第3話


 腹ごしらえを済ませたら、早速出発しようだなんて息巻いてた俺だったが、さすがに拳銃一丁で外を出歩くのは危険すぎるとミラちゃんからストップがかかった。

 おまけに、肝心の拳銃もまともに使えるかどうかすら怪しいとなれば尚更だ。


 何でも、いくら移動は主に車で行うとは言っても、レンタルした車には武装が無いらしく、モンスターに見つかった際は窓から身を乗り出して手持ちの武器で応戦したり、場合によっては車から降りて生身で戦わなければならない場面もあるのだそう。


 ちなみに、ミラちゃんの武器は車のトランクに積んであるとの事。

 それだと緊急時に取り出せないから危ないんじゃないかと思ったんだけど、ここらを彷徨くモンスターなら一部の例外を除いてアンゴルモア三世だけで十分倒せるらしい。

 あの犬、どう発射するのか分からないけど背中にバズーカみたいなのと、たぶんガトリング砲を載っけてるからなぁ。


「ふむ、どこで手に入れたんだか知らないが、なかなかイイもん持ってるじゃねえか兄ちゃん。こいつぁ確か、マニアが居るぐれぇのレアモノだぜ」

「え、そうなんすか?」

「おう。とはいえ、実戦で使うとなるとなぁ……大人しくウチでライフルでも買ってった方がいいね」

「あぁ、観賞用みたいな……?」

「ま、そういうこった」

「そっかぁ」

「店主の俺が言うのもなんだが、ミラちゃんに目利きしてもらえば間違いはねえだろ。納得するまで吟味してくんな」

「うっす」


 というわけで、ミラちゃんに連れられてやってきました武器屋さん。

 当然、俺には金が無いのでミラちゃんの奢りです。

 このままだとヒモまっしぐらだから、自分で金を稼げるように頑張らなきゃなぁ。

 尚、俺が持ってる拳銃って実際どうなんだろうと見てもらった結果、どうやらマニア向けの観賞用で実戦で使うには向いていないとのこと。無念。


 なんというか、日本にはまず無いタイプの店だからテンション上がるゥ!


「ガウ」

「イテッ」

「何やってるの……」


 真面目にやれ、と言わんばかりにアンゴルモア三世が頭突きをかましてきた。

 こ、この犬……! いや、今回ばかりは俺が悪かったです、はい。


 さてさて。

 とはいえですよ。

 別にミリタリーマニアってわけでもないから、どの銃が良いのかなんてまるで分かんねえよ。


「初心者におすすめの銃ってある?」

「ん。腕力に自信があるなら金属バットでもいいけど」

「残念ながら俺はムキムキマッチョのゴリラには程遠い軟弱人間なので……」

「腕相撲も弱かったもんね」

「う゛っ」

「ガウ」


 そうなのだ。

 実は、武器屋に来る前、武器選びの参考にするからとミラちゃんと腕相撲をしたんだけど、もの見事に惨敗したんだよね……。

 それをばっちり見ていたアンゴルモア三世からは、明らかに見下されているように思う。ちくせう。


 あれでもない、これでもない。

 ミラちゃんが選定した銃を試し撃ちしては反動に悩まされ……。

 なかなか俺に合った武器を見つけられず、困り果てた末に結局店主に相談してみることに。


「──あぁん? どれも反動がでかすぎてまともに撃てないだぁ? なっさけねえなぁ兄ちゃんよ。それで、俺に相談しに来たってわけかい」

「はい……」

「狙い自体は悪くないんだけど、どうしても撃った後の反動で体が痛くなるって」

「ふむ……まあ、ミラちゃんには俺も散々世話になってるんでね。特別に、銃のカスタムをしてやらぁ。ほら、さっさと適当な銃を棚から持ってきな。これが一番マシだったって奴の反動を抑えりゃ、ちったぁ使えるようになんだろ。その分、射程距離は落ちるが文句言うなよ?」

「すんません、ありがとうございます」

「ガウッ!」

「おじさん、ありがとう」

「おう、気にすんな」


 店主さん……!

 何度も頭を下げ、言われた通り目星を付けていた銃を棚から取り出し、ヘビーな重さに耐えながらなんとか運ぶ。


 そして、それをひょいっと持ち上げる店主さん。

 ワァオ、ゴリマッチョ……!

 ちなみに、ミラちゃんの愛銃はこの店では取り扱っていない、めちゃくちゃ重い物らしい。

 えーと、ヘ、ヘカート? とかいうやつを改造したんだって。曰く、既に原型をとどめてないとのことだけど。

 限られた物資をやりくりするこの終末世界では、いちいち武器を買い換えるのではなく相棒となる銃を決めて、それを何度も改造して末永く使っていくのが主流らしいよ。


 待つこと暫く……。


「ほらよ、持ってみな兄ちゃん」

「これは……軽くなった?」

「だろ。試し撃ちして、納得したら代金を置いていってくれや」

「うっす、ありがとうございます!」


 店主がカスタムしてくれたアサルトライフルって奴を持ち出し、店に設置されている射撃場で試し撃ちしてみる。


「ん、的に当たった」

「おおっ、やった!」

「このくらいの距離なら百発百中が普通。調子に乗っちゃダメ」

「う、うっす」


 よし、これに決めた!

 ミラちゃんに頭を下げ、予定通り金を出してもらって無事購入。

 これでようやく本来の目的に移れる。



 ところが──。



「ハンゾーくん、運転はできる?」

「え、うん。まぁ」

「なら、お願い。私は銃を持って助手席に座るから」

「ガウ」

「あ、はい」



 せっかくおニューの武器を買ったのに使う機会が無さそうなんですがそれは。

 いや、まあそうなるよね普通。

 両手が塞がって武器を持てなくなるなら、ミラちゃんが運転するよりも、俺がハンドルを握った方がいいよね。

 本当にいざって時は車を停めてでも俺も撃ちまくる事になるだろうけどさ。


 理解はできるけど、納得はしたくない俺がいる……でも生意気言ってられる身分じゃないし、もっと頼りにされるぐらいに強くならなければ。


 つーかミラちゃんの銃、でっっっか!!

 こ、こんなのまともに扱えるのか?


「砂漠に出たら、ハンタブについてる金属探知機能を使って反応がある場所を探す。とりあえず、ハンゾーくんが倒れてたあたりまで戻ろう」

「金属探知……そんな機能まであったのか。本当に便利アイテムだな、ハンタブ。ミラちゃんが欲しがってたのも分かるわ」

「でしょ」


 えーと、こっちの方角に真っ直ぐ向かえばいいのか。

 うおお、アクセル全開~!!


「あ、そういえば車の燃料って大丈夫なの?」

「? 勝手に発電してくれるから問題ない」

「そうなんだ……」

「ガウ」


 燃料の心配する必要無いってマジ?

 なんか、終末してる世界の割にところどころハイテクだったりするよな。

 何にせよ、燃料切れで立ち往生、なんて事にはならなそうで安心だ。



 げっ、なんかヌメっとしたキモいスライムみたいなのが出てきたぞ!?

 モンスターかこれ! そりゃそうだ!


「ん、三下ぬめぬめだ。上手く倒せたらネタになる」

「食うの!? あれを!?」

「? ハンゾーくんも食べたよ?」

「……アレかぁ!!」

「モア、お願い。スマートにね」

「ガァウ!!」


 思わず停車した俺が衝撃を受けている間に、ミラちゃんの指示を受けたアンゴルモア三世が器用に背中の武器だけ外に出して轟音と共に砲撃。

 み、耳が痛ぇ!!

 あの犬っころ、なんて武器モン背負ってるんだよ!?


 ミラちゃん曰く“ジャイわんトバズ”の弾がモンスター……三下ぬめぬめに命中し、ぬめっとしたアイツがブシャア!! と飛び散る。


「って爆散したんですけどぉ!?」

「………………モア」

「ガ、ガウ……」

「明日もおやつ抜き」

「ガァ!? ガウゥ~……」


 やっぱりダメだったよ……。

 バズーカよりもガトリング砲の方がまだマシだったんじゃないかと思うんですけど、どうですかねミラさん。


「細切れになるけど、ガトリングの方がまだ原型をとどめる確率が高い。以後、気をつけてね。モア」

「ガウ……」

「ミラーに映る顔がめちゃくちゃ萎れてなさる……元気出せよ、アンゴルモア三世。今度、俺の飯分けてやるからさ」

「ガウ? ガウッ!!」

「あんまり甘やかさないで」

「あ、はい」

「ガウ!?」


 許せアンゴルモア三世。

 どうあがいてもヒモな今の俺ではミラちゃんには逆らえんのだ……。

 まあ、何故かぶっぱなす武器にバズーカを選択したこのわんころが悪いと言えばそれまでなんだが。

 確実に俺たちの言葉理解してるしな、こいつ。


 改めて、ドライブを再開する。

 えーと方角はこっちで合ってるよな。


「逆。そっちは街の方」

「あれぇ!?」

「……方向オンチ?」

「そ、そんなはずは」

「しっかりしてね」

「はい……」


 尚、その後も何度か三下ぬめぬめと遭遇し、今度はネタを入手する事に成功した。

 今のところ順調だけど、ミラちゃんが言うには車……もとい、戦車クルマが無いと歯が立たない強敵がこの辺りを彷徨いているらしい。


 その名も、『砂鬼』。

 道行く人々に大きな被害をもたらした事から、その首に1000ゴールドの賞金が懸けられているのだとか。

 金額を言われてもまだいまいち理解し難いが、俺が買ってもらった銃が200ゴールドだったから、その五倍だ。


 賞金首なんて居るんだなぁ、この世界。


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