第2話 vtuberねこにゃん

 

 ――地下から出て、魔王の間にある骨組みの椅子に座りこみ 大きく溜息をこぼす。


「どうすればいいの?」


 彼女はあたしが知っているメルルじゃない。

 ――偽物。

 本物に近いまがい物。

 でも、その高潔なあり方は、あたしの心を激しく揺さぶった。


「 死のう……」

 

 いいじゃないか。どうせ一度 死んだ命。彼女のために使っても。

 メルルを逃がし、魔王失格の烙印を押されて魔族たちに殺される。

 最低な人間である あたしにはふさわしい死に方だ。


 騙して貢がせて、それをあたりまえだと享受する 度し難い人間だった。

 生きてる価値なんてない。


 けど――


「ううぅっ」


 涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。


「 生きたい……。死にたくない……。あたしはしあわせになりたいよぉ……」


 純粋なあたしの気持ち。

 この気持ちだけは嘘じゃない。


 でもそのために誰かを犠牲になんてできない。

 彼女を殺した先に、あたしのしあわせは未来永劫おとずれないだろう。

 あたしは悪にはなれない。あたしがなれるのは、たったひとつ――


「 配信すればいいにゃ 」


「ねこにゃん?」


 いつのまにか ねこにゃんがあたしの前に立っていた。


「配信って、勇者虐殺配信?」

 

 猫耳娘はにっこりと笑い。


「vtuberねこにゃん。 それが魔王さまの本当の名前にゃ」


 いや、佐藤 真猫ですけど……まあいいか。


「なんでそれを?」


「ねこにゃんは、魔王さまの記憶を共有しているにゃ」


「じゃあ、初めからあたしが本物の魔王じゃないことも?」


「にゃ♪」


「偽物だとわかっているのになんで?」


「ねこにゃんは、前の魔王さまが嫌いにゃ。 疑い深く欲深く、いつも魔王を超えた存在になってやると息巻いていたにゃ。そしてねこにゃんを勝手に造って従わせて、魂の入れ物として、いつでもねこにゃんの自我を奪って 自分の物にできるようにしてるにゃ」


「とても、ひどい魔王だったんだね……」


 魔王を超えた存在……。女神が言っていたアレだろうか?

 記憶も共有させていたのは、自分に何かあった時のバックアップ。道具としてしか見ていない。


「じゃあ、配信っていうのは?」


「べつに魔王さまが虐殺する必要はないのにゃ。 vtuberねこにゃんの本領発揮にゃ♪ この体を、『佐藤 真猫』ちゃんに託すにゃ」

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