第4話 能力者大戦─星界拳始祖シェン・カーン─

 ──翌年、1943年。

 ついに恐れていた世界大戦が勃発した。


 西欧での軍事衝突がトリガーとなり、各国がそれぞれのイデオロギーに沿って友好国と同盟を形成。

 いくつかの国家同盟同士が戦闘状態に突入し、戦火は瞬く間に世界へと広がったのだ。そして、大方の危惧通り、戦場には数多の能力者が投入されていた。


 スキルや称号、レベルといったスーパーパワーで容易く人間の限界を超えてみせた彼らは、それゆえか社会から迫害され排斥される憂き目を見ていた。

 後には"ダンジョン探査者"として社会的地位を確立するようになる能力者だが、この頃にはまだ法整備や社会の受け入れ体制が整っておらず……"新人類"である能力者への風当たりは、極端に強かったのだ。

 

 そうして世界各国で孤立していった能力者達を、その力を軍事利用したい国々は即座に確保して好きに扱った。これがこの時起きた"能力者大戦"の本質である。

 能力者同盟盟主ソフィア・チェーホワももちろんそのことは看破しており、それゆえに終戦に向けて即座に行動を起こしていたのだ。

 

 それはすなわち目には目を、歯には歯を。世界中の能力者達の戦場に、彼女達能力者同盟も介入し始めたのだ。

 そして戦争の道具に成り下がっていた者達を説得し、国連が定めた能力者保護特区スイスのジュネーヴへと保護しているのであった。

 

 ──今この時。シェン・カーンがドイツとフランスの衝突に介入しているのもそうした事情によるものであった。

 双方能力者部隊の複数部隊が、正面からスキルを放ち殺し合っている地獄の最中にて彼は、己の武術を如何なく発揮していた。

 

「デァァァァァァッ!! 星界龍ゥゥゥ拳ッ!!」

「な、なんだあいつは!? ドイツ兵か!?」

「バカ言えフランス野郎じゃないのか! こんなやつ部隊にゃいねぇーぞっ!?」

「アホか! どう見たってありゃ東洋人じゃねーか!! 見たことあるぞ、あれはカーンだ! 中国最強の能力者、シェン・カーンだぁぁっ!!」

 

 両軍激突する白兵戦の只中に、一陣吹き荒れる武術の嵐。ドイツ側の能力者もフランス側の能力者も揃ってその勢いに巻き込まれては薙ぎ倒されていく光景に、双方の兵士達は戦いの手を止めざるを得なかった。

 カーンの扱う武術、星界拳は自らの脚のみを用いて攻撃する極めて特殊な流派だ。この時も彼は己の両脚にて、豪快な蹴り技を放っている。

 

 

 名前 シェン・カーン レベル236

 称号 武術家

 スキル

 名称 武術

 名称 気配感知

 

 称号 武術家

 効果 体系化された戦闘技術を用いた攻撃の威力に補正 

 

 スキル

 名称 武術

 効果 体系化された戦闘技術の習熟に補正

 

 名称 気配感知

 効果 周囲のモンスターの気配を察知する

 

 

 上記がこの時のカーンのステータスだ。能力者発生から約10年、レベル200に到達している能力者はこの頃、稀である。


 故郷である中国の内陸地にて、シェン一族全体で星界拳を修練する通称"シェンの里"を興し、初代里長として里の運営にも携わる経営者としての一面も持つ男、カーン。

 アジアはおろかヨーロッパ圏にさえ、随一の実力を誇る能力者として名が広まっていた。

 

 当然この場にて蹴散らされる対象のドイツ・フランスの両能力者達の中にも彼と星界拳を知る者はおり、その名を悲鳴とともに叫ぶ。

 それが心地よく、カーンはさらに勢いを増して技を繰り出した──己とシェン一族、そして星界拳の名声と栄光を求めて鍛錬を続ける彼は、自己顕示欲の塊でもあった。

 

「星界拳・星界龍舞武闘脚ゥゥゥッ!! ────そうだっ、我こそシェン一族は里長にして星界拳初代シェン・カーンッ!! 星界拳のシェン・カーンだっ!!」

「な、何をっ!?」

「国に利用されている能力者達よ、このシェン・カーンが属する能力者同盟は君達を保護するっ!! 抵抗するなら星界拳の技で蹴り倒す、抵抗しなければ何もしないっ!! 大人しく降参し、スイスはジュネーヴにて国連の庇護下に入るが良いッ!! 我が名はシェン・カーンッ!! 君達を助けに来た、星界拳士であるっ!」

「何回名乗ってんだ、この東洋人……」


 近くで聞いていた能力者兵士が呆れ返るほどに己の名を繰り返し叫ぶ。この通りカーンはとかく己の名を広める機会として、この戦場を利用しているフシがあった。

 無論、彼は善性の人だ。敬愛するソフィアの下で能力者同盟の同志とともに戦場に割って入るのも、もちろん同胞たる能力者達を救い出し一人でも多くの命を救うため。


 一秒でも早く、戦争を終結させるという使命感の下に動いているのだが……それはそれとして、同時並行で自身と一族、そして星界拳の名をも広めたいとする欲望もまた、たしかにあった。


「ほ、本当にシェン・カーンだ……それに能力者同盟ったら、ソフィア・チェーホワの」

「た、助けてくれるのか? こんな地獄の戦場から、俺達を……」

「こ、降伏する! 嫌だ、嫌なんだ殺し合いなんかっ! スキルに覚醒しただけで社会から追い出されて戦争させられて、もう嫌なんだーっ!!」

 

 カーンの声に次々と降伏する能力者達。彼らのほとんどは已む無く──彼らの住まう社会において、他に生きていく道がなかったがゆえに──戦争に従事している者達ばかりだ。

 そんなところに救いの手が差し伸べられた以上、人殺しなどに関わっている理由はない。

 

 結局この戦場においては約80人ほどの能力者達が呼びかけに応じて降伏し。抵抗した者達はみなカーンの星界拳の前に地に沈み。

 そして全員、能力者同盟が保護する形でスイスはジュネーヴに運ばれていった。

 国連による超法規的措置、全面的なバックアップを受けたソフィア達は、こうして能力者大戦に参戦していたのである。

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