第11話 ゴブリンバスターズ

 ゴブリンの洞窟、いや巣穴か。


 暗闇の中から悪臭が立ち込める。

 鼻が曲がりそうだ。

 松明に火をつけて中へと入る。

 念のため俺は二人に注意喚起した。

「壁を注意深く観察して進むぞ。奴等は横穴を作って背後にまわる」

 ジラールが不満げにぼやく。

「いくらなんでも装備が棍棒とかっておかしんじゃねぇか?」

 俺はため息をついた。

「わかってないな、こんな狭い洞窟じゃ剣は振り回せない。棍棒が一番だ」

 最後尾で周囲を見渡すオルマが感心した顔で話しかける。

「ミュラーはこういう状況に詳しいんだね。こういうの慣れてるの? アタシなんてこういう暗い場所、駄目なんだよねー。なんか頼りになるよ!」

 俺は松明をかざしながら、答える。

「いや、冒険者の本で読んだだけだ」

 こういう時に学問は役に立つというものだ。

 勉強していて良かった。

 しかし二人の反応は微妙だった。

「ざけんな! 素人じゃねーか! よしよしゴブリンちゃん、ちゃんとおうちまで案内してくれよ」

 ジラールの言葉に言い返そうとしたが、喧嘩をしているところではない。

 オルマが泣き言をぼやく。

「絶対殺される……。.そもそもゴブリンの穴倉に子供たち置いてきてるなんて、傷一つどころじゃすまされないよ……。最悪種付けされてるかもしれないよー……」

 ジラールがゴブリンの尻を撫でながら、天井を仰ぐ。

「そしたらベガス湾の魚の餌だな、俺たちは。クソッタレ!」

 奥へ進むと分かれ道があった。

「物語の鉄板だと左が正解だ。左へ行くぞ」

 間髪入れずにオルマが俺の後頭部に棍棒をぶち当てる。

「素人は黙ってて!」

 いきなり何をするんだ、痛いじゃないか。

 するとジラールのゴブリンが右へ行きたそうに、ジラールの手を引っ張る。

「ゴブリンちゃんは右へ行けって言ってるぜ」

 俺を嘲笑いながら二人は右へ進みだした。

 俺も暗い巣窟野中一人は嫌なので、後へとしぶしぶ続く。


 全くこれだから学の無い連中は……。


 ほの暗い洞窟の奥へまた奥へと足を進める。

 するとジラールがぼそっと呟く。

「……なぁ……びっくりするぐらい何も出てこないな。蜘蛛がいるぐらいだ。しかもすっげーちっこいやつが……」

「……静かにしろ。この先に広間がある」

 松明をかざすと狭い通路が徐々に広がってきているのがわかる。

 俺は壁から壁にかけてロープを張る。

 その様子に不思議そうにオルマが眺める。

「ねぇ何やってんの?」

 俺は自信げに答える。

「罠を作ってる。連中は待ち伏せすることはあっても、俺たちが待ち伏せてるとは思いもしないらしい」

 ジラールがせせら笑う。

「それも絵本で書いてあったことかよ」

 無視した。

「俺がこれから詠唱を唱える。放つ光と同時に飛び込んで奴等を狩れ」

 二人は残念な顔をしながら俺を見つめる。

 しかし俺は気にせず詠唱を唱える。


『臨光刹那 常闇陽光 奉唱光現 明静暗切 出でよ聖光!』


 詠唱を始めると、ジラールとオルマが狼狽えだした。


「おい、こいつ詠唱始めやがったぞ!」

「あー、もう! 仕方ないなぁ!」


 眩い閃光が放たれ、広間を照らす。

 光と共に二人が駆け出す。


 しかし、そこには、そこには何も無かった。



「どうすんだよ、ゴブリンはいねぇ。子供もいねぇ。……マジでベガスの海に沈められるぞ」

 苛ついたジラールが松明を俺の前髪が焦げるまで近づけて、悪態を放つ。

 俺は教本に従っただけだ。

 たまたま何もいなかったんだ。

 俺は間違ってない。

 そんなに怒んなくてもいいじゃないか。


 結局三人で洞窟内をくまなく探したが、ネズミの親子がいただけで、何もいなかった。


 ああ、ゴブリン退治したかったなぁ。


 オルマがガックリと肩を落としてぼやいた。

「……もう出よう。……ここにはいないよ……」


 なお、俺が仕掛けた罠でジラールが盛大にすっころんだ。


 本当にこいつはマヌケだな。

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