お金のためにvtuberやってたら殺されたので、転生して異世界でもやってみた
佐藤ゆう
第1話 勇者虐殺配信のおすすめ
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
なんであたしが、殺されなくちゃならない?
◆
――とある、超高級マンションの一室で――。
「 にゃー♪ ねこねこキッズのみんにゃぁ、おっはようにゃぁ。 ねこねこちょー可愛い、『ねこにゃん』の配信がはっじまるよぉ♪」
彼女の名は『佐藤 真猫 』
vtuber『ねこにゃん』の中の人である。
vtuberランキング6位。
スパチャランキング3位。
売ったグッズなどを含めれば、vtuberになって稼いだ額は、億を余裕で超える。
そんな彼女がぶすりと――
(え?)
お腹を刺された。
なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? 意味がわからない?
びっしょりと血塗られた床に呆然とした。
あたしは殺されるようなことをしたか?
恨まれるようなことをしたか?
いや、してない。
たしかにあたしはvtuberをやって、キャラつくって、こびてねだってだましてもってたくさんの人から―――
ああ、そうか。そうだよね。
殺されて当然――
んなわけあるかああああああ!
あたしは3年間休まず、毎日 配信してきた。
お金のためお金のためお金のためお金のため―――
ああ、だから殺されるのか?
あたしが悪いのか?
お金のためにvtuberやったことがそんなに悪い事なのか?
お金のためにリスナーを騙したことがそんなに悪い事なのか?
でも、あたしの嘘によって救われた人もいたはず。
元気をもらった人もいたはず。
毎日 嫌な朝を乗り越えて学校や仕事に行った人もいたはず。
それなのに理不尽に刺されて殺されるなんてあんまりだ。
貯金だって貯まって、もうすぐ夢だって叶うはずだったのに。
悔しい悔しい悔しい。死にたくない死にたくない死にたくない。あたしは生きたい。
意識がどんどんと薄れていく。
そんななかあたしが最後に思ったことは意外にも――
「ごめんね、みんな……」
配信に来てくれていた、顔もわからないリスナーへの心残りだった。
あとお金。あとロリ可愛い女の子のエロ画像。消して。
問1
生まれ変わったらまたvtuberをやりたいですか?
YES
問2
お金より大切なことはありますか?
YES
問3
それはなんですか?
………。
問4
あなたはお金のためにvtuberになったのですか?
YES
最後の質問です。
あなたはお金が貰えなくても、またvtuberをやりたいですか。
…………YES。いや、お金もほしい。
――――。
「魔王さま、魔王さま!」
…………ん?
んん〜〜〜?
ん!
「ねこにゃん……?」
まぶたを開けると目の前には、あたしのvtuberのガワである『ねこにゃんが』いた。
心配そうに、あたしを覗き込んでいた。
なに夢? たしかあたしは刺されて――
お腹を触ると傷はどこにもない――って
何? この超でかいおっぱい。
ぼいーんぼいーんじゃん。
あたしってこんな願望あったの?
夢にしては出来の悪い。
魔王になって、配下がガワのねこにゃんで、ぼいーんぼいーん。
早く起きろあたし。
異世界転生ものは好きだけど、自分の夢にしては恥ずかしすぎる。
クイーンサキュバスで魔王でエロ衣装でぼいーんぼいーん。おまけに配下はガワのねこにゃん。
痛たたたっ。
「オラっ、魔王さま!」
ぶべらっ。
ねこにゃんお得意の『ねこにゃんパンチ』。
痛い。めちゃ痛い。
リスナーのねこねこキッズによく、「ねこにゃんパンチを喰らわせちゃうぞ〜」とか言っていたけど こんなに痛いとは。
ごめんね みんな。
ねこにゃんビンタくらいにしておくよ。
え? 痛い?
「魔王さま、どうしたにゃ? ぼーっとして」
え? 痛い?
え? 痛い?
え? 痛い?
ということは―――
「 ねこにゃーん ビ ン タ! 」
ぎゃああああああ! パンチより痛いぃ! 肉球設定ないんだった。
「目が覚めたかにゃ、魔王さま?」
「うむ」
うむ じゃないよ。魔王の設定ムズいよぉ。
どうやらあたしは本当に殺されて、異世界に魔王として転生したようだ。
「それで、どうするか決めたのかにゃ。 このまえ捕まえた勇者の『虐殺配信』の内容は?」
「 勇者の虐殺配信? 」
聞いてみると、数日前 この魔王城に勇者が単独で乗り込んできて、激闘の末あたしはそれを撃退。
その勇者はいま城の地下に幽閉され、投影魔法を使い、世界中の空に、勇者の虐殺映像を流すことが決定しているらしい。
そのことで魔界中が今めちゃめちゃ盛り上がっているとのことだ。
虐殺映像の配信って、怖っ!
BANされちゃうじゃん。それにクイーンサキュバスなのに虐殺ってどうなの? えっちぃ配信しなよ。あっ、これもBANだ。
どうやらあたしの頭の中は、異世界でもvtuberのことでいっぱいのようだ。
そんなあたしのデジタル色の脳内に――
《大魔王への進化条件。配信で同接1億人以上》
女神っぽい声が流れた。
異世界転生ものでよくあるアレだ。天の声。
ってか、配信って。同接って。
空に映像を流して無理矢理 見せて1億人って。
勇者を凌辱して虐殺する配信なら可能かもしれない。エロとグロは人の本能を刺激する。けど 人を選ぶから難しい気がする。
大魔王にはあまり興味はないけど、vtuberとして同接1億人は魅力的だ。
けど人殺しなんてできない。BANされちゃう! ではなく、現代の日本人にそんなことできるはずがない。
「 虐殺やらなくていい? 」
ねこにゃんは首を振り、理由を教えてくれた。
あたしが、クイーンサキュバス『エルレイン』が魔王になったいきさつは下剋上。
魔王に取り入り寝首をかいて殺したのだ。
弱肉強食。魔界の絶対的ルール。
弱みを見せたらいけない。舐められたらいけない。魔王としての権威を損なってはいけない。勇者は虐殺しなくてはならない。
魔界の絶対的ルール。
破ればあたしに反旗をかかげる者たちが、魔王城に押し寄せてくるだろう。
だから『勇者虐殺配信』を止める事はできない。
この魔王城には、あたしとねこにゃんしかいない。
誰も信じていないから。同じように寝首をかかれないように。
じゃあ、ねこにゃんは?
ねこにゃんはあたしが造った使い魔らしい。
だから寝首をかかれる心配はない?
殴られた右頬と、ビンタされた左頬を撫でながら疑問に思う。
――――。
地下への螺旋階段を降りていく。
堅牢な牢獄の前で足を止めた。
「くっ。殺せ……。わたしを殺せェ…… 」
暗い牢獄の中からいきり声。
目をこらして囚われの勇者の姿を確認する。
「――っ! ……メルル……」
vtuberメルル。あたしの憧れがそこにいた。
――――。
「 みんなの笑顔はわたしが守る 」
姫騎士vtuberメルル。
あたしの憧れにして原点。
姫騎士ロールプレイで一気にトップvtuberになった。
小学生の時のあたしは夢中になって、メルルの配信を見ていた。
けど、彼女はあることから引退。
あたしはメルルのようなvtuberになると決めた。
「あなたが姫騎士メルルね。 人間国の姫にして、国民から勇者と呼ばれている」
勇者はギロリと鋭く睨んだ。
「魔王……。おまえを殺せなかったことは無念だ。 わたしをどうするつもりだ? 人質か? それとも処刑して見世物にでもするつもりか?」
「あなたの虐殺シーンを投影魔法で世界中に流して、あなたを英雄視する人間たちに絶望をあたえる……」
「そうか。 だが覚えておけ。 わたしの死は絶望ではない。 火種だ。おまえたちの非道な行いに人々は心を奮い立たせ、新たな勇者を生み出すだろう。 きっとその者が絶望した民衆に希望を与えてくれる。 そしていま以上のうねりになって おまえたち魔族を討ち滅ぼす!」
彼女の強い心に、気持ちが揺れ動かされる。
憧れの存在がいま、鎖で繋がれボロボロの身体であたしを憎み睨んでいる。
高潔な魂と誇りは、汚すことのできないダイヤモンドを彷彿とさせた。
そんな彼女をあたしは、身も心も魂も凌辱して殺さなければならない。そうしなければ あたし自身が滅ぼされてしまう。
あたしは魔王なのだ。
勇者を討ち滅ぼす存在。悪なのだ。
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