第2章 哀川さんは二人の正月を過ごしたい

第5話 二人で過ごす、穏やかな年明け・・のはずだけど。

 注:ここからは「原作のネタバレが強め」なので、未読の方はご注意下さい。

 また理性さんが正月休みのため、下トーク多めです。

 ーーー…★


「・・・・・ハッ!!!」


 大晦日の翌朝、唐突に目を覚ました俺は。

 覚醒後の感覚に、どこか既視感を覚える。

 カーテンで閉ざされてはいても、初日の出が射す部屋、ベッドの上。

 うん、縛られてもいないし、服はちゃんと着てるし、部屋の壁も無事だ・・・ただズボンには洪水事故のはあるけど。

 チクショウ、なんて不快な「スッキリ感」なんだ。


「うっ・・頭が。何だったんだあれは。あんなのが初夢だなんて、俺の縁起は一体どうなってるんだよ・・」


 「富士・鷹・茄子」など蚊帳の外。

 代わりに「料理勝負・重機・冒涜的恐怖」。

 はあ・・幸先が不安だよ。でも、最初の料理バトルだけは・・うぅ、鎮まれ相棒よ。

 日付は・・うん、確かに新年1月1日の早朝だ。


「ええと、昨日は1日中大掃除をして。入浴して、哀川さんを家に招いて。

 年越しそば食べて、0時に新年の挨拶をして。

 俺はこの部屋、哀川さんは客間で就寝。これで合ってるよな。」


 そして新年第一弾のミッションは!

 洪水に飲み込まれた、ズボンと下着を洗うことである。

 夢で行った料理バトルの残滓が、現実を侵食している・・いや、考えすぎだな。


『『ハルキくん(センパイ)、もっと激しく、鍋をかき混ぜて(下さい)!!

 私達を、あの地に・・・Z町に連れてってえぇ!!』』


 あの戦場の哀川さんとゆにちゃんの記憶、鮮明すぎて怖いんだが。

「二人ともスマン」と内心で合掌しながら、のそのそと這い出し、洗濯に向かう。

 うわ、ガビガビで凹むわこれは・・・。

 ーーー…★


 洗濯、簡易シャワー、洗顔を速攻で終わらせた俺。

 客間を見た感じ、哀川さんはまだ夢の中だったけど・・・

 ええい、あんな生々しいバトルの夢、思い出すもんじゃないだろ(後半はホラーすぎて、あまり覚えていないけど)!


「はあ・・今日は一緒のベッドじゃ無くて良かった。でなけりゃ絶対にバレ・・」

「私は、一緒でも良かったけどなー。・・・・で、何がバレるのかしら?」


「うっひゃあおぉっ!!?」

「ちょ、どうしたのハルキくん。元旦から奇声を上げたらだめよ。」


 気配もなく現れた、ゆったり部屋着の哀川さん(冬なので生足はお預け。しょぼん)。

『『新年明けましておめでとう、今年もよろしく』』は、寝る前に言い合ったけど。

 朝、いきなり出てくるのは心臓に悪い。

 美人は3日で飽きる? でも哀川さんは、部屋着スッピンでも綺麗だ。

 

 それにしても。夢の影響で注意散漫になってたし、醜態の上塗りをしてしまったぁ・・

 とりあえず、お互いに朝の「おはよう」を交わす。


「で、朝からシャワーしてたの? 珍しいわね。

 洗面所を使いたかったのだけど・・使用中だったから。

 その間、朝食の下ごしらえを済ませたわ。」

「あ、ありがとう。いやあ、ちょっと寝汗をかいちゃってね。

 新年一日目だし、初詣前に綺麗にしたいなーって・・はは・・」


「・・ふーん。まあ、男の子にも色々あるもんねー。

 じゃあ、朝食の仕上げをお願いね。昼がヘビーだから、朝は軽めにしたから。」


 そう言って、彼女は洗面台、俺は台所へ。

 ーーむ。プラントベースっぽい、低糖質サラダチキン緑サラダ。

 海藻とネギの和え物、豆乳ホットカフェラテ・・かな。

 昼はガッツリ予定だし、朝はこんな感じでいいか。

 プラントベース、マクロビオティック、ヴィーガン、ベガン、糖質制限食・・・分類が多すぎて分からないけど、まあ軽ければヨシ!


「哀川さん、下ごしらえが上手くなったなあ。そのうち『家事分担』も出来そうだ。

 さて、次の作業は・・・っと。」


 手を動かしながら考える。6月に彼女を公園で拾ってから、もう半年か。

 最初は俺も、美女を前に緊張していて、彼女を直視できなかった。

 哀川さんも哀川さんで「同情するなら処女を貰え!」と迫ってくるし。


 そんな中、お互いや周りの人から、多くのものを学んで。

 哀川さんとのギリギリな掛け合いに、いつしか安心感を覚えるようになって。

 お互いに「キミの、かけがえのない存在になりたい!」と願い、今の半同棲に至っている。

 

 明確に「好き」「恋人同士で付き合おう」とは言ってないが。

 傷の舐めあい(噛みあい含む)から互いの心を繋げ、通じ合わせる関係へと。

 この厚意も好意も。一方的なものじゃあ、決して無いんだ。

 

 ふう、料理完成。洗面所から戻ってきた哀川さんと、食卓を囲む。


 「「いただきます」」

「ふふっ、共同作業の朝食にも、慣れてきたかしら。まだハルキくんには敵わないけど・・むー。」

「とはいえ料理以外の家事能力は、お互いに差も無いし。このペースなら、俺を抜かせる日も、遠くないと思うよ。」

 「でも私はハルキくんと、一緒の道を歩いていきたいのよね。

 なるべく重い女にはならないし、家庭の重荷にもなりたくない。

 家事でも勉強でも、よ、夜の営みでも・・分担できるくらいに、腕をつけたいから。」

 「んぐっ!! んーーっ!」


 いや、もじもじしながらイキナリ何をッ!?

 カフェラテで流し込んで・・・ぶふぅ、熱ッ! オレンジジュースにしよう・・ごくごく・・ふう。

 前までの哀川さんって「からかい」の面が強かったから、不意打ちにもまだ対処できたけど(作者注:できてません)。

 今の哀川さんとはキモチも通じているし、裏表なしの素で「ねえ・・シてもいいよ。」みたいに言ってくるから、余計にドギマギするんだ。

 その線を超えられないのは、ひとえに俺の背負う、複雑な事情・・・


 ーーそうしていつも通りの(?)朝食を終え、初詣の支度をする。

 帰りにおせち箱の引取もあるし、動きやすい格好にしようかな。


「さ、ハルキくん、行きましょ!」


 ラウンドワムに行くような、白黒ベースのスポーティなコーデ。

 帽子&パンツルックで、身体のラインはくっきりと・・特に脚部。

 メイクはナチュラル寄りで、ピアスとカフスは抑えめ。

 そんな哀川さんと共に、ドアを開ける。

 元日のどこか澄んだ空気に包まれ、晴れた空の下で歩き出すーー

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