第6話『遭遇』

一瞬、何かの匂いがした。

何かの腐敗臭。

ほんの一瞬だったけど、気のせいかな?

何か寒気がした。

急に室温が低下したように感じた。

背後に人の気配がした。

ニコか。

ぼくを脅かそうとしてるな!

仕方無い、乗ってあげよう。

ぼくの首すじにニコの髪の毛が掛かる。くすぐったい。

息づかいを感じる。

「ニコ」

振り向いたら、誰もいなかった。

鏡に向き直す。

鏡の中に それは いた。

パサパサの長い髪の毛、その髪の分け目から見える目、ぼくの首すじに回された枯れ木のような細い象牙色の醜い腕。

その目は丸く見開かれていた。

血走った黄色い白目に、灰色の濁った黒目。

一目でわかった。

この世の者では無い。

「···木村 富夢

我々はこの時をずっと待ってた。

入れてくれ、その温かい肉の器に」

地獄の底から聞こえるようなひび割れた低い声。

か細いが、その声にははっきりとした意志があった。

生への執着。

ぼくはその姿、その声、その目に怯えた。震えることしかできない。体の自由が利かない。声が出ない。

何で、おばあちゃんがくれた魔除けの御守りを外してしまったんだ。

只々、後悔した。

「オン キリキリ···

オン、キリキリ···」

おばあちゃんの声が聞こえたような気がした。

そう思った瞬間、ぼくは意識を失った。

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