最終章 俺達は0.1の壁に向き合いたい

第10話 エクスポージャーな二人の行方 先触れ編【一部R-15】

 くちゃくちゃとした水音が、耳朶を打つ。

 舌に染み込む熱を、余すこと無く味わって。

 口内神経と味蕾みらいに、染み渡る甘みを愉しむ。

 もう、唾液でぐちゃぐちゃだーー


「ん・・ハルキくん、どうかな・・?」

「んく・・ぷはっ・・哀川さん、ほのかに甘い味だよ・・」

「良かった、おかわりあるからね。」

「もう、待てなかったなんて。哀川さんてば・・」


 【姫始め】・・・諸説あるが、その内のひとつーー


「でもさ。この炊き具合だったら、俺が教える事はもう無いでしょ?

 ここからお粥やかやく飯とか、応用は利くんだしさ。」


【柔らかく炊いた姫飯ひめめしを、初めて食べること】である。


「一安心だわ。『お米を洗剤で洗おうとした』頃から、ずいぶん遠くに来たものね。」

「いやあ、最初こそ酷かったけど、訓練すればするほど成果を出してくれるんだもの。そりゃ教え甲斐もあるよ。

 を持って、部屋に入ってきたときは、何事かと思ったけど。

 この米は、昼食の時に炊いていたんだね。」


「そうなのよ。あと、目を閉じさせちゃってごめんね。『あーん』って、意外と恥ずかしいんだもの・・」


 そういや、スキンシップは多めだったものの。

 あーんのような「恋人同士の初々しいこと」は、あまりしてなかったよな。

 正式な恋人ではまだないし・・改まってそうするのは、俺も照れがある。

 ハグもキスも、その場の勢い任せだったな〜と思い出す。


「【ひめはじめ】の語源は、色々と多いみたい。例えば・・

 姫糊始めなら、『最初に洗濯をする日』。

 飛馬始めは、『最初に乗馬をする日』ね。

 

 唯花さんの好きなアニメだと・・えーっと。

 『ハルキ、私に騎乗って!!』・・だっけ?」


 むぐっ!・・んごんご・・朝に続いて、吹き出しそうになったよ。

 401の人型艦船と契約して、【あられの艦隊】を倒すアニメだよな。

 哀川さんだと「あなたと超人合身したい」の台詞さえも、意味深に聞こえるんだよ!


 ・・・お茶を飲んで、一旦試食を区切るが。

 哀川さんは出ていかず、頬を染め潤んだ瞳で、俺を凝視している。

 時計秒針の音と、外の風鳴りだけが響く・・・

 そして、彼女から口を開く。


 「ねえ・・ハルキくん。

 今日はさ、色々あったでしょ。

 私達の決意を、神様に聞いてもらったり。

 ゆにちゃ・・小桜さんの事も。」


 だよな。

 北海道遠征では、ダメ親父と袂別して、美晴ちゃんに道を示したけど・・・まだ、乗り越えるべき問題は多い。

 そして、哀川さんは話を続ける。


 ー誓いを現実に反映させるための、行動が必要なこと。

 ー今後の道のりで、ゆにちゃんのような件が、多くなるかもしれない事。

 ーキミと一緒にいる今は幸せだけど、不安がまだまだ拭えない事。

 ー6月に出会ってから受けた「大恩」を返して、対等な関係になりたい事。


 「ハルキくんは、私のパパ代わりで、一番大切なひとだけど・・・

 アタシ、ハルキくんに返せていない事が多すぎるよ。

 まだ正式な恋人ではないけど・・それでも対等になれば、最後の壁も破れるかな?


 私にもさ、『キミは私のこと、好きになっちゃダメよ♪』の呪縛が・・まだ残っていて。

 あと0.1歩の壁を、とても大きく感じてるのよ・・・」


 そうなんだよな。ここまでの想いがあっても。

 「0.1歩」の壁を、お互いに抱えているから。

 フツー、学生同士の恋愛なら「チョット、お試しに付き合おう」「いいよー」で済む事も多いだろう。でも俺達はそうもいかない。


 お互いに、過去の傷創がある事まで踏まえても・・「0.1歩分の距離」が、今の俺達の「居心地よき最適解」なのだろう。「0距離になった時の変化」を、互いに恐れているーーひとえに、相手を大切に思うあまりに。

 ・・・俺は、そんな感じの話を返した。


「そうだよね。でもさ。0.1歩を『0.01歩の10回分』と考えて、0.01歩ずつ詰めることは出来るよね。エクスポージャー・プログラムっていうの?

 一緒に歩いていく中で、そうやって少しずつ変わっていくのって、どうかな?」


 「そっか・・うん、いい案だよな。」

 具体的にはどうするのか、少しでも決めておけたら・・・

 

「じゃあ早速。ハルキくん・・・私と姫初めして。

 ・・・叡智な意味で!!」


 ・・・おや? 0.01歩じゃなくて、『0.01ミリのゴム』の話ですかー。

 こーりゃ、一本取られたなー。HAHAHAHAHA・・・・


 「ーーって、流石に性急過ぎるって!!」


 この手の誘惑なら。

 からかい半分・冗談交じりのものから、際どいものまで何度も受けてきた。一緒に添い寝する機会も増えたが、一線も一戦も超えなかった。

 でも今の哀川さんは、とても茶化すような雰囲気を感じられず、真剣そのものだ。

 受けたほうがいいのかーーそんな考えが一瞬よぎる。


 「やっぱり、今はまだ無理かな。

 ・・・でもね。それは予想済みなの。

 予定通り、『実力行使』から始めようかな。」


 言うが早いか、哀川さんが勢い任せに、部屋着の上下を脱ぎ捨てる!

 止める?・・駄目だ。「見たい」「見ちゃいけない」が葛藤して、動けない。

 

 「ハルキくん、目を逸らさないで。ねえ、どう・・かな?」


 恥じらいと不安が入り混じったような、紅潮した顔。

 白く、健康的な艶のある肌・・もう、会ったばかりの日とは違う。

 鎖骨。手首や足首、腰の細さ。

 綺麗な形のへそ、お腹周りの肌も眩しい。

 俺を初めて惹きつけた美脚も、言うに及ばずだ。

 

 半球形の豊かな胸部は、レース付きの3分の4カップ、紫のロングブラに包まれている。

 横に流れる乳肉を、中央に集中させ、視覚効果を高める戦術!

 同じ色のスキャンティー(ローライズ)ショーツは穿き込み丈が短く、鼠径部のラインは外気にさらされている。


 ここまでの思考、僅か3秒くらいだ。理性さんが正月休みだと、これを止めるものなど

 ・・・って、うをっ!!

 

 ドサッ!!


 哀川さんが飛びついてきて、後ろ手に尻もちをつく。

 胸を押し付けるようにしなだれかかってきて、俺達の体温がリンクして。

 同時に、ハーブ系の香水と、彼女の体臭の混じった匂いが強くなる。

 まるで俺の耳に、甘噛みする寸前のように、唇を寄せて。


 「い、いきなりこんな事なんて・・・」

 「そのココロ、教えてあげる。じっくりと・・ね♪」

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