25話:決戦当日!お嬢様の明日はどっちだ!?
決戦当日。
街は人で溢れ、道には屋台や芸人が立ち並んでいる。
楽団が愉快な音楽を鳴らし、至るところにポスター代わりの旗がはためく。
旗には『番外頂上決戦!お嬢様プロレスに突風吹き荒れる!王者交代あるか!?ソヴェラVSマト!』
……と、書かれている。
まるで、というかまさに祭そのものだ。
浮かれる人々をよそに、選手控え室のユニエはそわそわと忙(せわ)しない。
「飲料水、ハンケチーフ、財布、着替え……」
お嬢様におよそ似つかわしくない、大きめのリュックサックの中身を、ユニエは何度も確認している。
「落ち着きなよ〜」
と、私が言っても落ち着くはずもなく。
「だ、だって、国内最強が決まる闘いの渦中にいるのですよ我々!マト様が英雄的令嬢となるか、はたまた処罰の危機となるかの
「今更ジタバタしたってどうにもならないよ。むしろここで無駄な脳のエネルギー使ったってしょうがないしさ。やれるだけの事はすでにやったんだから、ドンと構えていようよ」
「マト様……大物ですね」
ふふん、とドヤ顔してみせる。
実を言えば、私だって本当にまったくドキドキしてないわけじゃない。
が、ユニエを落ち着かせる為には少しくらい演技してあげねばと思ってやってる。
それに、余裕の無い人ほど突然の事態に対応できないものだから、フリでも余裕持っていかなきゃ。
と、私は急に『ある用事』を思い出す。
「……そういえば、聞いてなかった」
「はい?」
「もし、私がこの闘いに勝っても、すぐに貴族と結婚できるわけじゃないし、住む場所が無いんだよね」
「そうですよね、でしたら落ち着くまで……」
「それで相談なんだけどさ……」
流石に図々しい相談するのは勇気がいる。
私は唾をごくっと飲んで言葉を続けた。
「私を、フォスタ家の、養子とかに……」
その一言にユニエの目がカッと見開いたけど、すぐにシュンと落ち着きだした。
「……そう言われましても……」
「いや、ごめん!そうだよね!聞かなかった事に……」
「養子を私の一存で決めるわけにも行きませんから」
「ああそっか!そうだね!私ユニエに何言ってんだか、ハハハ」
「でも」
「え」
「マト様がご希望でしたら、私からも、お父様お母様にお願いしてみます」
「……いいの?」
「ええ」
「ホントに?」
「ええ」
「なんで?」
「くどいですよ、マト様らしくもない」
「だって……」
「養子になればフォスタ家に住み続けても誰にも文句を言われませんし、大手を振って貴族社会で生活できますし。とても良い考えだと思います」
「いやでも、フォスタ家側にメリットが……」
「わたくしは、いえ、わたくしの心は、マト様に大きく救われました。マト様がいなかったら、わたくしは未だに、自身の『本当の弱さ』と向き合わず苦しんでいたでしょう。その恩義を、少しでもお果たししたいのです」
「ユニエ……」
「恩義だけじゃありません。率直に申し上げて、わたくしは、マト様ともっと一緒にいたいのです。マト様の生き方を、もっと間近で見ていたい」
他の人なら顔を赤らめて言いそうなセリフを、ユニエは真っ直ぐに投げかけてきた。
「……それは、私も……」
言葉を返す私の方がもじもじしてしまってる。
我ながら、色んな意味で恥ずかしい。
それを見て、ユニエは屈託ない笑顔を見せてくれた。
「それに、打算的な物言いですが、マト様がこの闘いに勝利し、フォスタ家の養子となれば、フォスタ家の権力も大きく変われるかもしれません」
「あ……」
「権力を得たからといって当家が何かをする訳ではないとは思いますが、少なくともアレグリッター家のような暴虐に対する抑止になれればと」
そっか、そうだよね。
なんだかんだ言っても権力はあるほうがいい。
私の勝敗に、私自身の、フォスタ家の、
いや、この国の貴族社会の今後がかかってるかもしれないんだ……!
控室をノックする音が聞こえてくる。
「マト様、お時間です。会場内へどうぞ」
とうとう、時がきた。
「ユニエ!私の両肩叩いて!」
「えっええ??」
「気合いを入れ直したいんだ!」
「分かりました!」
腰を落とした私の肩にユニエの手がそっと触れる。
そして、ユニエが軽く呼吸したあと、腕を大きく振り上げ──
パンっ!
と私の両肩に刺激を与えてくれる。
「元気、出ましたかっ!?」
ユニエのその真っ直ぐな瞳に、私はゆっくりと強くうなづく。
「ッしゃあ!!!行くぞーー!!!!」
何も怯えることはない、今はただ勝つのみだ!
たとえ、勝利の先になにがあろうとも──
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