山陰号トリックツアー ~3・朝7時の東京駅編

与方藤士朗

出雲4号に追いつき追い越せ!

第1話 今度はどこで追いつこう?

この作品の前作は、こちらです。

山陰号トリックツアー ~2・朝の食堂車編

いざ、出雲号へ!

第1話 さあ、出雲号に乗ろうではないか!

https://kakuyomu.jp/works/16818093090424654856/episodes/16818093090424676210


・・・・・・・ ・・・・・ ・


「マニア君、あんた、またスパゲティかな?」

「ほな、あとでミルクセーキもお願いします」


 夕方17時過ぎの岡山大学近くにある喫茶「窓ガラス」に、学生服を着た少年が来ている。彼は、大学の先輩からの伝言をこの店のママさんに伝えるために来ているのである。若干13歳の中学2年生・マニア君こと米河清治少年は、学校を終えて岡山大学鉄道研究会の例会に少し顔を出した。この日会長の加東敏氏は自動車教習所での講習に行っているため、その時点ではいなかった。

 その代わり、彼の同期になる今田正明青年から伝言を伝えられた。


「作家の内山さんと加東君からの伝言じゃ。内山さんは15時10分の「やくも11号」で米子まで出て、そこから「出雲4号」で東京に向かわれている。ついては窓ガラスのママさんに、明日朝東京に来るまでのプランを作って窓ガラスに早めに行ってやってくれと言われとる。条件は、東京駅に朝7時、出雲4号の着くホームで会えたら一番いいが、無理なら10時過ぎに出版社で直接でも構わない。その条件で、プランをここで作ってから、窓ガラスに行って欲しい」

「わかりましたSGさん。直ちに作ります」

 とは言うものの、少年はすでにその案を作っていた。彼は年齢的にも学年的にも先輩になる今田青年の時刻表を借り、すぐにプランを書き出した。


 今からでしたら、最終のひかり号で京都まで行ってそこから「出雲2号」の寝台に乗って東京入りすれば、6時半前には着きます。あるいは、名古屋まで行って少し待ちますけど「紀伊」に乗るといいでしょう。もちろん「出雲4号」で京都からという手もありますが、満席の可能性もありますから乗車効率が落ちる「いなば」もとい出雲の2号か、それでもだめなら、紀伊勝浦からの紀伊号に名古屋で乗込めば、出雲4号より先に東京に着きますね。

 睡眠時間確保という点では、京都から乗るのがベストでしょうけど、今時でしたらそうですね、「紀伊」の方が確実かと思います。

 残念ながら「瀬戸」は「出雲4号」より到着が少し遅いですから、やめた方がいいでしょう。他に大垣夜行という手も考えられますが、あれは東京到着が早すぎます。しかも、名古屋までの新幹線では間に合いませんから、仕方ないです。

 というわけで、本田さんには名古屋行のひかり号と、その後出雲2号か紀伊のどちらかに乗るという案をお伝えしようと思います。

 そんなところで、どうでしょうか?


 少年のいわゆる「プレゼン」を黙って聞いていた今田青年は、時刻表を改めて確認している。彼らの同期になる工学部の香西青年が、今田青年のチェックを待たずして一言述べた。

「マニア君の言う通りでよかろう。今からすぐ窓ガラスに行ってあげんかな」

 今田青年は香西青年の勢いに押されてか、メモ用紙にその予定をメモし、少年に託した。

「じゃあ、マニア君、これで行って来い」

 大先輩方、とは言っても半年ほど先に来ていた少年、お墨付きをもらって早速自転車に乗って窓ガラスへとやって来た次第。


 イタリアンスパゲティの大盛と引換えに、彼はいまだ青年の作成したメモを本田女史に手渡した。

「こんなので、どうでしょうか? これなら、今からでも間に合います。明日の朝7時には、東京駅のホームで内山大先生も国鉄のおじさんも、びっくり仰天と相成るンではないかと」

 いただきますの一言とともに勢いよくスパゲティを食べ始めた青年の横で、本田女史はメモを見て納得の顔。まだ18時前。最終の名古屋行のひかり号は20時9分発である。あと2時間以上ある。すでに出張のための準備はできており、この店から直接岡山駅に行くことも可能な態勢はできている。


「わかった。マニア君ありがとうね。それなら、これで行くわ。最悪名古屋で寝台に乗れるわけでしょ。上手くいけば、京都からで」

「はい。これならあのおじさんたちに追いつけます」

「それじゃあ、ミルクセーキを持って来とくから、ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」


 彼女はアルバイトの青年らと手伝ってくれている両親に後を頼み、荷物を持って岡山駅へと向かった。



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