第4話 魔王と勇者の神配信


 魔王の赤い魔剣と 勇者の白銀の聖剣が打ち合い、魔力の火花を散らす。

 舞のように美しい2人の戯れは、視る者すべてを魅了した。


「すごい! すごすぎるにゃー! この戦いは歴史に残る、さいこーの戦いにゃぁ! 感動にゃ! この戦いに立ち会えたことを、神に感謝にゃぁ!」


 舞踏会で踊るかのように2人は息をぴったりに斬り合い続ける。

 視聴者数もどんどんと増えていき7000万人を超えた。

 双方の表情には敵意はなく、この戦いというダンスを楽しんでいるかのようだった。


「ぐぅっ!」


 だが、劇場の幕は降り、終わりを迎える。

 勇者が膝をついたのだ。


「にゃにゃにゃぁ! 勇者がダウンしたにゃ! 数日間も、食料も水もない牢獄にいてよく頑張ったにゃ。でもこれでおしまいにゃ」


 はあはあはあはあはあ……。


 よろよろと立ち上がり、高らかに告げる。


「聞け、人々よ。わたしはここで死ぬ。だが、わたしの意志はおまえ達の中で生きている。へこたれるな。後ろを向くな。心に勇気と誇りを持って生きろ。わたしが望むは、皆のしあわせな笑顔だ。さらばっ」


 聖剣を首筋に当てた。


「勇者よ。もう一度チャンスをやろう」


 魔王の言葉にピタリと止まる。


「もう一度 我とゲームをしろ。このまま我が勝っても不完全燃焼だ。この様子では、人間どもすべてを絶望させることは できなかったようだしな」


「わたしの意志は伝えた。わたしの意志はいずれ おまえたち魔族を滅ぼすだろう」


 覇気を纏った瞳をたずさえ、聖剣の刃を――


「逃げる気か?」


「なんだと?」


「魔王の挑戦から、まさか逃げる気なのか、勇者よ?」


 あからさまな挑発と不遜な微笑みに、勇者は怒りに震え、喉元に当てていた聖剣を魔王に向けた。


「いいだろう! 次こそ必ずおまえの魅了に打ち勝ってみせる!」


「面白い。 魅了の魔眼デビルアイズ・チャームがまた使えるのは一ヶ月後。そのとき貴様を完全に魅了して、人々を虐殺して、虐殺されてもらう」


 魔王と勇者は見つめ合う。

 まるで愛し合う恋人のように熱く。


「た、大変なことになったにゃ。また、この伝説的な戦いが見れると思うと喜びの極みにゃ。必ず見るにゃ。死んでもねこにゃんは、この戦いの結末を見届けるにゃ。魔王さまが勝つに決まっているけど、勝負の行く末は神のみぞ知るにゃ」

 

 鎖に縛られた勇者が、サキュバス四天王によってコロシアムから連れ出された。

 1人残された魔王がコロシアムの中央でまぶたを閉じると、スクリーンで実況配信をしていたねこにゃんの隣に映った。


「あっ、魔王さまが来たにゃ。どうでした、魔王さま? 戦いの感想は?」


「予想以上に勇者の奴が抵抗したな。勝ちはしたが、目的が達成できず不満の残る戦いだった」


「不満? 歴史上初めて勇者に魅了をかけたのにかにゃ? 魔王さまは謙虚にゃ。いや、ある意味 強欲にゃ」


「魔族ども。至らぬ戦いを見せたな。次こそ必ず我の目的を達成してみせよう。刮目して見よ。そして人間ども。貴様らも勇者の次の戦いを見届けろ。貴様たちの英雄の最後を見届けるのは、貴様らの義務だ。勇者の勝利を祈れ。そして我がそれをへし折ってやろう。はっはっは!」

 

 スクリーン上の魔王を睨む数千万の人間たち。


「そして魔王さまから重大告知があるにゃ」


「次の戦いまで皆 暇だろう? それまで我が余興を用意してやろう。これが今週の配信スケジュールだ!」


 スクリーン上に映像が映し出された。


 1日目 クイーンサキュバスとサキュバス四天王による雑談


 2日目 サキュバス四天王VSクイーンサキュバスとの魅了ゲーム


 3日目 ねこにゃんと魔王VSサキュバス四天王の格闘ゲーム大会


 4日目 ねこにゃんと魔王の歌コラボ


 5日目 魔王のエログロお絵かき配信


 6日目 スライムプールで球技大会


 7日目 魔界統一腕相撲大会


「皆 楽しめ」


「では、魔王さま、いっしょに……」


「「 おつにゃ〜ん 」」


 全世界の魔法スクリーンが一斉にプツンと消えた。

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