24話:ある晴れた日の朝

 鳥のさえずる声が聞こえる。

 変わらない、フォスタ邸で迎える朝。

 元気よくドアの開く音が聞こえる。


「おはようございます!マト様!」


「ん……んん……ーテン……」


「カーテンですね!今開けます!」


「…ず……」


「水ですね!どうぞ!」


「んぐ…んはあ…あーやっと目がちょっと覚めた…」


「おはようございます!!!」


「朝から元気だよねユニエ……すごいわ」


「お陰様で不安を越えられましたから!」


「っていうかやらせておいてなんだけど、カーテンとか水とか、お嬢様が人にやらせるような雑用頼んでごめんね……」


「いいえ!私がやりたいからやってるんです!ネネネさんだって屋敷の事がありますから、マト様につきっきりというわけにもいきませんしね!」


「真面目でたくましいねえユニエは」


「ありがとうございます!ですが、マト様には私以上に逞しくなってもらわなくては!」


「お、おおう……それなんだけどさ、今日はトレーニング軽めにして、あと休みって事にしない?」


 ユニエがちょっと目を見開いた。


「いや、その、頑張るつもりだよ!?決して情熱が無くなったとか気が変わったとかそういうのじゃなくてさ、心の休憩も合間合間に挟まないと息苦しくなっちゃうっていうか、その………」


「……」


「あの……」


 ユニエは黙って私のベッドにドスンと座った。

 そして、ふっと柔らかな笑顔を見せる。


「……今思うと、いままでの私は、マト様に『頼る』のではなく、『自分を押し付けて』いたんだと思います」


「ユニエ……」


 ユニエが枕を抱いた。


「私も、一緒に休んでいいですか?」


「も、もちろん!この街の事、独りじゃ全然わからないから、一緒に遊びに行こうよ!」


「ええ。でも!きちんと休んだら、きちんとトレーニング、頑張ってくださいね!?」


「わかってるよぉ~、ユニエこそ、休みなく頑張り過ぎないでよ?『曲がれども、折れず。揺るぐとも、抜けず。固くとも、割れず。しなやかにあるべし』ってね」


「素敵なお言葉……」


「へへ、家族からの受けうり」


「ふふふ……」


 と、開きっぱなしだったドアからフォスタ夫人が顔を覗かせた。


「おはようございます。マトさん、ユニエ」


「お母様、おはようございます」


「ユニエの笑い声が聞こえてつい覗いてしまいました」


「おはようございます夫人、今日は私、休暇を取らせていただきます。ユニエと一緒に」


 フォスタ夫人はユニエと同じように少し驚いた顔をしたあと、ユニエと同じように柔らかな笑顔を見せた。

 その表情だけで、ユニエの今までの苦労が目に浮かぶようだ。


「ええ、構いませんよ。あまり遅くならないようにね」


「感謝します、お母様」


「いいのですよ。昼食は外で頂きますか?一旦屋敷へ戻るなら、ネネネに用意させましょうか」


「うーん、せっかくなら外で食べようかなあ」


「わかりました、ではネネネにそう伝えておきます」


 夫人はそう言って私たちに背を向けた。

 と、横を見ると、ユニエが何か言いたげな手と表情をしている。

 喉から声を出すのを躊躇ためらっているようだ。


 私はユニエを肘でつついて「甘えちゃいなよ」と耳打ちした。

 ユニエはグッと覚悟を決めるようにアゴを引いて、スっと息を吸って声を出す。


「お母様!」


 想像以上に気合いの入った声が出て、夫人も私も驚いてしまった。

 そんな私と夫人をよそに、ユニエは少しモジモジしながら、また声を出す。


「その、昼食なのですが……」


「?」


「わたくし、お母様の作ったスープを…頂きたく……」


 夫人がまた、驚いた顔をする。


「わたくし、あのスープがとても…だいすき…で…」


 ユニエの耳が上から下まで茹で上がっとる。


 夫人の様子も見ると、こちらも顔が赤らみ、目がうるんでいた。

 口の端は誰かに引っ張られているかのように横に伸びている。

 夫人はふところのハンケチーフで目頭と目尻を拭い、大きな声をあげる。


「ええ!ええ!とびきりのスープをお出ししましょう!」


「いえその、昔作っていただいたものが……」


「ああ、そうですね!そうですよね!ごめんなさい!直ぐに準備しましょう!ネネネー!ネネネー!居ますかー!?買い出しの付き添いをー…」


「僕が一緒に行こう」


「あなた!?」


 フォスタ男爵!なぜだかすごく久しぶりな気がする。


「仕事にかまけて娘の事を見てやれなかった私の罪、ちょっとでも償いをさせてくれないか」


「お父様、そんな…!」


「それに、たまには夫婦でなんでもない時間を過ごさないとね」


「まあ」


 そんなカンジで、フォスタ夫妻はイチャつきながら行ってしまった。

 ユニエは未だに顔が赤い。


「わ、わたくし、変われた、でしょうか……」


「……うん」


 ユニエの顔がパァッと晴れる。


「でも、急がなくていいよ。いきなり変わるのは、ちょっと痛いからさ」


「……はい!」


 私が挙手きょしゅをすると、ユニエは不思議そうに挙手し返す。

 そのユニエの手を、パンッと叩いて、祝福の意思を示した。


 ユニエも、パンッって返して、なんだか嬉しくて、2人で笑ってしまった。



 さあ、今日はめいっぱい遊んで、英気を養おう!


 しかしこの選択が、『恐怖!仮面の淑女軍団との闘い』に発展するとは思いもしなかった……!

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