第3話 私達の鍋・・放置せずにかき混ぜなきゃ、駄目なんだからね♪
【注意】料理バトル決着です。文字数が多いため、汁跳ねに注意して、ご試食ください。
ーーー…★
「ねえ、ハルキ君知ってる? ご祝儀袋についている紐は、アワビの貝紐なんだって。
ほら、縁起物から出汁を取ると、おせちらしくなるかなって♡
・・うん、まずは調味オイル、つくろ?
ちゅ・・れろ・・じゅる・・ぷはっ。
いいよ・・貝の出汁・・鍋底の食材まで、しっかり浸透させて・・んうっ!・・」
特注の調理用具ーー菜箸もお玉も兼任する、特殊なロッドーーで、熱くなった鍋を混ぜていこう。
うむ、流石は高級食材だな。極上出汁を他の食材にキッチリ浸し、馴染ませるっ!
「あ・・そこ、紅カマボコだけど・・ふふっ♡ 気づいてるでしょ?
味が染み込みやすいように、無数の切れ込みが入ってる・・ト・コ♪
調理ロッドで、切れ込みを上手く散らして・・そう、ポイントを突いてるわ!
ハルキくんの自前の出汁と混ぜて、合わせ出汁を作ってぇ・・」
くっ・・圧力鍋が自動で動いて、食材に味が染みていくぜぇ・・
丁寧に、でも焦げ付かないように、激しく混ぜなくちゃな!
そろそろ、鍋底までしっかりと・・・コツン!
「くうっ・・鍋底の里芋、しっかり混ぜて欲しいわ♡
里芋は、豊穣&子宝の縁起物だし、味も染みやすいから・・ね♪
ーー!!・・そう、ハルキ君は一流の料理人よぉ・・このしゅごい技術、誰にも渡せないんだからぁ・・・♡」
里芋を混ぜる度に、鍋が振動して・・俺の調理テンションに直結するっ!!
カマボコ、出汁取りの貝・・マルチタスクしつつも、鍋底への吶喊あるのみだ!
いい・・これは最高の一品・・よし、そろそろ・・
ーードカッ!!
「ひゃんっ!! あ、相変わらず暴走犬なんだから。
仕方ないわ。でも早く、こっちの鍋に戻ってきなさいよね・・ちゅ♡」
「む、むみゅうぅ〜。 また、ゆにの鍋は無視ですかぁ?
こっちの料理だって負けてませんから・・・まずは、これをご賞味下さいっ!」
ぐううっ! こ、このぎゅうぎゅうに詰まった感じはぁ!
そうか、油揚げの巾着煮か!
刻んだ貝、餅を油揚げに入れて、めんつゆで煮込んで作るやつ。
くう、中の具材のみっちり食感・・癖になるぞこれは!
「ふふ、巾着煮は余った食材で作れます・・えすでーじーずって奴です・・ん♡
次は・・松前漬けの前哨、ニシンの卵ですっ♪
センパイ、このまま塩抜きしていいですからね・・・あうぅっ・・!」
おお・・数の子は言わずと知れた、高級縁起物だ。
黄金と子孫繁栄・・ぷちぷち食感もたまらない・・ん? 違和感が。
そうか、数の子には、白っぽい薄膜がついているから。
優しく擦るようにして、引っ張って取り除かないとイケナイんだよな。
「あ・・そこです。くし目は、等間隔に入った割れ目なので、崩したら駄目ですよ。
食材、新鮮なうちに・・お願いします。センパイにしか、下ごしらえは頼めないんですぅ・・・!!」
涙の懇願。ここはゆにちゃんに応えて、調理完成まで持っていこう。
薄皮は、生半可なパワーじゃ、変なふうに裂けてしまうから・・・
力を込めて、ロッドで一気に除去だあぁっ!!
ぶちぶちっ、みちっ!
「ひぐっ! 痛ぅう・・えへへ♡ 流石です春木センパイ。
ここまで調理してくれるなんて、ゆにはとってもシアワセなのです・・・
きゅう〜ん♡ ちゅ、ちゅ・・・ふふっ♪
でも、まだまだこれからですよ・・さあ、遠慮せずに混ぜて下さいっ・・」
天井知らずのボルテージを力に変え、鍋を掘削するように、ゆっくりと混ぜていく。
うおっ、哀川さんの鍋より、ハードな圧力性能だこれは!
数の子は、みりん&だし醤油に漬け込むがセオリー。
均等になるように気をつけて・・・やがてちょっとずつ、味も馴染んでいく。
「・・んあっ! 鍋底が、ゆにの隠し砦なのですよ・・♡
そのコリコリは、サーモンキャビアの蓄積エリアですから・・ロッドで引き出して欲しい・・ですっ♪」
ニシンに続いて、シャケの卵・・・いくらも高級だよな。
テーマ性のある食材の組み合わせ、戦略のゆにの本領だ。
俺も、負けずに混ぜるんだっ・・・ふんふんふんっ!!
体重かけて潰して。飛散した出汁で、床が汚れても・・前進&後退あるのみ!
「負けないんだから・・ハルキくん、こっちの鍋が焦げちゃうわ!
放置しちゃ駄目よお・・♡ 混ぜ混ぜして欲しいんだか・・らあッ?!」
哀川さんの鍋に移り、調理を継続する。
任せろ。2つの鍋を混ぜて、一気に完成させる・・ラストスパートだ!!
「春木センパイ、2つの鍋を両方マルチタスクするなんて・・神ですうっ!
やだ、センパイの事、渡したくない、諦めたくないよぉ・・・♡」
「でも、勝者は一人よ! さあ、料理人の集う地へ・・
Z町に行ってきなさい・・・そして私もおおお゛お゛お゛おぉっ!!?」
調理終了を告げる、二つの大音量を聞きながら。
俺は、熟成させた白い醤・・・
ぐうっ・・すごい量を作ったもんだな。二つの鍋に交互に入れても、まだ溢れてしまうぅ・・
ゆにちゃんの紅白ソースによる仕上げは、特に目を引き付けるよ・・・
「ふぅ・・ふぅ・・あう、美味の奔流で満たされてぇ、頭もお腹も、ポカポカですよぉ・・♡」
「はぁ・・はぁ・・ハルキくんの料理、最高だったわ♡ アタシもゆにちゃんも、タップリ満腹にしちゃうなんて・・でもね・・」
「「アタシ(私)達二人は、まだ決着してない(ですから)!!」」
「よって延長線で」
「勝負をつけるので」
「「付き合って(下さい)ね、ハルキくん(センパイ)♪ そーーっれっ(ドシン)!!」」
ぐあっ! これじゃ身動き取れない。
・・・う、嘘だろ。地獄の料理修行じゃあるまいし。
俺、生きて帰れる気がしない・・・
あ、やめろ、甘酒の在庫はもう無・・ら、らめええええっ!!?
ーーー…★
「んく・・んく・・ちゅぽんっ。にへへー。ホワイトサワー、ごちなのですっ♪」
「ごっくん・・沢山調理を重ねていたら、すっかり薄くなっちゃったわね。
でもスッキリ喉越しも、悪くないかも♪」
二人は、自分のお腹を撫で擦っている。一目見ただけで「満腹」と分かるビジュアルだ。
部屋のあちこちに、氾濫したスープの残滓が染み付いており、気化して靄を作っている。
「あ、干し柿が二つもできてますよ。えへへ、これはこれで触感よきですねぇ・・ころんころん。えへへ・・ゆにの小さな手でも、握りつぶせちゃうくらいの大きさです・・ぎゅむーっ♪」
「ハルキくんのXE醤、使い勝手が良すぎて空っぽだわ。
つんつん・・縮んじゃって可愛いなあ。ふにふに食感が良いわ・・これ、切り取って保存できないかな?」
「春木センパイ、激戦で汗だくですね・・ぬるま湯を絞ったタオルで・・ゴシゴシゴシっ!」
「ゆにちゃん、もっと丁寧にしなきゃ。巨大な干し肉でもあるんだし。
食材は大事に、だよ。」
二人がかりで、「御霊前」と書かれたタオルで、
・・・でも、運命はいつだって唐突で。
聞こえるだろう・・遥かから「運命の車輪」の、唸る轟音が・・・
ゴオオオオオン・・・ドゴッ!!
バリバリ・・ミリッ・・バキャアアアアン!!
唐突に、その壁は破られた・・・物理的な意味で。
「あはははっ!! また、つまらぬ壁を破ってしまったわ!
さあ、起きなさい音也ッ!!!」
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