第5話 命の読み取り開始

楽しい四人だけの時間はあっという間に終わり、伯爵邸についた。

場所をおりると門の前で執事やメイドたちが出迎えてくれ、庭園へと案内してくれた。

私は目立たないように顔は動かさず目線だけを左右に行き来させ、大魔法使い様を探した。

ドキドキしたが、まだ出会えなかった。

本来のストーリーではビジューと大魔法使い様が出会うのは学園に入ってからだ。

ビジューとヒロインは学園には16歳で入学するが、大魔法使い様は二人よりも二個も年下にもかかわらず魔法の実力で2学年上の三年生として在籍をしていた。

この世界は実力さえあれば飛び級が認められていた。

働いて賃金がもらえるのも何歳からでも可能であるが、だいたい貴族たちは学園を卒業してから働くようになる。

大魔法使い様は元々孤児院で育ったのだが、貴族である伯爵家に養子縁組をされることで、貴族となる…。

だが、実質奴隷のような扱いを受けるのだ。

伯爵とその妻は、子供を2人もうけていたが、あまり魔力量の高くない子供達がいても将来自分たちの利益にならないため、ありえないほど魔力の高い大魔法使い様を家族にすることによって搾取していくのだ。

小さく質素な部屋を与え、食料は最低限。魔法の練習を朝から夜まで強制訓練させ、また魔法書を叩き込ませ勉学にも励ませる。

学園を卒業し魔塔主になってからは莫大なお金を吸い付くし、利用するだけしていく。

そもそも伯爵家は平民を下に見ており、その子供たちもまたそうだった。孤児なんてもっての外、汚いと蔑んでいたのだ。

そもそも、孤児院でも魔力が高いことで恐れられており、彼に心安らげる場所はなかった。

ヒロインに認めてもらえるまでは…

「遠路はるばるお越しくださったことに感謝申し上げます。」

席に着く前に、伯爵の家族がわたしたちに挨拶をした。

公爵のほうが身分が上のため、私たちが座ってから彼らも腰を下ろした。

嗅ぐだけで幸せになる甘い香りのただよう美味しそうな、とても豪華なスイーツたちが並ぶ中、メイドたちが紅茶を注いでくれるのを待った。

両親が持ってきた手土産は、帰ってからあけてもらうため執事に託してあった。

私の手製クッキーは、大魔法使い様がきてから渡したいので、隣に立つフルールがバスケットに忍ばせてくれている。

まだよと目配せしているため、フルールはきっと帰り際に渡すと思っているのだろう。

早く会いたいのに、なかなか姿を表さない推しを探すために私は魔力を使った。

私の使える魔法の一つに、人の命の叫びを感じ取るものがある。

これはまだ脳内の言葉を完全に再生できるものではないので、例えば今テーブルを囲むひとたちの具体的な心の声を全て聞くことはできない。

簡単な感情だけを知ることができる。

伯爵家の長男である、アレンが

《退屈》

と思っていることやその妹である長女のレイリーが

《たくさん食べたい》

と思っていることくらいしか感じ取れない。

おそらく鍛錬し魔力も技術も向上すれば、ゆくゆくは聞こえることになるだろうが設定上はその前に破裂エンドだ。

魔力を使い、推しの命の叫びを感じ取ろうと頑張るが…全く聞こえない。

近くにいないのだろうか?

我慢できずに、私はフルールを連れて席を立つことにした。

だがあまりにも早くお手洗いにとこの場をあとにするのは不自然だし、失礼にあたる。

今日は両親も一緒だから、メンツを潰すわけにはいかない。いかにも貴族の令嬢らしく微笑みを浮かべながら、優雅に紅茶を嗜み、今か今かと待った。







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