第1話 これは料理バトルよ。後ろめたい事は無いんだから・・・♡

【注意】これは料理バトルです。不適切な描写はありませんので、安心して御覧ください。

 ーーー…★


「皮むきはこんな所かしら。これで全部よね?」

「ええと・・床に散らばっている皮を、全部拾うとっ・・おーるぐりーんですっ♪」


 俺は唐突に強度を増した、早朝の寒気に震えている。

 暖房のスイッチは今入れたばかりで、まだ時間がかかりそうだ。

 すると哀川さんが、俺の耳元に歩み寄り、囁く。


「怖いの? でもね、これは重要な料理バトルだから。

 後ろめたい事も、不適切な事も、なーんにもないの・・・♡ ふふっ♪」

「健全なルールで、いざ尋常に勝負なのですっ!

 まずは、ゴボウの下ごしらえをしますね・・くんくん・・これは良いゴボウですぅ♡」


「あたしは、鍋に油を曳いて、熱する所からかな。

 ハルキくん、鍋を出して。じゃあ、油を垂らすわね。

 あーん。れろ。ちゅ♪・・・ぴちゃぴちゃ・・・や、油が溢れるわ。

 ハルキくんの油とアタシの油を合わせたら、予想以上の量ね。

 気をつけて続けましょう。ちゅ・・ちゅるる・・」


「まずは、包丁でゴボウの繊維を崩して、味を染み込みやすくしますね♡

 私のエナメル質&象牙質で出来た、包丁で叩きます♪

 あーん・・かぷ。かみかみ・・・・

 次は、調味液をじっくり染み込ませます。

 ちゅぷ・・くぽくぽ・・れるれる・・・」


「むう。ゴボウの下ごしらえが上手いじゃない。

 しかもこのゴボウ、酒樽みたいに膨張してるわ。」


「ちゅぽん。調味液が浸透する過程で、ぷっくりしましたねー。つんつんっ。

 きゃんっ、元気で新鮮な食材さん、スッゴク調理し甲斐があります♡

 いい出汁も採れそうですし。引き続き、下味をつけますよー。」


「ズルいんだから。エナメル質の包丁なら、アタシだって負けてないんだからね!

 あーん。ガブッ! がじがじ・・・ちゅぞおぉお・・・ゴボウ出汁の量、増えてきたぁ・・」


「ズルいのはどっちですか、いきなり横取りなんてぇ。

 じゃあ私は、甘酒の調理に入りますっ!


 この栗きんとんみたいな酒樽、2つを醸成しちゃいますから・・・

 まず麹を加える前に、こねながら熱しますね。ころころ・・もみゅもみゅっと。

 あ、熱いですう。ここ、他の部位よりも1℃高いんですよね・・・」


「ゆにちゃん、麹菌は60℃で死滅しちゃうから、温度管理に気をつけて。

 あたしは・・熱すぎず冷たすぎず。緩急をつけて茹であげるわ。

 ちゅぷっ・・えるえる・・・ぽんっ! ふふ、ゴボウの叩きはほぼ完成形ね♪

 ほら、スッゴク調理熱を持ってる。ホント、味のある食材ね・・ぎゅーっ♡」


「あ・・全体的にずっしりして、とろみがついて来ましたっ。

 米麹を加えますっ・・かぷっ。ちゅうーーっ!

 えへへ、発酵が進んで・・完成は時間の問題です・・くんくん♡」


 そういえば二人とも、爽やかで刺激的な香りが。これは一体・・?


「気付いた? 香り付けを意識して、私はミント系、ゆにちゃんは柑橘系の香料を使ってるの。」

「ローズオットーやイランイランも隠し味ですから、深みが出るんですよ♪

 とと、そろそろですね。さあ、一緒にペーストを回収しましょう♡

 あーん・・ぱくっ。ちゅるっ・・」


「呉越同舟? 趣味じゃないわね・・でも、初戦で決着は難しそうだし、それでもいいかな。ぺろ・・じゅぷっ・・えれえれ・・・ころころ、ふにふに。

 熟成が進んで、収穫量も増えそうね・・えいっ!!」


 ちょ、ここで協力プレイとは卑怯な!

 俺に勝たせないための策略かよっ!

 ああ・・もう・・負けるっ・・ぐああああっ!!


「あはっ、甘酒が完成しちゃいましたっ♪

 ミキサーにかけて・・ほらほら、もっとなめらかにして下さいっ!!」

「ちょっとお、そんなに揺らされたら、試食ができないじゃない・・

 握って固定してっ・・ぱくっ・・ごくごく・・・」


「容器から、直接試食なんて・・お行儀が悪いです。

 鍋に入らなかった分を、回収して飲みますね♡・・れる・・じゅる・・苦ぁ・・」

「ぷはーっ。苦い甘酒なんて、とてもレアなものが出来たわね♡

 でもこぼれて失った分もあるし、普通に作り直しかなぁ・・?」


 くう・・敗北感に打ちひしがれ、脱力してしまう。

 この二人には勝てない・・無駄な抵抗は止めて、俺も勝負に向き合わなくちゃな。

 俺だって、ずっと哀川さんのお腹を(料理で)ぽっこりさせてきたんだ。

 せめて、一矢報いさせてもらう!


「(カチャカチャ・・)拘束を解いたわ。ゴメンナサイね・・こうでもしないと、ハルキくんにバトルを受けてもらえないから・・」

「私も、その欲求を抑えられなくて・・すみませんでした。

 次は、春木センパイの好きなメニューを作って下さい・・・♡」

「ハルキくんのターンよ。アタシ達の用意した、食材も調理器具も。

 自由に使って、完成させていいからね・・♪」


 二人は背を向け、壁に手をついて「一時休戦」の姿勢へと。

 大きな2枚の「ご祝儀袋」は、すでに床に落ちていた。

 もう、遮る壁も布もありはしない。


「二人とも・・覚悟しろよ。

 まずは、俺の方でも調理準備させてもらう!」


 そうだな・・まずは雑煮に入れるための、餅をこねるとしようか!

 俺は、哀川さんが用意してくれた2つの餅に、躊躇いなく調理を仕掛けるーーー

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