第6話 推しの場所

おそらく1時間は談笑しただろうか…

そろそろしびれを切らすところで運良く、レイリーがお手洗いにと、席を立ってくれた。

私もすぐさま便乗し、フルールをつれて化粧室へ向かった。

魔力を使ったが、やはり声は聞こえなかった。

伯爵家も広大な屋敷をかまえているため、一つ一つの部屋が広く、また遠いのだろう。

庭園と化粧室はわりと近いから助かったが…

「レイリー様、この前一緒に行った、本がたくさんあるこの家の素敵な図書室へもう一度行きたいのですが…案内して頂けませんか?」

手を洗いながら鏡越しにお願いをしたのだが、レイリーは図書室という言葉が出てすぐに顔を曇らせた。

(図書室という表現がまずかったかしら。大袈裟すぎた?書斎とか勉学部屋と言ってみるべきだった…?)

真意を知りたくて魔力を使ってみる。

私がこの能力をもっていることは家族たちしか知らないため、警戒されることはないだろう。

《だめ》

《今日はだめ》

「ビジュー様…何か気になる本でもありましたか?お気に召していただけて大変嬉しいのですが…少し距離がありますので、足を運んでいただくのは申し訳なくて…」

《高貴な方をアレに》

《だめ》

「私が代わりに庭園へ持って行かせてもらいますよ」

ぎこちない笑顔で本音を隠しながらレイリーはそう言った。

(高貴な方?アレに?)

少し考えて、はっと気付いた。

生粋の貴族社会で生きてきたレイリーにとって公女である私は尊敬に値するまばゆい存在だろう。だが大魔法使い様は元平民だ。

アレなどと表現したのかもしれない。

腸が煮え繰り返りそうなのを抑えて、推しの笑顔のシーンを思い出し、冷静になってから、考えた。

図書室で、魔法学を勉強させているの?

たしかに、お茶会の時に強力な魔法をつかって練習すれば爆発音や光で私たちが気付くかもしれない。

(図書室なら誰にも気付かれずに、ひっそりと学ばせることができるものね。)

私はにこりと笑うと、

「では、お言葉に甘えてもいいかしら」

と言い、気になっている(ていの)本を3冊お願いした。

「フルール、重たいだろうからレイリー様と一緒に行って運んできてくれる?」

と、ちゃっかり同行させて。

これでいい。あとは私が追いかければいいだけなのだから。

一人で庭園に戻るふりをして、近くにいた伯爵家のメイドに『みんなにはレイリーとフルールと私は少し奥にあるローズガーデンで鑑賞していると伝えといて』とお願いをした。

なぜそれをメイドであるフルールではなく公女自らが言いにきたのだろうと不審に思わせないために

「実はレイリー様にクッキーを渡したいのだけど、アレン様のはないのよ。あまり甘いものをお好きではないようだし。女子だけで食べたいの。だから今、フルールに時間稼ぎをしてもらってる間にあなたに言いにきたの。どうかローズガーデンには誰もすぐには来させないでね」

と耳打ちしといた。

なんだかしっくりこない言い訳な気はするが、魔力を使って読み取ったところ

《きれい》

としか言っていなかったので、誤魔化せたようだ。

ビジューは男女ともに憧れられる美しい外見をしていた。

金に輝くブロンドヘアーは長くストレートで鼻は小鼻であるが高く、顔は小さく目は大きくはないが少し吊り上がっていて、バランスの取れた気の強そうな美人の顔立ちであり、手足は12才の割にすらっとのびていて、胸もすでに発育していた。

(使えるものは使うわよ)

家族と推しのためにもね…と思うが、推しが恋に落ちるヒロインとは正反対の外見だ。

ヒロインは目がおおきく、少し垂れ目で甘く、小柄で華奢でピンク色のウェーブヘアはまるでうさぎのようなふわふわとした小動物を想像させるTHE守ってあげたい代表の容姿なのだ…。

そして性格もいい…。しかも聖女ときた。

私のような変態な要素ももちろんない。

なので正直、推しに好きになってもらえるかどうか、外見においては自信がない。

ただ、内面は大丈夫だ。

ヤンデレものの小説やゲームなどは前世でやりつくした。ヤンデレが何を欲しているかわかっているつもりだ。

なにより推しへの愛は、ヒロインには負けない。

というか誰にも私をこえられないだろう。

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