第10話 マフィア

 堀師の元から離れて一時間後、昼下がりの閉店状態の例の風俗店の中に俺たち三人はいた。


 ピンク色の看板の店も、日中の店内は薄暗いものだな。

 俺たち三人の意気消沈ぶりがよく反映されている。

 運よく店の従業員と思しきグラマラスな女性に話を聞くことができた。

「あんたらのことならよく覚えてるわよ。ちっちゃい子供たちつれて、派手にショーを楽しんでたわ。あんな年端もいかない子供連れてくるなんてあんたたちどうかしてるわよ」


 また信じられない言葉に耳を疑った。

 子供たちだぁ!? 


 ジラールが聞き直す。

「子供たち? 俺たちゃ十代半ばくらい金髪碧眼の女の子を探してるだけだ。その娘一人、けどその話聞くと数に誤解があるみたいだな、俺たちはその娘含めて四人のはずだろ?」

 グラマラスな店員が、ジラールを見て、何言ってんだこいつみたいな顔をした。

「金髪がいたかは覚えてないわよ。けど十歳未満の大勢の子供たちに見つめられながら、裸でポールダンスしていたあたしの気持ちも考えてほしかったわ。もう!」


 意味が分からない! 

 そんなことしてたのか俺たちは!!??


 思わず塞ぎこんで、頭を抱えた。


 だんだん混乱してきたぞ。


 気持ちを落ち着かせようと深呼吸をしようとした、刹那。

 爆音が鳴り響いた。

 振動で揺れる店内、辺りに埃が立ち込める。

 とっさに目と口を覆う。

 それが誤りだった。

 気付いた頃には、俺たちの周りには武装した屈強な男たちが囲んでいた。

 オルマが震え声で呟く。

「東湘会……。なんで……」


 こいつの言ってた例のマフィアか! 

 チクショウ! 

 なんだってこんな時に!


 斧や棍棒で武装した男たちの中から、一人丸腰の男が近づいてくる。

 その面構えは他の奴等とは違い、歴戦の修羅場をくぐりぬけた猛者特有の雰囲気を漂わせる。

「よお、探したぜ、小僧ども。昼間っからストリップバーに来てるなんて、よっぽどのクソ野郎だな。覚悟はできてんだろうなぁ!」

 すかさず臨戦態勢をとり、俺とジラールは装備した武器を抜こうとした。

 しかしオルマがその男に向かって泣きつき出した。

「ずみまぜんーー! はなじだけでもぎいでぐだざいーーー!! はなじだけでも!!」

 その態度に俺はイラっとしたが、相手はオルマの様子をみて、戦闘意欲を失ったようだ。

 冷静にこちらの様子を眺めながら、落ち着いた言葉をはなつ。

「言ってみろ、少しは聞いてやる」



「ふむ、アナコンダの精力剤でラリったせいで、昨日の記憶はふっ飛んで何も覚えていないと」

 オルマが土下座しながら答える。

「……はい゛……」

 男がこめかみに青筋を立てながら、深く溜息をする。

「お前らがうちの世話してる孤児院から子供をつれだしたことも覚えていないんだな?」

「ぞうでず」

「さっきうちの若いのが店の女から聞いたが、お前らはこの店を出て、ゴブリンの洞窟に向かったそうだ。なんでも『ゴブリン退治して冒険者を証明してみせる』とか抜かしたらしい。ふ……。笑えるよな……」

 そう薄ら微笑みながら男が呟くと、それにつられオルマも「へへ」と笑ってしまう。

 これがいけなかった。

 この男の逆鱗に触れてしまった。

「何笑ってやがる! 危ねぇゴブリンの洞窟に俺の子供たちを連れて行って、子供の行方が知れねぇんだぞ!」

 すかさずオルマが額を床に擦りつける。

「ずみまぜん! ずみまぜん!」

 男が煙草を口にし、舎弟に火をつかせ、深く吸う。

「もういい、お前ら今からゴブリンの洞窟行って、子供たち連れてこい。逃げたり、子供たちに傷一つ付いてたら、生きてこの街で出られると思うなよ? ベガス湾に沈めるからな」

 そう言い放つと、俺に向かって煙草を投げつけた。

 無礼な行為に剣を抜こうとしたが、オルマの渾身の土下座に免じて我慢してやった。

 そして男は背中を向けここから立ち去ろうとした。

「今夜、この店にまた来る。そんときまでに子供たちを連れてこい。……逃げるなよ」

 そう告げて、この場からマフィア達は消えた。


 ジラールがゴブリンの頭を撫でながら、作ったような笑顔で語りかける。

「良かったなぁ、これでおうちに帰れるぞゴブリンちゃん」


 ああ、そうかゴブリンの謎が解けたんだったか……。

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