の包丁も砂漠に散乱し、奴はピクリとも動かない。


「……やったか?」

「死んだフリかもしれない。まだ油断は禁物」

「あ、はい」


 すぐに逃げられるように注意しつつ、モアと共に外へ出て砂鬼が本当に死んだかを確認しに行く。


「どうだ、モア」

「……フンフン、ガウッ!」

「それは……死んでる、って事でOK?」

「ガウ」


 砂鬼のニオイを嗅いだモアのお墨付きだ、どうやら無事に倒せたらしい。

 ふぅ、本当にどうなる事かと……。



  賞金首  砂 鬼

 討 伐 完 了 ! !



 ミラの元に戻り、質問を一つ。


「ところで、あの死体どうすんの?」

「街にあるハンターオフィスに持ってく。身体の一部でもいいけど、戦車クルマがあるなら死体をそのまま持っていった方が確実に討伐の証明ができる」

「あ、やっぱり賞金首が居る以上そういう施設もあるのね」

「もちろん。この戦車クルマで砂鬼の死体を牽引するから、乗り捨ててきたレンタルのクルマを拾って、そっちにハンゾーくんが乗ってほしい」

「あ、すっかり忘れてた。もしかして荷物とかもそのまま?」

「ん、急いでたから。それと、帰ったらお説教。とっても、心配、した」

「う……ごめんなさい」


 ついさっきまではアドレナリンドバドバで全然気にならなかったけど、いざ落ち着くとめちゃくちゃ疲れが……。

 それに、あの時は俺が囮になるのがベストだと思ったし、時間を戻せたとしても同じ事をする自信があるけど、ミラとモアを心配させた事については謝らないとな。



 それはさておき。

 車体の後部に砂鬼の死体を括り付け……というよりも引っ張って、レンタルカーを置いてきたというこの戦車の発掘現場に向かう。



「そういえば、砂漠からコイツを掘り出したにしては来るのが早かったよね?」

「そう?」

「うん。正直間に合うと思ってなかった」

「……やっぱり、死ぬつもりだったんだ」

「う、いや、まぁ。あーでもなんか俺ってたぶん不死身っぽくて。手足を斬り落とされても再生しちゃったんだよね」

「は?」

「嘘じゃないって!! ちょっと見ててよ、ナイフか何か……あ、ライフルにちっちゃい剣みたいなのついてたか」

「何する気……?」


 たとえ俺がアンデッドじみた不思議人間だとしても、ミラならきっと見捨てたりはしないはず。

 そう信じて、自分の体質を明かした。


 ザクッと銃剣で……バヨネットだっけ? 自分の腕を切りつけ、傷が瞬く間に塞がっていく様子を見せつける。



「うそ……」

「多少の傷ならすぐに元通り。なんなら全身を踏み潰されても生きてたんだよね」

「そんな事って……これは、いったい?」

「原理は分からないし、限界があるかどうかも不明だ。でも、これは俺の武器になる」

「…………痛い?」

「う、ま、まあそうだけど」

「バカ。自分を大事にして」

「はい……」


 やっぱり、こんな事で見る目が変わったりはしないよな。

 君は、そういうヒトだ。


 いい顔はしないだろうけど、今回みたいに本当にヤバそうな時は、俺は真っ先に俺自身を犠牲にするよ。

 命の恩人、感謝永遠に。



 その後、街に戻る道中で何度もモンスターに絡まれたが、その度にミラが戦車の機銃で蹂躙していた。


 うーん、俺も自分の戦車が欲しくなってきたな。

 実際問題、あの砂鬼がなんと最弱の賞金首だってんだから、この世界を旅する上で戦車は必須と言ってもいいだろうし。


 どこかに落ちてないかなあ……。




 そういえば、俺真っ裸のままじゃん。

 このまま街に入ったら御用になりそう……いや、警察とかそういう組織が居るのかどうかも知らないけど。

 何にせよ、まずミラに服を買ってきてもらわないとな……。


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