第7話
ハンターオフィスで砂鬼の死体を引き渡し、奴の首に懸けられていた賞金を貰った俺たちは、予定通り修理工房へと向かっている。
「ところで、気になったんだけどさ」
「ん」
「砂鬼の死体を引き渡したわけだけど、砕けた包丁のカケラは渡さなくてよかったの?」
「ん、大丈夫。賞金首が落とした物まで渡さなければいけないなんて規則は無いから」
「それならいいんだけど。まあ、街の人的には賞金首の討伐さえ確認できればいいんだもんな」
「ん。綺麗な死体の方が利用価値があるから、その方が喜ばれるかもしれないけどそこは持ちつ持たれつ、かな」
「なるほどね」
ま、ただでさえ危険がいっぱいなこの世界じゃ外に出て戦える人材は貴重だろうし、下手に街側が調子に乗って搾取してへそを曲げられたらたまらないもんな。
気性が荒い奴なんかは、キレて無法者側にジョブチェンジしそうだし。
「クルマ持ちのハンターが略奪者に転身したら下手な賞金首よりヤバそうだもんな」
「最近はたぶん無いだろうけど、昔は実際にそういう事もあったみたい。ハンターオフィスがきっちりとハンターのルールを作るよりも前の話だけど」
「へぇ。そういうのって誰から聞いたの?」
「ん。お義父さんが腕利きのハンターだったから。私の血の繋がった両親が歴史を色々と調べてた研究者で、お義父さんはその繋がりで知ったらしいよ」
「そうだったのか。さぞかし立派な人たちだったんだろうな」
「……たぶん。両親の記憶はほとんど無いから分からないけど、少なくともお義父さんは色んな人に慕われてた」
「……そっか」
「ガウ……」
「モアも元々はお義父さんのペットだったんだよ」
「そうなの? え、こいつ何歳なんだ?」
「…………そう言われてみれば。私より歳上だし、お義父さんと一緒に働いてたから……たぶんハタチは超えてる?」
「ジジィじゃねえか!! その割にめちゃくちゃ元気だなこいつ!?」
「ガウ?」
「詳しい事は分からないけど、モアは遺伝子操作技術で作られたスーパードッグだってお義父さんが言ってた。ロストテクノロジーがどうたらって」
「え、マジで?」
「ガフン♪」
何故かドヤ顔をするモアを見遣る。
どう見てもアホ面浮かべたただの犬なんだけど、そんなに長く生きてるなら確かにかなり特別な存在なのかもしれない。
そもそも普通の犬がバズーカだのガトリングだのをぶっぱなせるわけ無いしなぁ。
うん、納得納得。
「ついでに言うと、このコートはお義父さんの遺品。だから、普通の服とは防御力が桁違い」
「そうだったの!? だからそんな大事そうにいつも着てるのか……」
「ん。ちゃんと洗ってるから安心して」
「いや、そこは心配してないけど」
なるほど、道理で。
クソ暑い砂漠でも一切脱ごうとする素振りも見せないぐらいだから何かあるんだろうとは思ってたけど、親父さんの遺品だったのか。
見た目はただのイケてる黒いロングコートだけど、実は特殊な素材で出来てたりとかするんだろうか。
「あ、工房が見えてきたね」
「ついでにクルマも見てもらった方がいいんじゃないか?」
「ん、そのつもり。忘れずにきちんと伝えておかないと」
「街の入口に置いたままで大丈夫?」
「大丈夫。持ってきても良かったけど」
「ガウ」
入口とはいえ街の中には違いないから、モンスターに襲われる心配も無いって事なのかな。
この世紀末世界で暮らしてるぐらいだ、きっと獣よけになる何かがあるんだろう。
それにしても、修理工房ってだけあってでっかい建物だな。
他と比べても綺麗な方だし、この街で一番豪華な建物なんじゃなかろうか?
「デカくて目立つな」
「ん。工房を中心にして街が作られたらしいから当然」
「へぇ、そうだったのか」
「親方の手が空いてればいいんだけど……」
「ガウ」
そう呟くミラと共に、モアを連れて修理工房へと足を踏み入れる。
そこで目に入ったのは、いくつものクルマを修理する職人たちの姿だった。
見た感じ、ほとんどがレンタルカーのような自動車タイプで、大砲を積んだ戦車の姿は見当たらない。
ミラが探してただけあって、戦車は貴重なのかもしれない。
「おや? ミラちゃんとアンゴルモア三世じゃないか。隣に居るのはミラちゃんの彼氏かい?」
「違う」
「ガウ」
「うっす、初めまして。うちのミラがお世話になってます。荷鳥半蔵と言います」
「ふむ、ハンゾーくんね。このあたりじゃ聞かない名だけど、君もハンターなのかい?」
「そんなとこっすね」
「…………ん。私が世話してあげてる」
でへへ、彼氏だってよ。
生憎ミラ本人にはノータイムで否定されたけど、人にそう見られるだけでも少し嬉しいぞ。
「そんな事より親方。これを使って防具を作って欲しい。あんまり多くは無いけどプロテクターぐらいなら作れるはず」
「これは……? 見たところ、大きめな金属の破片みたいだが……」
「砂鬼が持ってたクソでかい包丁のカケラっすよ。元がバカでかいんで、カケラっていう大きさでも無いですけどね」
「おぉ、砂鬼を倒したのかい! そいつはありがたいね!」
「ハンゾーくんのおかげ。私とモアだけじゃ無理だった」
「ほう、それはそれは……。分かった、僕が請け負うよ。クルマは? 砂鬼を倒したぐらいなんだ、例の子を見つけたんだろう?」
「邪魔になるから街の入口に停めてある。多少なりダメージを負ったから、修理もお願いしたい」
「分かった、入口だね。うちの若い衆に向かわせるとしよう。レッカー移動しても構わないかい?」
「ん、任せる。親方の采配に間違いは無いから」
「ははは、嬉しい事を言ってくれるね。なんとしてもその期待に応えなくては。今抱えてる仕事は別に急ぎでもないし、君たちはあまり長く待っていられないだろう。一日もあれば完成させてみせるが、どうかな?」
「それで大丈夫。後はお願いね」
「よしっ、商談成立だ。忌々しい砂鬼を倒してくれたんだ、代金はいらないよ。その分、今日の夕飯を豪華にするといい」
「え、いいんすか?」
「もちろんだとも。活発に動き回る砂鬼にはほとほと迷惑していたからね。奴を倒してくれたお礼さ」
「ガウッ!」
なんと、まさか無料にしてくれるとは。
つっても元がどれぐらい料金かかるのかも知らんけど。
なかなか話が分かるいい人じゃないか。
「ん、ありがとう。じゃあ宿屋でゆっくりして待ってる」
「完成したら宿に使いを送るよ。それまでゆっくり休んでいるといい」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいまっす」
「ああ! 何度も言うけど、砂鬼を倒してくれてありがとうな。君らもわかっているとは思うが、賞金首というのは我々のような戦う力を持たない一般人にとってはとても恐ろしい存在でね。それを狩ってくれる君たちのようなハンターは本当にありがたいんだよ」
「ん、分かってる。それじゃ明日また来るね」
「よろしくお願いします、親方さん」
「任せてくれ! よーしバカ弟子ども、話は聞いたな!! さっさと仕事にとりかかるぞ!」
「「ウーッス!!」」
物腰の柔らかな優しいおじさん、といった風情の親方が喜ぶ姿を見て、良いことをしたんだという実感が改めて湧いてきた。
当たり前だけど、賞金まで懸けられるだけあって、賞金首ってのは街の人にとっては相当な厄介者なんだな。
うん。
ハンターってやつは、やり甲斐のある良い仕事だ。
少しだけ、この世界に馴染めた気がする。
その後もミラの買い物に付き合い、食料を買い込んで宿に泊まった。
相変わらず食い物の見た目はエグいが、とても美味しく感じた。
きっと、今日という日は俺の人生で忘れられない一日になるだろう。
「「乾杯っ!!」」
「ワオーンッ♪」
明日からはこの街を離れて本当の意味での冒険が始まるとはいえ、今この瞬間ぐらいは全てを忘れてただただ楽しんだってバチは当たらないだろうさ。
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