24話:襲撃、仮面淑女軍団!そして恐怖が現れた
私は自分の不用心さを後悔した。
街中に遊びに出た私とユニエを、貴族らしき女の人が呼んだ。
顔はフードで見えなかったけど、私はそれを
人の少ない通りへと誘い込まれて、フードの中の顔が見えた時、やっと異常さに気がついた。
仮面を被っていたんだ。
舞踏会で使う、目の周りだけ隠す仮面じゃない。
ホラー映画で使われそうな、顔前面をすっぽり隠す仮面。
令嬢みたいな格好をした、仮面フードの女。
気味が悪くなって離れようとしたら、周囲にも同じ仮面を被った女性がいた。
囲まれている!
全員、服からして貴族っぽいが、私はもちろんユニエもその正体まではわからない。
仮面の淑女軍団。
彼女たちは背中から
対話をする気もなく暴力を振るおうとしてる所からして、強盗ではない。
おそらく私への攻撃が目的。
刃物を持っていない事から、殺傷まではする気が無さそうだ。
私を大怪我させるだけで得する貴族。
つまり。
「やはり……アレグリッター家の手の者、でしょうか」
ユニエが、私のセリフを盗ったようにつぶやく。
そう思って見渡すと、仮面を被った人の中に、ひときわ体格の良い奴と、それに寄り添うような奴が少し遠巻きに立っている。
どう考えてもレイデとララフェイドだ。
……あいつら、とうとう手段を選ばなくなってきたのか。
暴虐な奴らだとは思っていたけど、ここまで腐っていたとは思わなかった!
その女二人が「やれ」とだけ言うと、私達に1番近い仮面淑女が鈍器を構えて近づく。
逃げ場らしい逃げ場はない。
「マト様、いざとなったら貴女だけでも逃げてください」
「ユニエ、そんな……!」
「貴女にはわたくしの願いを託しているのです。こんな形で潰させるわけにはいきません」
ぐ……!
解決法を見いだせないまま、仮面淑女が鈍器を振りかぶる!
ゴッ!
という音がして──
仮面淑女の1人が、別の仮面淑女の脚を思い切り叩いた。
……なんで?
ララフェイドが叫ぶ。
「なにやってんだぁーッ!?アーシッッッ!!!」
アーシ!?
アーシと呼ばれた仮面淑女は、ララフェイドの方を向く。
「もう……もう姉様たちには、従いま、従わない、し!!」
そう叫んで、他の仮面淑女の腹を叩き、動きを止める。
そして、仮面を脱いだ。
私のいる位置からはチラリとしか見えなかったが、間違いなくアレグリッター姉妹の末娘、アーシだ。
「ビクビクしてばかりだった
ゆっくり、しかし怒りのこもった声でレイデがアーシに問い掛ける。
「アーシは……アーシは、最初から、逃げてなんかない……!闘う相手を、変えただけだし……!!」
「……勝てると思っているの?ああたが?」
アーシの腕と肩がこわばり、頭が下を向く。
が、すぐに首を横に振って前を向いた。
「勝てるとか、勝てないとかじゃねーし!姉様たちなんて怖くないぞって、伝えなきゃならねーんだし!」
アーシがもう一度、鈍器を強く握り、レイデとララフェイドを
私もユニエも、それに
ララフェイドは軽くのけぞりながら、大きく息を吸う。
「馬ッッッ鹿がよぉ~~~……そんなに死にてえなら死なせてやるよぉ!!」
ん?
「やっちま……!」
唐突に、ララフェイドの頭を背後から掴む影が現れた。
「でっ!いでででで!!なんっ……誰だァ!!」
ララフェイドは頭を固定されているため、影の正体が見えない。
その隣にいたレイデは、目を開き歯が震えだした。
「!?……お姉、様……!!??」
ララフェイドを掴む影は、アレグリッター家の長女、ソヴェラだった。
レイデの驚く声を聞いて、ララフェイドはピタリともがくのを止めた。
「ソ、ソヴェラ姉様!?なぜ──」
言い切るより先に、ララフェイドの頭が石造りの道路に叩きつけられる。
そしてそのままソヴェラはララフェイドの頭の上に足を置き、レイデの方を向く。
「レイデ、退(の)け」
混乱してきた。
なぜアーシが私達の味方になったのかはまだ理解できたけど、今度ばかりは全くわからない。
なんで、ソヴェラが私達を助けるようなことを……!?
アーシの様子を見ると、彼女にとっても予想外だったのか、ポカンとした顔をしていた。
レイデが早口で喋り始める。
「な、なぜ邪魔をするのですか!お姉様!これはひとえにお姉様の為を思って行っていることでございます!」
ソヴェラは何も言わない。
「そ、それに!あの時言ってくれたではありませんか!『妹たちのやる事に口を出さないし、手も出さない。好きにするといい』と!」
張りつめた空気のまま、すこしの間が空いて、ソヴェラが答える。
「負け犬との口約束を守り続けるほど、愚かではない」
「なっ……ぐっ……!」
あまりに理不尽な回答に、レイデが怒りの表情を見せる。
すると、ソヴェラはララフェイドを踏んでいた足を上げて
もう一度、ララフェイドの頭を踏み直す!
もう一度。
さらにもう一度。
ララフェイドの頭から、赤黒い汁が微量に漏れだした。
「レイデ」
ソヴェラの声に、レイデは返事もできず固まっている。
「今、
レイデは何も応えない。
「撤退させろ。返事は?」
ソヴェラがぴたぴたと、レイデの目の回りを叩く。
レイデの表情がゆっくりとまた、怒りに変わっている。
気が触れたのかと思うほどの形相へと変わっている。
そして、レイデは━━
表情を崩さずに、ゆっくりと片膝を地面につけ、ソヴェラに頭を下げる。
「もうしわけありませんでした。いますぐてったいいたします」
丁寧な口調ながらも、怒りに染まった声で返事をしている。
ソヴェラはそれを聞いてレイデにゆっくりと近づく。
そしてレイデの髪を掴んで、その鼻に膝蹴りをあびせた!
……瞬(はや)い!
ププッ、と音がしそうなほど勢いよく、レイデの鼻血が吹き出す。
「今はこれで許す。余計な手間をかけさせるな」
「ありがとうございます」
理不尽、あまりに理不尽な会話。
始終を呆然と眺めていた私達に、ソヴェラが近づいてきた。
私はなんとか気を張って構えるが、ユニエもアーシも震えている。
「アーシよ」
アーシもソヴェラに応えようとしない。
「
アーシは黙ったまま首を小さくタテに振る。
すると、ソヴェラはニイと笑って
「よくやった」
と褒めた。
「……結果として、ソヴェラ姉様の望んだ通りになったかもしれない。けど、アーシは、アーシは……!」
震える声で、アーシはまた反抗の意思を示す。
それをソヴェラは鼻で笑う。
「好きにするといい。中山田マトを
!?
と、次にソヴェラは私を見て一言告げた。
「決戦の日まで、余計な傷を負うことのないように、厭(いと)えよ」
そして、ソヴェラは去っていった。
気がつくと、仮面淑女軍団も去っている。
よろよろと立ち上がるララフェイドと、殺意に満ちた形相でこちらを睨んだレイデも、ゆっくりと逃げていった。
暴力の嵐が吹いて、私達を置いて勝手に消えていった。
なん、なんだ。
肩の力が抜け、改めて呆(ほう)けた私とユニエ。
アーシが、急に淡々と語り始めた。
「ソヴェラ姉様、少し前まではあんな人じゃなかった」
「……わたくしも、彼女の人となりは聞いたことがあります。厳しい方ですが、
ユニエの言葉にアーシは黙ってうなづく。
「人に暴力を振るうことを許す人じゃなかった。……1年半くらい前までは」
「ちょうど、アレグリッター家の悪評が広がりだした時期ですね。レイデ様が言ってた『あの時』というのは……」
「……あまりにも唐突だった、ソヴェラ姉様が変わったのは。あの時から、ソヴェラ姉様が何を考えているのか、まったく分からない、ずっと」
「……あーしはマトに負けた後、ソヴェラ姉様の命令でお前らを監視していた」
「以前そう言ってたね」
「……『偵察』じゃなかった」
「え?」
「ソヴェラ姉様がアーシに言ったのは『ナカヤマダ・マトが余計な大怪我を負うことのないように保護しろ』だった」
「ええ???」
「それはそれとして、レイデ姉様から偵察を命令されてはいたけど」
「ソヴェラ様は、ずっとマト様の心配をなされていたと?」
「心配……そんな顔には見えなかった。まるで、マトとアーシらが決闘をして、ここまで勝ち上がってくることまで含めて、何かの計画の内のような……」
そんなバカな。
私は、私がこの世界に来たのは、偶然……
いや、本当に偶然なのか?
異世界から人が来ることは、この世界の人にとっても異常な事態だと、以前ユニエは言っていた。
であればきっと、私が来たことにはなんらかの意図があってもおかしくない。
誰の意図?ソヴェラの?
でも、ソヴェラが豹変したのは私が来るよりずっと前の事だって言ってる。
いやしかし、あの様子は……。
「なあ、お前は何も知らないのか?ソヴェラ姉様がおかしくなった原因も、アーシに保護を命令した理由も」
「……ごめん、わからない」
アーシは
「ソヴェラ様との闘いが終われば、全てが明かされるのでしょうか」
やっぱり分からない、何も。
……でも、少なくとも、ソヴェラとの闘いを逃げる訳にはいかない理由が、また1つできた。
闘おう。
強くなるために。
真実を知るために。
暴虐を止めるために。
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