第6話 それでも彼女は気にしない。


 ヤバい。

 俺は、きらりを見た。


 すると、きらりは首をかしげて、不思議そうに右人差し指を唇に当てた。


 「そうくん。どうしたの……? あっ。分かった!! ウチのお名前のことでしょ?」


 「う、うん。重ねがさねごめん」


 「ウチね。自分の名前、大好きだから大丈夫。きらりっていうお名前はね。お父さんがお母さんにプロポーズした時に、満点の星空で。星がキラキラしてたから、つけてくれたんだって」


 「そうなんだ。ロマンティックなプロポーズだね」


 おれは自分を棚上げしてることに気づいた。


 ごめんね。きらり。

 おれのプロポーズは人違いで。しかも電車だったよ。


 きらりは、そんな俺に気づく様子もなくつづける。


 「お父さんとお母さんが沢山考えてつけてくれた名前だから、ウチ気に入ってるの。みんなすぐに覚えてくれるし」


 きらりはニコニコ顔で続けた。


 「みんなが沢山名前を呼んでくれて、その度に、今はもうお話できないお父さんとお母さんに呼ばれてるような気がするの。それにね、ひらがなだから、間違われないんだよ?」


 おれは、初めて聞いた時に、きらりの名前を地下アイドルみたいだと思ってしまった。そんな自分が恥ずかしい。


 俺はどうだろう。


 俺は、颯太という名前が昭和っぽくて嫌いだった。颯は無駄に画数が多いし、太は太っているみたいだと思っていた。


 だから、紫音(しおん)のことを羨ましくて仕方なかったことを覚えている。


 『きらりの方が年下だけど、俺の方がガキだ』


 きらりは自分のことを色々と話してくれた。

 だから、おれもアノ事を話すことにした。


 できれば、ラストまで避けたかった妹問題。


 「あのね」


 「ん?」

 きらりはこっちを見た。


 「実は、うちの妹。きらりと同じ高校なんだ……」


 きらりは飛び跳ねて目をまん丸にした。


 「えーっ。えーっ。一年生でしょ? なんで言ってくれなかったんですか?」


 いや、だって。

 アイツが絡むとロクな事にならなそうなんだもん。


 俺が黙っていると、きらりは興奮気味に続けた。


 「そうくんの名字は山西だから……、山西 紫音!! それって、1年A組の深窓の令嬢の子ですよ!!」


 おいおい。

 深窓ってなんなんだよ。 


 あいつ、いったいどんな高校生活を送ってるんだ?


 うちは至って一般家庭だぞ?


 「いや、深窓かは知らんけれど、そいつだと思う」


 きらりは少し早口になった。


 「そうくん!! わたし噂の令嬢さんとお話してみたかったんです。お兄さんの話したら、きっと食いついてきますよね?」


 「いや、やめたほうが……。きっと、俺もきらりも泣かされることになるよ……」


 きらりは、俺の背中をポンと叩いた。


 「またまたぁ。あんな可愛い子がそんなことする訳ないじゃないですかぁ」


 困った。

 この人、あの野蛮人とコンタクトをとる気満々みたいだ。


 はぁ。


 ……ほら、名前出しただけで、面倒なことになってきてる。だからイヤだったんだよ。

 


 

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