12話:ララフェイド登場!アーシの苦悩
ララフェイドの登場に、私もユニエも、そしてアーシも驚いた。
「ララ姉様!なぜこちらに?」
「ただの様子見だがァ?てか、アーシこそなんでココにいんだよ。誰が偵察しろなんて言ったよ?んー?」
「あ、アーシは、ソヴェラ姉様の指示で……」
「ソヴェラ姉様が?はン、あの人の考えも分からんナァ」
ララフェイドはそこまで言うと、アーシの頭に手をポンと置いてグリグリ回しだす。
「マトって言ったっけ?そこまで危険視する奴でないことは、アーシに苦戦した時点で決まったようなモンだろうに。なぁ?アーシぃ……」
アーシはただ黙ってうつむき、ララフェイドのグリグリを受け入れている。
この『相手が抵抗しないと確信してやってる不当な腕力』。
見てて気分が悪くなる。
たとえ相手がアーシだとしても。
「様子見終わったならもういいでしょ、帰んなよ」
「ハァん?何イライラしてんの?姉妹のスキンシップに嫉妬しちゃったかナァ~?」
頭グリグリ回しの勢いが増していく。
「やめなって!」
「あらら、アーシちゃんよかったでちゅねェ~!敵さんから憐れんでもらえてェ~」
ララフェイドがニタニタと笑い、今度はアーシの腹をボフボフと膝でつついた。
ぶ、うぶ、とアーシの声が漏れている。
「いいかげんに…!」
と、私が前に出ようとした途端、ララフェイドは私達のいるリングに向かって走ってきた。
その勢いのままリングの端に足をかけてトップロープを掴み、ふわりと一跳びでロープを越えた。
あまりに軽やか。
おそらくこの軽快さがララフェイドの武器なんだろうな。
「文句があるなら口じゃなくて手ェ出してみろよ手ェ!」
ララフェイドは両手を使ったジェスチャーでこちらを煽ってくる。
手を出すつもりはない。
が、口は出してやろう。
そう思って1歩前に出ようとすると、ユニエが私をかばうように腕を伸ばし、間に割って入ってきた。
「ユニエ」
「オメーはお呼びじゃねェんだよ!どけ!」
しかしユニエは動かない。
「ララフェイド様、決闘前の練習試合をお望みなら、わたくしがお相手致します」
「話聞いてなかったのかテメー!呼んでねぇつってんだよ!」
「ユニエ……」
しだいに、練習していた周囲の施設利用者たちがざわめきだす。
「なんですの?喧嘩?」
「あれは、アレグリッター姉妹じゃないですか?」
「相手はフォスタ家の令嬢と…謎のお嬢様レスラーマト!」
「一触即発という雰囲気ですわ~」
「……ッち!」
ララフェイドは舌打ちをして
そしてこちらに向き直り、右手の親指を下にして首を横切るようにスライドした。
『くたばりやがれ』のサインだ。
そしてそのまま大きく足音を鳴らしながら練習場を出て行った。
「なんだったの、アイツ」
私がボヤくと、ユニエが安心したようにふうっと息を吐く。
「さすがに、ここまで人目があってはやりにくかったようですね」
「どういうこと?」
「このような事はあまり話したくないのですが、ララフェイド様は勝利の為なら手段を選ばぬお方と有名です」
「んげ」
「パンチ、凶器、急所、場外乱闘、不意打ち、襲撃。使っていない手段を探した方が早いとすら噂されているのです」
「うげげ、筋金入りの悪役(ヒール)ってわけね」
「はい。何をしてくるか分からない以上、決闘前に触れ合わせるわけにはいかないと思い、庇わせていただきました」
「守ってくれてたんだね、ありがとう」
「いえ……」
「………フン!どの道負けるって判断しただけのコトっしょ!」
悪態でやっと気づいた、そうだアーシはまだ退いていなかった。
「あーバカバカしー!」
そう吐いて背を向けるアーシに、ユニエはリングから降りて声をかける。
「アーシ様」
「なに」
「よろしいのですか」
そう聞かれたアーシはクアッと怒り満面となり、ユニエにつっかかる。
「は!?なにがよろしくないって言いたいんだよ!!主語言え主語!」
ヤバいヤバイ!
私も慌ててリングを降りたが、その間二人は睨みあったまま一言も声を発しなかった。
あまりに二人が動かなかったので、私も割って入るのを躊躇ってしまった。
ユニエの眼はアーシの眼をまっすぐに捉えている。
「あーしなんかよりもっともっと強いララ姉様の後ろには、ララ姉様より強いレイデ姉様が、その後ろにはそれより更に強いソヴェラ姉様がいる!逆らった所で結果なんか見えてんだよ!だったら!姉様の権威を使ってワガママ放題に生きる方がよっぽど利口な生き方じゃんかよ!アーシは
アーシは罵倒を吐き切って、肩で息をしてる。
ユニエはそれでも表情すら変えずにアーシをただ見つめている。
「……あ”アッ!!」
アーシは床を2度ほど踏み鳴らしてから、ドカドカと去ろうとする。
「どけ!低俗ども!あーしはアレグリッター家のアーシだぞ!わかってんのか!」
喧騒を眺め続けていた周囲の人が、サッと出入口までの道を開けるように引いていく。
きっとアーシはああやって、威張り散らかす事でしか自分の正当性を示せないんだ。
今までもそうで、これからもきっと。
「どうにか、してあげられませんでしょうか」
「本人にどうにかする気が無きゃあ、ねえ」
私もユニエも、ため息を吐いた。
「練習、再開しよっか」
「そうですね。マト様の勝利で、何かが変わればよいのですが」
……人を変えるほどの力なんて、
私もプロレスに憧れていた頃は、そんな力を信じていたっけか。
今となっては、もう分からなくなっちゃった。
トレーニングを終えた、その日の夜。
フォスタ夫人──ユニエのお母さん──に声をかけられた。
「どうかユニエを、助けてあげてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます