第6話 初詣に行くだけなのに、ドキドキが止まらないんだが。
「ハルキくんは、晴れ着が良かったかしら? でもね、レンタルだけで1万〜20万はするのよ・・学生にはキツイわよね・・・。
それに人混みなら、こっちの服がいいと思うし。」
この辺で最大の「
哀川さんはファッションに拘りが強いけど「動きやすさも大事」というタイプだよな。
ちなみに俺の服や髪型も、哀川さんにコーデ監修してもらったものだ。
これは彼女なりの「借りの返し方」の一つだろうな・・お互いの得意分野を、分かち合うという意味での。
まあ、陰キャモブな俺が彼女の隣を歩くには、外見も整えないといけないし、とても有り難い。
ーーー…★
「んうっ・・さ、流石にギュウギュウ詰めね。
私達『登校通勤ラッシュ』の経験は乏しいし・・ハルキくん、離しちゃ駄目よ。」
ガタンゴトン・・・・
電車内の客たちは、ビジネス風の格好から外出着まで。
晴れ着や袴も見受けられるのは、俺達と同じ目的地なのだろう。
元旦から、すし詰めに近い状態。俺達は吊り革にも掴まれず、壁際に追いやられている。
・・突然、ゴトン!と上下に揺れた。
壁に背をつけていた哀川さんが、慣性で俺の方に来るのを、胸と両手で受け止める。
「わぷっ! もう、髪が崩れちゃうなあ。やっぱりこの格好で良かったわ。
・・ありがとハルキくん、止めてくれて。
でもこの格好、人前でぎゅっとされてる感じで。
安心するけど・・ちょっと恥ずかしい、かも。」
「え、哀川さんにも、人並みの羞恥心があったなんて(ギュム!) 痛ッ!!」
「・・バカ。(ボソッ)ちょっと格好いいと思ったのに・・・」
茶化したら、足を踏まれてしまった。
でも、仕方ないだろう。
添い寝したり、肩を貸す(噛みつきという意味で)仲であっても・・こういう触れ合いって、まだドキッとしてしまう。
ー美少女の体臭が、いつもと違う香水と混じり合う匂い。
ー背は俺と同じくらいなのに、今でも慣れない体温や、細い手足、肩。
ー半球形の、推定Fはある胸部装甲!! コートの上からでも、抜群の存在感だ。
Fは、小玉メロン2個分の重量だそうで。
彼女が俺の肩付近に両手をつくと、メロンが俺の胸に押し付けられる状態。
哀川さんは、よく俺を誘惑してくるけど・・・生で見たのは、薄暗い中の一度だけだ。
あと、この生活をするようになって、彼女の下着を洗濯したこともある。
普段使いのコットン製の白いフルカップ&フルバックショーツ、スポブラ、紫のキャミソール、黒レースのシルク上下(2万円はするらしい。高ッ!)、紐っぽいソングショーツ(Tバック)・・・
『ちょっと、正しい洗濯の仕方をしてよ! 型崩れしちゃうわ!
こっちは手洗いで! あと干し方はこうで・・・っていうか、下着は自分で洗うから!!』とか怒られてしまって以来、分担制にしてはいるが。
(そりゃあ、あんな夢を見たあとだし、理性さんも正月休み中だし、しょうがないじゃん)・・・と、自分に言い訳して。
「チカンや万引きから、彼女を守ろう!」に意識を切り替え。
体温や吐息の触れ合う距離でガタゴト揺られながら、やがて降車駅に到着するーー。
☆哀川の内心☆
(ハルキくん・・線が細いけど、やっぱり男の人なのよね。
胸筋ガッチリだし、どさくさ紛れに触った背中は広いし。
ギュってしてる間、ずっとこのままがいいのに、って思っちゃった。
・・でも前は、簡単に戦闘態勢になったのに、今は平気っぽい。
『こんな誘惑一つ、理性で押し出してやる!』
僧正の名は、伊達じゃないのね。
そりゃ、外で大きくしたら変態だけど・・何でこれが通じないの。むー。)
ーーー…★
ローカル線に背を向け、俺らの町よりも、埃っぽい空気の中を歩く。
車の走行音が飛び交い、オフィス・商業ビルが並ぶ通りから、神域の鳥居へと。
同じ目的地に向かう・または帰りの人々が行き交い、肩がぶつかりそうになる事も。
「えいっ・・! こ、これは危ないからよ。他意は無いわ。
(ボソッ)その・・くっつきたいのはホントよ。」
あいかーさん(と、呼ぶに相応しい)が頬を染めて、ぷいっと目を逸らす。ツンしてるようで、デレが漏れてますが。
クールな平常運転の隙間に見ゆる、この可愛い生き物よ!
俺の腕を取って「きゅっ」と抱き寄せる姿勢で、歩みを進める。
俺が歩きやすいように加減してくれてるのか、お胸までは「ぎゅっ」としないが。
歩幅自体はあまり変わらないし、スポーツだって哀川さんの方が上だけど。
スキンシップが日常化した俺達が、こうして外で触れ合うのは(日常では)滅多にない。
「嬉しいけど・・学園生に見つかったらどうしようか?」
「そうね・・別に言ってもいいとは思うわ。
そうすれば、堂々とハルキくんにくっつけるし。
今のハルキくんなら『モブ陰キャが、美女といちゃつくな!』とほざく馬鹿も、黙らせられるでしょ。」
とはいえ、他人には何と言えばいいのか・・・
半同棲でスキンシップ過剰なのに『まだ、正式には付き合っていない』んだよな。
「「キミを絶対離さない、共に歩もう、いつか二人で『助かる』日まで。」」
「「私(俺)は、あなたがいないと生きていけない!」」
・・と、互いに確認しあったけど。
でも、たとえ最後まで体を繋げていようが(注:してません)、あと0.1歩。
決定的な言葉を告げあうには、まだ足りないものがあるんだ。
「〜〜♪」
でもこの温もりも、哀川さんの鼻歌交じりの微笑も、間違いなく本物だから。
その溝を、今年こそ埋める!
そのための壁にだって、答えを出して見せる!
その決意を神様の前で二人で示し、証神になってもらう!
ーーそれが、30分待ちの人混みまで、俺達がわざわざ訪れた理由なんだ。
鳥居を抜け、神門、灯籠、手水舎と進み、行列に並ぶ。
待ち時間中、共通の話題は少なく、俺達の会話は乏しい(共通の思い出話ならあるが、ここでするには小っ恥ずかしい)。
でも、その沈黙も苦痛ではなく、自然と受け入れられる。
緊張レベルの美人さんが隣りにいるのに、昔とは違い、安らぎさえ覚えている俺。
今年は、もっと変わらなきゃ。今抱えている問題、未来に待つ試練。
立ち止まってはいられないと念じつつ、行列は前へと進んでいくーー
ーーー…★
「あら、絵馬掛所の売り場に、変わったデザインの絵馬があるわね。」
若くて艶々な、黒髪の女神(ダルそうな目つき)が、ヘビ型の「着る毛布」を装備し、寝転んでPCゲームをしている、イラスト絵馬・・・ここは「アニメの聖地」でもないのに。
しかも、結構売れているようだ。
「ねえ、ご近所の唯花さんに、ちょっと似てない?」
「それ本人に聞いたら、笑われると思うぞ・・・」
他人のそら似だよな。ここは由緒正しい「
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