第4話 3人のためなら
私が目を覚ましてから、1ヶ月が経った。
ようやく、イベントを起こせる。
すぐにでも推しに会いに行きたかったが、過保護な両親とメイドがそれはそれは心配をして外出を許可してくれなかった。
今世では愛されていたので、私は両親が大好きだし大事だ。心配はかけたくない。もちろんメイドにも。
しっかり言うことを聞いて、念の為のリハビリとして歩行練習(たった3日寝ていただけだが)や、それを終えて早歩き、そしてジョギングなども広すぎる敷地内の庭園で徐々に段階を踏んで行った。
食事面も、ファーブルトンという小麦粉を牛乳で煮たフランス流のお粥からはじまり…これまた段階を踏んで野菜、魚なども口にし、やがて普通のご飯を食べれるようになっていった。
魔法も少しずつ練習して、元のレベルまで使えるようになった。
1ヶ月で完全に元の生活に戻った。
戻らなかったのは性格だけだ…。
真面目で貴族として美しく気高く生きてきたビジューの性格半分、性欲の強く、わりと大雑把だった前世の性格半分で出来たような性格だ。
すぐに両親やメイドに性格が変わったことがバレたがなんせ溺愛してる彼らのことだ。
『今までが真面目で頑張りすぎたのよ!今がちょうどいいわ!』
『そうだ!肩の力を抜いた方が上手くいくもんだ!』
『お嬢様は完璧すぎたので、少しの隙が必要だと思っていました』
と、雑な部分をも受け入れてくれた。
本当にビジューの人生は幸せだったと思う。破裂するまでは。
見たくれもいいし、地頭もいいし、大事な人たちから愛されて守られていた。
間違った方向に進みそうになったときは、優しくさとし、ただしてくれた。
前世のように怒鳴りつけたり殴るような方法とは正反対の、抱きしめたり、両手を包んでビジューの想いを受け入れた上で話してくれた。
メイドも含め理想のあたたかい家族たちだった。
だからこそ、絶対に勝手に死んだりしない。
恩返しをしていくのだ。
そして、恋愛も成就させるのだ!
ついに、推しに会うのだ!
すわり心地のいい柔らかいクッションの椅子に座ってビジュー手作りのクッキーを嗜みながら、両親とメイドと4人で楽しい時間を過ごしながら馬車に揺られた。
専属の護衛騎士も後ろで馬を走らせながら一緒に。
(もうすぐ…もうすぐ会えるのね)
そう思うと楽しみで胸が弾けそうだった。
「それにしてもビーが、伯爵家でお茶会をしたいなんてね。いつもは侯爵家の話ばかりするから、てっきりご子息であるエクラ様のことが好きだとばかり思っていたよ」
父が顎をなでながら笑顔で言った。
そう、憧れの人、エクラ様。前世の記憶が戻った今も尊敬をしているし憧れてはいるし、年上だけにカッコいいお兄さん枠ではあるのだけど…。
それよりも破裂回避をするために、推しに早く近付きたいのだ。他に使う時間はもったいない。
「もう、お父様ったら…わたくしはまだ、12才でしてよ。恋愛だなんて」
と口の前に手を当ててクスクス笑った。
「もちろんエクラ様は素敵な方ですけれど」
と、一応匂わせというか可能性は残しておく。
大本命である大魔法使い様のことが、まだバレてはいけない。
心が通うところまで進んでから打ち明けたいから、悪いが勘違いしといてもらったほうが都合がいいので今は曖昧にしておくことにした。
「以前、伯爵家でお茶会をしたときにたくさんの本が置いてある部屋がありまして。とても勉強になりましたの。わたくしはもっと魔法が使えるようになりたいのです。公爵家を守っていくためにも、お国に貢献するためにも」
柔らかく微笑んでそう話した私にまるで親衛隊のような絶対ビーの味方三銃士は心を打たれた顔でため息をついた。
「お嬢様…っ」
「どうしてこんないい娘に育ったの…」
「なんと可憐で心優しい娘なんだ…」
まだ12歳だぞ!と興奮気味に語っている。
「生まれつき優しかったのよ。天が使わしたんじゃないかしら!?」
ビジュー(宝石)ではなくアーンジュ(天使)と名付けるべきだったかなどと真剣に語り合っていて笑ってしまった。
さっきの言葉に、うそはない。
本当にこの人たちのためならなんだってできるし、頑張れる。愛国心は別にないが国のために尽くすことで家族がいい待遇を受けられるのなら、努力は惜しまないつもりだ。
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