第5話 能力者大戦─北欧最強レベッカ・ウェイン─

 能力者大戦と呼ばれる一連の世界大戦においては、世界的な戦乱が巻き起こっていた。

 ヨーロッパのみならずアジア、アフリカ、アメリカ……果ては南極でまで能力者を用いた軍事衝突が行われたのである。


 ソフィア・チェーホワ率いる能力者同盟も当然、そうして拡大する戦場に多数の能力者を投入して介入。

 能力者の保護あるいは確保に奔走し、国連と連携しての事態収拾に向けて懸命な努力を続けていた。

 

 ドイツ・フランスにおいてカーンが活躍していた頃と同時期。インドとスリランカの国境付近にて、レベッカ・ウェインも戦場にいる。

 2mを超える長身に、鍛え抜かれた肉体の上に脂肪が乗ったプロレスラーじみた体格。この頃の北欧においては最強の能力者として広く知られており、同盟内でも10歳は歳上のカーンに負けないほどの武力を誇る女傑である。

 

「こんの──アホタレどもがァッ!!」

「ぐわぁっ!?」

「げえっ!?」

 

 丸太のような剛腕が振り回され、その手に握られている大剣が戦場の能力者達を薙ぎ倒す。鞘に入れたまま鈍器のような扱い方をして加減はしているのだが、それでもまともに食らえばひとたまりもない威力だ。

 インド側100人、スリランカ側65人と総勢165人もの能力者がぶつかり合う荒野であったが……つい先程にレベッカはじめ能力者同盟が割って入ったことで、戦況は大きく変化していた。

 

 すなわち両軍揃って、いきなり横槍を入れてきたレベッカ達能力者同盟に矛先を向けたのだ。

 当然、同盟構成員からは降伏の呼びかけが行われる。カーンが行っているのと同様の、スイスはジュネーヴでの能力者保護の訴えかけである。

 

「双方、戦闘を止めて投降してください! こちらは能力者同盟です!」

「戦争に能力者が利用されることはあってはなりません!! スイスはジュネーヴにて皆さまを保護する体制が出来上がっています! どちらもスキルの使用をやめ、同盟の保護下に入ってください!!」

「能力者同盟……! 最近あちこちの戦場に介入してるとは聞いてたけど、こんなところにまで現れるのか!?」

「舐めんじゃねえ!! 戦争やりたくてやってるやつも、いるんだよォーッ!!」

 

 インド軍能力者部隊もスリランカ軍能力者部隊もともに、能力者同盟からの宣言を受けて見るからに動きが止まる。

 ……一部を除いてだ。特に前線に出て暴れている能力者が十数名、一切の耳を傾けずにレベッカへと武器を向けて襲いかかる。

 

 彼らのような戦闘狂とも言える能力者も、軍事利用された能力者達の中には当然いた。社会からの排斥をも苦とせず、あまつさえ兵器としての"活用"を水を得た魚とばかりに受け入れた、荒くれ者達である。

 スキルを用いて人の上に立ちたい。人より優れた生物として世界を思うままにしたい。そんな邪な考えをも持つそんな連中にとり、能力者同盟とは邪魔者以外の何者でもなかった。

 

「死ねやっ、能力者同盟ィィッ!!」

「俺達はこの戦いで、名を挙げるんだァァァッ!!」


 両軍に少なくない数いる、そうした類の能力者達が迫る。それなりのレベルなのか、明らかに常人の身体能力を超えた動きをしていることにレベッカは嘆息し、次いで全身に力を込めた。

 この程度の抵抗は分かりきっていた。他ならぬ彼女自身、彼らの気持ちも分からなくない程度にはかつて荒くれていたのだから。


 北欧最強とまで称されたゆえん。それはひとえに彼女がダンジョンに潜り、そこに潜む人類の天敵たるモンスターと殴り合い殺し合うことを好んで行う戦闘狂だったからだ。

 いや、戦うことだけでなく相手の生命を奪うことに強い快楽を覚えていたあたり……殺戮狂と呼べる段階だったかもしれない。


 しかし彼女はソフィアとの出会いによって変わった。彼女ともう一人、ヴァールというはるか格上の存在によって鼻っ柱を折られ、道を示されることで自らを変えたのだ。

 楽しみや快楽のためでなく、人々と世界を守るためにその力を振るう。能力者に授けられたステータスはそのためにあるのだと、薫陶を受けたのである。


「《ステータス》」



 名前 レベッカ・ウェイン レベル187

 称号 剣士

 スキル

 名称 剣術

 名称 剛力

 名称 頑健

 名称 気配感知

 

 称号 剣士

 効果 剣を使った攻撃の威力に補正

 

 スキル

 名称 剣術

 効果 剣を使った戦闘術の習熟に補正

 

 名称 剛力

 効果 腕力に補正

 

 名称 頑健

 効果 肉体の耐久力に補正

 

 名称 気配感知

 効果 周囲のモンスターの気配を察知する



 ……迫る敵を前に、音声認識によって現れる、自身にのみ視認可能な、空中に表示されたステータスを見る。

 この画面を見る度、レベッカはソフィアとヴァールの教えを思い出す。そしてその都度、己の使命を実感し、全身に力が漲るのだ。


 今回、相手はモンスターでなく人間だ。だが背負った使命と責務にいささかの変わりはない。守るのだ、一つ残らず。

 剣に力を込める。鞘に収まったままでも振るわれれば殺人級の威力だが、細心の注意を払った力加減で気絶に留めるよう調整する。

 カウンターを入れる形で、相手の攻撃に合わせて彼女はそして、一歩踏み込んだ!


「《剣術》、ヘヴィースマッシュ! ──寝ときな、雑魚どもっ!!」

 

 技を繰り出す。横一文字に敵を薙ぐ、彼女らしい豪快な一撃だ。

 結局この後、この戦場は瞬く間にレベッカが制圧。倒した者も降伏した者も全員、能力者同盟によって保護されたのである。

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